第3話 な、上からだと!?

「俺にはお前が必要なんだ」


「ええっ!? あ、あの……クレハさん?」


 フェリスは頬を赤く染めている。


「なんだ、熱でもあるのか?」


「いえ、急なことでびっくりしてしまいまして。もしかすると幻聴だったのかなぁ、なんて」


「だったらもう一度言うぞ。俺にはお前の治癒魔法が必要だ」


「あはは、ですよねえ~!」


 フェリスは大笑いしたあと溜息をつく。

 以前にもこんなやり取りがあった気はするが置いておこう。


「ふむふむ、そのお屋敷に行こうと思ってるんですね」


「二人でなら行けるかもしれないって話なんだ。フェリスは怖いものとかは平気か?」


「多分大丈夫ですよ。目に見えないものとかじゃなければですけど……」


 アリスフィアに聞いていた場所を目指していくと、薄気味悪い雰囲気の漂う館が見えてきた。

 敷地内に入るとフェリスは立ち止まった。


「どうしたんだ?」


「ここ、全体的に結界が張られていますね。まるで外に溢れ出ないよう蓋をしているみたいです」


「そうなると中はとんでもないことになってそうだな。体勢を整えておこう」


 俺達はそれぞれ武器を構え目配せをする。

 フェリスが支援魔法を掛け終わるとお互い頷き、俺は館の扉を押した。

 ギィと古びた音を立てて開いた瞬間。


「へっ、待ち伏せってわけかよ!」


 異臭を放つ人型のベアルが襲ってきた。

 すぐさま、袈裟斬りからの斬り返し横薙ぎで仕留め内部への侵入を果たす。

 少し遅れてフェリスがあとにつく形だ。

 周囲を見渡すと、左右から二体ずつゆっくりとした速度で迫ってきている。


「聞いていたとおり不死ばかりですね。ここではわたしも一緒に攻撃します!」


 フェリスの杖が光り出した。

 対不死用の魔法というわけか。


「ああ、まずはこっちから片付けよう!」


 俺は比較的近い左側の二体へと駆けていく。

 一体を切り伏せるのと同時に隣のベアルが消滅する。

 同じように右の二体も片すとこの場は一旦落ち着いた。


「やるじゃないかフェリス!」


「ふふ、アンデッドならお任せください!」


 彼女は得意げににっこりとダブルピースをした。

 あの時とは違い、苛立たせるような雰囲気を出さなくなったのは進歩だと言えるだろう。

 さておき俺達は通路を進む傍らベアルを捌いていく。

 この辺りはまだまだ余裕がありそうだ。


 調子づいて見えてきた広間の扉を開けると、これまでよりも動きの速いベアルが俺達を出迎えた。

 明らかにランクが高くなった印象だ。

 すぐさま飛び掛り何度斬っても起き上がってくる。

 下手に手応えはあるだけに相当厄介な相手だと言える。


「クレハさん、これでどうですか?」


 何かの魔法が俺の持つ剣に掛かると、刀身が赤い光に包まれていく。

 すると体の奥底から力が涌き立つような感覚を覚えた。

 これならいけそうな気がする。

 再び乱舞するように斬りつけるとベアルは消滅した。


「こいつは助かるな。今のはなんて魔法なんだ?」


攻撃力増幅エンチャントです。わたしはしばらく攻撃に参加しませんのでお願いします!」


 そう言うとフェリスは何かの詠唱を始めた。

 ここからは彼女を守りつつ、寄ってくるすべてを叩き潰していく。

 広間をあらかた片付けたところでHPは三分の一を切っていた。


生命力回復キュアー


 緑の柔らかい光に包まれすぐに元の数値に戻った。

 それはフェリスの回復魔法であり、冒険者になる前から何度か世話になっていたものだ。


「ありがとな。さて、この先を進むかどうか迷うところだが……」


「あ、少しだけ休んでもいいですか? もしものことを考えると、このままだと息切れするかもしれません」


 目の前に広がるのは、腐臭漂うこの場に最も似つかわしくないクッキーとハーブティー。

 なかでもハーブティーは特製の容器に入れて持ち運んでいる始末だ。

