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気分上々でお迎えに向かっていると、前から北条先生が歩いて来た。すれ違う生徒一人一人に愛想良く笑って挨拶している。
「相良、気を付けて帰れよ。さようなら」
「先生、さようなら」
またあとで「おかえり」って私が出迎えることになるんだけどね。
先生は保科くんのクラスは担当していないのかな? 帰ったら聞いてみようかな。
8組の教室にはほとんど人が残っていなくて、女子2人と会話中の保科くんの姿を見つけた。ギャル系の華やかな子達で、ボディタッチが多く見えるのは気のせいじゃないよね? 保科くんも慣れた様子で……これはうーん。
「あ、相良さん来た」
声を掛ける前に気付いてくれた。
「帰るわ」とスクールバッグを手に取り、こちらに近付いてくる。女子2人に値踏みされてるような視線を向けられてるけど、なーんか嫌な感じだな。
「相良さんってどっち方向? 何で通学してる?」
「駅の近くの住宅街だよ。歩いて15分くらいかな」
「近いんだ、いいね。俺は電車で30分掛かる」
じゃあ、駅まで一緒に帰れるかな?
左側に私が立って歩く。購買のパンは何が好きとか美味しいラーメン屋さんの話しとか他愛もない話をするけど、いちいち声に聞き惚れちゃう。
「相良さん……あ、名前で呼んでって言ってたね。凪でいい?」
「うん!」
「俺はシロでもなんでも好きにしていいよ」
シロくん。名前呼んでくれるの嬉しい。
感情駄々漏れでニコニコしていたら、肩を抱き寄せられて耳打ちされた。
「俺を見る凪の目がとろーんとしていて可愛い」
声にぞくぞくした。耳元で聞くとやばい。
「うわ、えっろい顔してる」
満足げに口角が上がったのを見て、胸がきゅんとなる。
「お互いフリーならさ、クリスマス一緒に過ごす?」
「うん!」
まさかのお誘い。進展の早さに手慣れてるなと思うけど、嬉しいからいいや。
「連絡先交換しよう」とお願いしたら、メッセージアプリとSNSを教えてくれた。
「あれ? シロくんってバンドやってるの?」
SNSにライブの告知が書いてあるし、アイコンもギターだし。
「うん、軽音楽部でたまに知り合いのところでライブもしてるから」
「それ行きたい! シロくんが歌う?」
歌ってほしい! 想像するだけで堪らないんだけど。しかし、私の期待は裏切られる。
「俺はボーカルじゃないよ。ギター担当」
「……」
「あ、コーラスはたまにする」
「!」
ボーカルじゃないのは残念だけど、コーラス!! いいね、いいね!
「今度チケットあげる。おいで」
「絶対行く!」
先日までのクリぼっちへの悲観はどこへやら、浮かれる予定しかない。
このまま彼女にしてくれないかな、なんて思っちゃった。シロくんのこと好きになってると思う。
“女にだらしない”っていうのが、薄々感じられていて気にはなってるけどね。
付き合ってはならない3Bなのにも「それっぽい」と思ちゃうけど、久しぶりに誰かに惹かれて楽しい気持ちになれてる。この気持ちを無視するなんてもう無理だ。
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