エピソード6 当店、迎撃の用意あり

第1話 儂の最高傑作というべきものが成った

「マスター、この間言ってた狩りのお誘いにきましたっす!」


 早朝、走りこみから帰ってくると元気いっぱいのアインズと出くわした。

 後ろにはもちろんツヴァイとドライも構えていてやる気十分だ。


「で、どこまで行くんだ? 場所に応じてそれなりに準備もしないといけないだろ?」


「おお、すっかり冒険者の顔っすね~。今回は『スフェイア遺跡』で大物狩りっす!」


 敵ランクはB相当らしく俺達Cランク四人でならという判断のようだ。

 つまり明らかな格上ボスとの戦闘となるわけで、狩りの日となる来週までにしておきたいことがある。


「そのはぐれ魔族――グレイスはそう言ったのね?」


 あれから店はすっかり落ち着きを取り戻し、なおかつ客足もぐんぐん伸びていっている。

 そうなると現状で捨て置けないのが、魔族が人の住処を襲うかもしれないという話だ。

 とはいえこれを公にしても誰にも信用されないだろう。

 ひとまずはアリスフィアに相談をしているところだ。


「ああ、間違いない。問題はいつどのようにして襲来するかなんだがな」


「こればかりは言い方が悪いけれど、ことが起こってからでないと動くこともできないわ」


「ギルドに持っていっても無駄なようだしな。まあ、ひとまずこれは置いておくとして」


「本題が別にありそうな言い方ね?」


「来週格上討伐に誘われたんだが、今の武器じゃそろそろ心もとないと感じててな。そこでこの間言ってた鍛冶屋を紹介して欲しいんだ」


「確かにいい頃合かもしれないわね。私の紹介だと言えばすぐに取り掛かってくれるはずよ」


 そうしてアリスフィアから地図を受け取り、鍛冶屋があるという隣街へ向かった。

 店は街の商業区に位置しているらしく、前回勝負をしたフラールも同じ区域にある。


「あんたがグレディアンか?」


 店に入ると、がっしりとした体型の男が巨大なハンマー片手に屈んで作業をしていた。

 額には大粒の汗が光っている。

 彼は俺に気づくと手を止めハンマーを地面に勢いよく置いた。


「いかにも。はて、ここいらでは見ない顔だな。何用か?」


「俺はクレハだ。アリスフィアから紹介を受けて来たんだが、あんたに武器を作ってもらいたくてな」


 そう言うとグレディアンは俺の腰元の剣に視線を移した。


「確かにそれは儂の打ったものだ。お主はさぞかしあのものに認められているのだろうな」


「フィアは一応剣の師匠でもあるんだ。それで、作成してもらうことは可能か?」


「無論。早速だがクレハの力量に見合ったものを見繕ってやるとしよう」


 近づいてきた彼から両肩を痛いくらいに強く掴まれる。


「な、なんだ?」


「いいから大人しくしていろ。儂はこうすることで、その人物に適応する得物を生み出すための情報を得ているのだ」


 あの鑑定人の眼帯女といい、職人には変わった能力が備わってるようだな。

 そう思いながら待っていると手が離れた。


「終わったのか?」


「すぐにでも取り掛かりたいところではあるが、ちょうどそれに合った鉱石を切らしておってな。他でもないお主が採ってきてはくれないか?」


 グレディアンが言っていた採掘場所には心当たりがある。

 それは以前Cランクに上がるために立ち寄った廃坑で、道中のベアルはすでに俺の敵ではない。

 早速現地の採掘ポイントまで辿り着き、受け取っていたつるはしを取り出す。

 当然こんなものは使ったことがなく、振り下ろす度に手に痺れを感じ気が遠くなる。

 時間はそれなりに掛かったがようやく一塊を手に入れ街へ戻った。


「あら、クレハ様ではありませんの! そのような物騒なものを持ってお出かけ?」


 ちょうどフラールのある通りに差し掛かった時だ。

 こんな喋り方をするのはただ一人しかいない。


「なんだシアか。その様付けはいい加減やめて欲しいんだけどな」


「まあまあそう仰らず。ひょっとして、わたくしが恋しくなったのではありませんの?」


 彼女はふわりと髪をかきあげて不敵に微笑んだ。


「残念ながら不正解だ。その後店は順調か?」


「あれからはそちらにならいまして、店員を向上心のあるものに総入れ替えしましたわ。ですけれど、店長の枠はいつでも空けていましてよ!」


「何度でも言おう。絶対にできない相談だな!」


「では何度でも申し上げます。わたくしは決して諦めませんわ!」


 俺達は互いににやりとしてそのまま別れた。


「クレハよ、よくぞ戻ってきた。これより主の力を大きく引き上げる逸品を叩き上げて進ぜよう」


 持ち帰った鉱石を渡すとグレディアンは豪語した。

 その物言いに否が応でも期待をしてしまう。


「普通こういうのは相応に時間が掛かるんじゃないのか?」


「ふ、この程度造作もなきことよ。さあ……儂の手捌きをとくと見るがいい」


 彼は鉱石から金属を取り出し、加熱しながらひたすらにハンマーで打つ。

 剣の形に整えると再度まんべんなく叩いていき、最後に炎燃え盛る窯の中に入れた。

 この間五分も経っていないわけで、俺は言葉どおりの早業を目にしていた。


「儂の最高傑作というべきものが成った。クレハよ、またなにかあれば来い」


 グレディアンは上機嫌で誇らしげな表情を浮かべ店の奥へ下がっていった。

 俺は渡された剣を高く掲げる。

 これまでのロングソードより一回りは長く、その刀身はひときわ輝いていた。

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