第8話 だがお前の強さは気に入ったぞ
翌日、俺は支度を済ませると日も昇りきらないうちに店を出た。
まずは一つ目の依頼場所である廃坑だ。
館で手に入れた新しい防具に身を包み、ロングソード片手に最奥を目指していく。
視界が悪いとの情報を得ていたのもあって、用意しておいたランタンに火を灯す。
いくらかはマシにはなったものの普段とは明らかに薄暗い。
進みがてらベアルを次々仕留めていくと大型を発見した。
「ん、おかしいな」
剣を交えてすぐにわかったのは歯ごたえのなさだ。
一振るいするだけで、相手の体力を大きく削っているだろうことが一目瞭然だ。
もちろん威力攻撃を出すまでもなく、結局ものの五分もかからずに討伐は終わった。
そして二つ目の依頼で訪れた火山地帯でもそれは変わらなかった。
もしかすると、前回の館でのレベルアップがいい方向に働いたのかもしれない。
これはCランクも近いかもな。
意気揚々と今日最後となる三つ目の依頼場所に向かうことにした。
そうして見えてきたのはカンバスの荒地で、ここに対象のベアルが潜んでいるという話だ。
だがそれを見つけられないまましばらく彷徨い続けた。
段々疲労が溜まってくると、一旦岩場に腰を落ち着け水筒の水で喉を潤す。
それは一息ついて立ち上がろうとした瞬間だった。
「なんだ!?」
何者かが無言のまま忍び寄ると、
俺はすぐさま剣を抜きそれに応じる。
相手は人型のベアルというよりは、耳が尖り肌が黒いところ以外は俺達と近い見た目をしている。
聞いていた討伐対象とは姿が違いすぎている。
「おい、話は通じるか? 俺にはお前と敵対する意思はない!」
それでも問いかけには答えず攻撃の手を緩める様子はない。
攻守が入れ替わりながらも切り結んでいき、時間だけが過ぎていく。
いつまでもこんなことをしている暇はない。
ここは無理にでも止まってもらうしかないな。
MPを残り1にし、渾身の力を込めて振り下ろすも一度受け止められ睨みあう。
だが刀身同士がカチカチと音を立てるとすぐに、相手は背後の岩まで吹き飛んだ。
「これで勝負あっただろ。で、お前はさっきから何がしたいんだ?」
すぐに近づいていき、切っ先を喉元に突きつけながら出方を伺う。
「お前、追っ手ではないのか……?」
それは低く唸るような声色で、若々しい見た目と反して違和感を覚えるものだ。
「何の話だよ。俺はここに生息している大型のベアルを討伐しにきただけだ」
俺は刀身を鞘にしまい、相手に手を差し伸べた。
「本当か? おれを騙そうとしているのではないだろうな?」
男は俺の手を振り払うとゆっくりと立ち上がる。
「別に信じなくてもいいけどな。ただ、俺は急いでるんだ。お前と遊んでる暇なんて一分たりともない」
「お前は人間なのだろう。名をなんと言う?」
「クレハだ。その言い方だとお前は人じゃないってのか?」
「魔族と聞けばわかるはずだ」
「魔族だと……?」
腕組みをして思い返すが、この世界に来てからそんな言葉は一度も聞いたことがない。
「ふん、余計なことを言ったな。だがお前の強さは気に入ったぞ。また会うことがあれば手合わせ願おうか」
「だからそんな暇はないって言ったろ」
「お前の都合など知ったことか。覚えておけ、おれはグレイスだ。ではな!」
上機嫌と言わんばかりの笑い声を残したまま、疾風のように去っていった。
まったく、自分勝手なやつだったな。
彼は自分を魔族と言っていたが、ベアルなどの魔物とはどういう関係性にあるのだろう。
気を取り直して討伐任務を再開したところ、奥地の方でベアルの屍が見つかった。
状況的にグレイスか他の冒険者が仕留めたか?
ひとまずその件も含めて報告してみよう。
「お疲れ様です~。やっぱりクレハさんならやっていただけると思っていました!」
開店少し前の時間にギルドに帰還すると、リンスさんが出迎えた。
「いや、三つ目の依頼なんだが俺は関与してないんだ」
「それはどういうことでしょう? でも、討伐の証は確認していますよ」
「それが――」
グレイスについてとベアルが倒されていたことを話す。
「魔族ですか……。失礼ですけど、それは記憶違いなどではなくてです?」
「いや、確かにそう聞いたんだ」
「うーん、そうですか。基本的に、魔族は私達の前に姿を現さないものなんですよ。あ、いえ。クレハさんを疑っているわけではなくてですね~」
彼女は身振り手振りで自らの言葉をフォローする。
ギルドとしては、たった一人の証言だけでは信じるに値しないといったところか。
「もしかしたら聞き間違いだったのかもしれないな。今のは忘れてくれ」
ひとまずこの件は置いておくか。
俺は今回の討伐が認められCランクへ昇格を果たした。
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