声を聞いた途端に興味の無かった外見も魅力的に思えてくる。気だるげな声と雰囲気に違和感がない。この声のための外見だとすら思える。


「おい、起きろ。帰るぞ」


ああ、魂が震えそう。生で聞くと昨日以上の破壊力がある。


「あれ? 保健室? え?相良さん!?」


揺さぶられて目が覚めた黒田くんは、真っ赤になりながら慌てている。

「気がついて良かったよ」と微笑んだら、また泡を吹いて倒れた。えっ、嘘でしょう。


「黒田くん!?」

「大丈夫、起こす」


乱暴に保科くんに頬を叩かれた黒田くんは目を開けた。


「ごめん、また倒れたようで……」

「いい加減女子に慣れろよ」

「高校入るまで男子校だったから無理」


気心知れた仲なのだろう。そんな雰囲気が伝わってくる。


「じゃあ、私は帰りますね。黒田くん、お大事に」

「あ、あ、ありがとうっ!」


ぷるぷると小動物のように震えている。

すれ違う際に保科くんを見上げる。並ぶと思ったよりも身長があった。175cmくらいかな?


「保科くん、さようなら」

「さようなら」


反射的なものだろうけど答えてくれた!

ああ、声が腰にくるけど頑張って踏ん張る。

もっと一緒にいたいけど、これ以上は刺激的すぎる。今日はまだ心の準備が出来ていなかった。

また明日会いに行こう。




私は2組で、保科くんのいる8組は別校舎にある。校舎が違えばなかなか縁がないので、彼のことを知らなかったのも不思議ではない話だった。ほとんど使ったことがない渡り廊下を進み、少し迷いながら1年8組を見つけた。


教室の中を覗いて見れば、男子に囲まれた保科くんを見つけた。雑誌を指差して何か話しているようだ。盛り上がっているようで楽しそう。


どうしようかな?

近くにいた女子に呼んで貰えないかと頼むと「えー、またー?」と含んだ言い方をされた。よくあることなのだろう。


保科くんと周りの男子がこちらを見たので軽く会釈をしておく。

みんな目を丸くしていて、誰だろうと思っているのかな?


「昨日の……」と保科くんは近くまでやってきて呟いた。少し掠れていた声に背中がビリビリした。そんな声も良い、やっぱりこの声が堪らなく好きかも。


「えーと、名前なんだっけ?」

「相良凪です。凪って呼んでください」


呼ばれたい。身長差から自然と上目遣いになりつつ微笑む。


「保科くんには彼女はいますか?」

「今はいないけど?」


それが何かと言いたげな表情だけど、私の気持ちなんて見透かしているのだろう。満更でもないのかな?


「一緒に帰りたいです」


好意は隠しません。あなたのことが知りたいです。

視界の端に盗み聞きしていた男子たちがニヤニヤしているのが見えた。そちらに意識が向いていた私の耳に「いいよ」の返事が届く。やったー!


「授業が終わったら迎えに来ますね」


スキップしたい気持ちを抑えて教室へと帰る。今は彼女もいないみたいだし、幸先良いのでは!?

次は名前を呼んで貰えるよう頑張ろうっと!


保科くんが私に向けて喋った一言一言を思い出しながら、早く時間が過ぎて放課後になれば良いのにと思った。

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