 やはりフェリスはこういう時でも食欲が旺盛らしく、今回もお茶会のような流れになってしまった。


「さすがにここでは落ち着けないな……」


「え、そうですか?」


 隣からはと小気味いい音が聞こえてきた。

 フェリスはクッキーで頬を膨らませながら首を傾げている。


「まあ、お前がいいならそれでいいんだけどさ」


「さてと、じゃあ再開はいつでも大丈夫です!」


 彼女はカップなどを鞄にしまい満足した様子で立ち上がった。

 次の扉をゆっくりと開くと、俺達はすぐに違和感に気づく。

 これまでどおりならベアルが大量に押し寄せてくるのだが、この部屋はがらんと静まり返っている。


「少し様子を見てくるか。フェリス、お前はここで待機しててくれ」


「気をつけてくださいね」


 俺はその声を耳に一人警戒しながら歩を進めていく。

 段々と足早に内部の様子を調べ始めたが、特に変わったところは見られないように思う。

 なんだ、ここは休憩ポイントのような場所か?

 ひとまず安全だと判断しフェリスを呼んだ。


「ふう、一安心ですね」


 だがその直後大きな物音が部屋中に響き渡り、


「な、上からだと!?」


 巨大な腐ったベアルは、文字どおり天井から降り立つと襲い掛かってきた。


防御力強化プロテクション


 俺は青い光を受けてベアルと打ち合う。

 さすがに攻撃が手痛く、こちらの攻撃もさほど効いているようには思えない。

 合間合間にフェリスからの回復を受けながら、回避を織り交ぜてしのいでいく。

 だがこのままでは埒が明かない。

 マジックポーションの在庫が十分なことを確認する。


「フェリス、さっきの強化魔法をくれ!」


「どうぞ、全部持っていってくださいっ!」


 さっきよりも力がみなぎり、フェリスを見るとにかっと笑顔を見せている。

 言葉の意味も含めて考えると、今のはとっておきなのかもしれないな。

 予定どおり強化状態での威力攻撃の真価を確かめてみよう。


 低い唸り声とともにベアルがゆったりとした動きで迫ってくる。

 まずはパターンを掴むべく、噛み付きや引っ掻き、のしかかり攻撃をひたすらに避ける。

 どうやら各種攻撃は動作の最後にわずかに動きが止まるようだ。

 例によってMPを九割使用してそのタイミングに備える。

 すると引っ掻く攻撃を回避した瞬間に隙が生まれた。


「そこだっ!」


 思い切り振り下ろすとベアルからは雄叫びがあがる。

 続けて斬り払い、とどめに突きを見舞う。

 どうやら有効らしく相手の攻撃はぴたりと止んだ。

 すかさずポーションを使いつつ、乱舞を叩き込み勝利を確信した瞬間だった。


「クレハさん、危ないですよ!」


 声に気づいた時には、巨体が押し潰そうと倒れかかってきていた。

 これはひとたまりもなさそうだ。

 反応の遅れた俺は回避できないことを悟り、HPが残るのを祈りながら防御に切り替える。

 直後の大きな衝撃に耐えるとベアルの姿は消滅していった。


「さすがにやられたかと思ったな……。フェリスが何かしてくれたのか?」


「不死からの攻撃を防いでくれるシールドです」


 間に合ってよかった、と胸をなで下ろす彼女。

 HPを確認すると半分程度の損傷で済んでいた。


「お前のおかげだな。本当にありがとう」


 こうして俺達は館を去る。

 戦利品として俺が新しい防具、フェリスは杖を手に入れた。


【ステータス】

クレハ:レベル17

HP:110/110

MP:75/75

STR:52

AGI:41

VIT:37

INT:25

DEX:35


 レベルは大きく上昇。

 この武器とフェリスの魔法があればここはいい鍛錬場所になるはずだ。

 今後も暇をみて続けていくとしよう。

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