第5話 こ、こんなに可愛いのに付いてるなんて……

「それで、ユーディーちゃん。この人はなぁに?」


 ここはユーディーが以前給仕をしていた喫茶店。

 彼とともに話し合いの席についたまではよかった。

 だがそれと同時に、俺は初対面のはずのミィスからゴミを見るような視線を向けられている。


「だから言ったよね。働いてるお店の店長さんだよぉ?」


「どうしてこの人と一緒なのか聞いてるの」


「それも言ったよねぇ。あたし今すごく困ってるって?」


「私はユーディーちゃんさえいれば困ることなんてないし、それは関係ないでしょ」


 見事に噛み合っていない会話が繰り広げられている。

 ユーディーが気の毒になってきて、俺は半ば割り込む形で声を上げた。


「店に来てくれるのはありがたいんだが、ユーディーの仕事終わりを待ってたりするそうじゃないか。さすがにそれはやりすぎだとは思わないか?」


「あなたには関係ありません。ねえ、この人本当に店長? もしかして弱みを握られてるんじゃない?」


 ミィスは一瞬だけ俺を見るとすぐにユーディーに視線を移した。

 ユーディーは大きく溜め息をつく。


「あたしは普通に接してもらえるだけでいいんだけどなぁ」


「私、普通にしてるつもりなのに……」


 二人は黙り込んでしまった。

 これはどこまでいっても平行線になりそうな気がする。

 なんとか解決に向かわせたいが、下手に角が立つような言い方をすると後に影響しそうだ。


「そこまでユーディーのことが好きなのか?」


 話題をずらしてなにか糸口を掴んでみよう。


「あなたは何を言ってるんです? そんなの当たり前じゃないですか」


「どういうところがだ?」


「あなたの目はどこまで節穴なんですか? もちろんすべてですよ」


 ミィスは冷ややかな視線と突き刺すような言葉でダメージを的確に与えてくる。

 ある意味、人間の方がベアルより手強い気がするな。


「なら具体的に一つ挙げるならどこがいいんだ? それだとユーディーには伝わらないだろうよ」


「そうですね。強いて言えば、私の理想とする女の子像を満たしてるからですけど?」


「そうだとしてもユーディーは男だからな。理想と言って追い回されても困るだろ」


「は……? ユーディーちゃんが男なはずないでしょう!? 言うに事欠いてそんなでたらめを言うなんて、やっぱりあなたじゃお話になりません!」


 ミィスは唐突に取り乱しテーブルを叩いた。

 これは真実を知らない可能性が高そうだ。


「お前、言ってなかったのかよ」


 俺は半ば呆れ気味にユーディーに視線を向ける。


「だってぇ、聞かれなかったし」


 事もなげに彼は口にした。


「ねえ嘘だよね? 冗談と言ってユーディーちゃん!」


「じゃあ証明するからこっち来て。クレハさんも見るぅ?」


「いや、遠慮しておこう」


 ユーディーはミィスにだけ見えるように服を捲りあげた。

 証明するにはそれが一番手っ取り早そうだな。


「こ、こんなに可愛いのに付いてるなんて……」


 当然ながらミィスはショックを受け、呆然としていた。


「まあ、そういうことなんだよ。理解してもらえたか?」


「はいとっても。店長さん、失礼な態度を取って本当にごめんなさい。私目が覚めました」


 ミィスは立ち上がり頭を下げた。


「そこまでしなくていいんだ。ちゃんとわかってもらえたならそれで問題ない」


「ありがとうございます。ねえユーディーちゃん、これからはお友だちとしてお話しできたらって思うんだけど」


「え、でもあたし女の子じゃないよぉ?」


「ユーディーちゃんを見て考えが少し変わったの。これからは迷惑にならないようにするからお願い!」


「うん、そういうことならいいよぉー」


 ユーディー達は笑顔で握手をした。


 それにしても二人の関係性がよくわからなくなってきたな。

 まあ今はとにかく円満にいきそうでなによりと見るべきか。


「クレハさん、ありがとうございましたぁ。今日のお礼をしたいのであたしのお家に寄っていきませんかぁ?」


「今日の営業開始までに間に合うなら構わないぞ」


「はぁい、すぐそこなので。じゃあいきましょうかぁ」


 そんなわけで彼の家に招待されそのまま部屋に通された。

 なんというか全体的にファンシーな色合いで、男特有の殺風景な空間とはほど遠い。

 それにどこかいい匂いもするし、完全に女の子が生活していてもおかしくない雰囲気だ。


「パパとママは今出払ってて。本当は会って欲しかったんですけどねぇ」


 手作りだというケーキと紅茶をテーブルに置いてユーディーは笑顔を見せる。

 複雑な環境にありながらも、どうやら親子関係はねじれていないようだ。


「思ってたより仲がいいんだな?」


「ええまぁ。というよりは、あたしが変に反抗しなければ皆笑顔でいられますしぃ」


 くすくすと笑うユーディーを見て、俺はもとの家族のことを思い出していた。

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