エピソード5 エピローグ
新たな”親子”
虹色の
いまだ目覚めないジラルドに対し、焦りを
だがそれを見かねた皆に止められ踏みとどまるに至った。
それからは順番を決め、代わる代わるジラルドの様子を見るようになっていく。
ちょうど今日は俺がつきっきりで見守る日だ。
店の営業が終わり、寝室に向かう頃にはすっかり夜もふけている。
静かに寝息を立てるジラルドの手を握る。
置かれた状況はまったく違うが、母親を看取った時とどことなく似ているな。
気づけば椅子に座ったまま眠りこけていた。
「クレハ君」
その声が聞こえると俺の目はすぐに反応して開いた。
ジラルドはそんな俺を見て微笑んでいる。
「ジラルド、おい!」
立ち上がり肩を揺らす。
「僕は一体どうなっていたんだい?」
「あんたはずっと眠ってたんだ。それより体の調子はどうなんだ?」
「そうか……沢山眠ったせいだろうね。このとおり元気そのものだよ。困ったことにお腹も空いてきているしね」
体を起こしおどけてみせるジラルド。
しばらくは安静にして過ごし、数日後彼は店に復帰を果たした。
「別にここでなくてもよかったのに」
「いや、ここであることに意味があるんだ」
あの日できなかった祝勝会と称して、俺はジラルドを飲みに誘った。
場所はもちろんこの店のカウンター。
完全に貸切にしていて店内には俺達二人のみだ。
「それにしてもフィア君もお喋りだね」
席に座るジラルドはどこか嬉しそうに悪戯っぽく笑顔を作る。
「あいつもあいつでさ、あんたのことが心配だったんだよ」
カウンターの内側に立つ俺は、言いながら彼のグラスに酒を注いだ。
「もちろんわかっているよ。遅かれ早かれ、皆には話すつもりでいたからね」
「そうか」
続けて自分の目の前のグラスにも酒を注ぐ。
「おや、君は飲めないんじゃなかったのかい?」
ジラルドは首を傾げた。
「俺もいい加減、言い訳してばっかりなのはうんざりでね」
「だったらこれをお酒のあとに飲むといいよ。酒の回りが大分緩やかになるからね」
コップ一杯の水を差し出される。
「じゃあいくか……!」
「乾杯」
互いに掲げたグラス同士がチリンと音を立てた。
俺は一口、二口と飲んでみる。
この程度ならまったく問題はない。
想像でしかないが、父親と一緒に飲むってのはこんな感じなんだろうか。
「意外といけるものだろう?」
ジラルドは楽しげな表情だ。
「ああ、こんなことならもっと早く知っとけばよかったな」
それきり会話という会話もなく、しばらく黙々と飲み進める。
必要以上のことは喋らない。
いや、喋れない。
男同士のやり取りって大体こんなものだよな。
そのはずだったのだが、俺は酔い始めているに違いない。
「俺にはもう父親がいないんだ。それで……なんていうかだな。あんたのこと親父って呼んでみたくなった。もちろんいつもじゃなくて、一緒に飲む時だけで構わないんだが」
なんて言葉を頭を搔きながら口にしてしまっていた。
「僕なんかでよければ喜んで」
「これからも元気でいてくれよ、親父?」
途端、初めは平然としていたジラルドは俯いてしまう。
彼からはしゃくりあげるような声と鼻をすする音が止まない。
俺はただ、カウンター越しにその背中を優しく叩いた。
この夜俺は美味い酒の存在を初めて知った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます