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翌日の昼休み、私は放送室の前で待ち伏せをしていた。
いつものお昼の放送は先程終わったので、そろそろ出てくるはずだ。狙いどおりドアが開いた。
「こんにちは! 黒田くん」
「ええ!?
「あれ? 隣のクラスだけど私のこと知っていてくれたんだね」
「それは相良さん可愛いし、有名でしょう」
スポーツ刈りの頭を掻きながら黒田くんは視線を斜め上に向けている。そこには、染み一つ見つけられない綺麗な天井しかない。
「何を見てるの?」
「わぁ! ちょっと! それ以上は近寄らないで!」
後退っていく黒田くんは叫ぶ。
「女子に免疫ないから、相良さんみたいな子に接近されると不整脈みたいになって倒れちゃうんだよ!」
「不整脈……?」
いまいちピンと来ない例えに首を傾げると「そういう動きもやめて!!」とお願いされた。よく分からないけど、黒田くんが女子の一挙一動に照れる人だとは分かった。
「……それで、相良さんは何で俺に声を掛けたの?」
視線は合わせてくれないようで、横を向きながら問われる。耳が真っ赤だ。
「昨日の放課後、マイクテストしていたのは黒田くんだよね?」
「ああ、そんなこともあったね。あの時間に学校に残ってたの? どうかした?」
「一緒にいた人って誰かな?」
「え?」
「黒田くんと会話してた人いるでしょう? その人に会いたいの」
今もあの声が頭から離れない。思い出しては、うっとりと息を吐く。
「あの時一緒にいたのは8組の
「下の名前は?」
「真白、保科真白だよ。みんなにはシロって呼ばれてる」
ほしなましろくん。どんな人だろう?
「ありがとう。私、あの声に恋しちゃったみたいなの」
「ええ!?」
秘めた思いを口にすれば、黒田くんが勢い良く近付いてきて肩を捕まれた。おお?
「ダメだよ、相良さんみたいな子がシロに近付いたら! シロは友達としてはいいけど、泣かされちゃうよ!?」
「うん?」
「分かってない顔もめちゃくちゃ可愛いけど、女にだらしないからアイツ!」
「え、そーなんだ」
それはマイナス要素だ。誠実な人がいいに決まってる。でも、あの声が忘れられないんだよ……。
「はっ! 俺は相良さんになんてことを……!」
肩に触れていたことに気付いた黒田くんは真っ赤な顔をして、「ごめんっ」と呟いて大きな音を立てて倒れた。気を失っている。
「黒田くん? 誰か!誰か助けてください!」
頭を打っていたら大変だ。慌てて私は人を呼びに行った。
心配で側に付いているけど、保健室のベッドに横たわったまま目を覚まさない黒田くん。もう放課後になってしまった。
保健室の先生によると「この子よくあるのよー!いつものことよ!」と笑っていたけど、びっくりしちゃったよ。
慣れた友達が迎えに来てくれるそうなので、それまでは待っていよう。
保科真白くんは“女にだらしない”という言葉に胸がモヤモヤする。彼女がいるのかな? やっと気になる人が出来たのに……。
保健室の扉がゆっくりと音を立てないように開いた。先生が「お迎え来たよ」と教えてくれたので、この人が黒田くんのお友達か。
身長は大きめで、肩につく長髪は真っ黒だけどスタイリングされていて重くない。自分の顔に似合うものが分かっているんだろうな。鼻筋が通っていて、こんなに綺麗な横顔はなかなか見ない。誰がどう見てもイケメンというやつだ。
こちらに気付いたようで軽く会釈をされた。
「迷惑かけたな、ありがとう」
体がびくんっと跳ねる。
嘘、この声って……
「……ほ…しな、くん」
噂の彼だった。
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