第8話 せめてデートと言って欲しいわね
「おや、酒場の。いや冒険者様じゃねえか。聞いたぜ、ランクがあがったってな?」
道具屋に入ると同時に店主に声を掛けられた。
「もうそんなに広まってるのか?」
「そりゃあ商売人としちゃ情報は鮮度が命よ! で、今日は何が入用なんだ?」
「ああ、ちょうどいつものを切らしてしまってな。十本ほどもらえるか?」
「へいよ、毎度あり!」
金貨袋と引き換えにマジックポーションを受け取り、昨日拾った輝く玉を見せた。
「ついでに聞きたいんだが、あんたにはこれが何なのかわかるか?」
「ほう、値打ちもんっぽい見た目してっけど初めて見るな」
「道具屋のあんたでもわからない代物か?」
「残念ながらな。そうだ、知り合いの知り合いにえらい目利きの鑑定人がいるんだがそいつを訪ねてみたらどうだ?」
地図と紹介状を書いてもらい店を後にする。
これがどんなものなのかは一応知っておきたいところだ。
「あら、Dランク冒険者さんじゃない?」
街を出ようとしていると、ちょうどアリスフィアが入ってくるところだった。
大方ギルドの依頼を済ませたところだろう。
「その呼び方はどうかと思うがな」
「もう少し喜んでもいいと思うわよ。ところでクレハはどこまでお散歩?」
「ああ、昨日ちょっとしたことがあってな」
彼女に経緯を説明するとなぜか俺についてこようとする。
「さすがにそのルートを単独は危険よ。ともに行くのが得策だわ」
「なんだ、護衛でもしてくれるのか?」
「せめてデートと言って欲しいわね?」
アリスフィアはからかうようにウインクをしてみせた。
それはさておき、俺はランクA冒険者という強力な同行者を得られたわけだ。
「先導は私に任せてくれていいわ。今のあなたでは太刀打ちできない相手ばかりだから、くれぐれも無茶はしないで」
彼女に釘を刺され出発する。
目的地はここルーグロエからは距離のある大きな街だ。
道具屋が言うには、道中の険しさを知りながらあえて向かう価値がその店にはある。
そして、店主は少し変わった雰囲気のする若い女だそうだ。
この件とは話はそれるが、本音を言えば前々から他の街に興味はあった。
色々と知っておきたいこともあるしな。
「なんだか楽しそうね?」
気付くとアリスフィアが俺を見ていた。
「ん、そう見えたか?」
「私は勘が鋭いのよ。さてと、早速お出ましね」
正面には獣の頭をした人型のベアルが三体、弓を構えている。
彼女は即座に腰元の短剣を抜いて駆けていく。
すると矢をかわしながら舞うように一体、二体と片していった。
さすがにあの身のこなしは俺には到底無理だな。
そう思っている間にも三体目に到達すると止めを刺した。
「見てて惚れ惚れする動きだった」
「あら、本当に惚れてしまっても構わないわよ?」
などと軽口を叩いているうちに、地図で見る限りでは残り半分といった距離まで来ていた。
アリスフィアから携行食の干し肉と水を受け取り腹に入れる。
休憩後、再び歩き始め目的地――スフォードの街が見えてくる頃には日が落ち始めていた。
「思ったより時間が掛かったな。早速見てもらってくる」
「では、用事が済んだらこの街の酒場に来て」
「先に言っとくがあんまり飲みすぎるなよ?」
「もう、私を誰だと思っているのかしら?」
彼女と別れたあと、武具店のすぐ近くに『ステリア』という店を見つけた。
ここに間違いないと扉を開ける。
中はこじんまりとしていて、棚にはアンティーク品のようなものが多く並んでいるようだ。
いわゆる古物商みたいなものかもしれないな。
そう思いながら体は自然とそれらに向いていた。
「いらっしゃい」
突然ぼそりと声が聞こえてきた。
振り返ると藍色の髪を横結びにした、一見子供のような女が椅子に座っていた。
左目に掛かった赤いバラの眼帯が強烈に目を引く。
「あんたが店主さんか? 俺はルーグロエから来たんだが、ちょっと見て欲しいものがあってな」
「よく無事だったわね。じゃあ、見せてもらってもいいかしら」
「ああ、頼むよ」
どことなく無表情っぷりがスゥのように思える。
それどころか表情筋の動かなさに関しては彼女以上のものがありそうだ。
そんなことを考えていると、店主は眼帯を外し俺の持参した輝く玉を透かすように覗き始めた。
青い右目に金色の左目。
あの眼帯はオッドアイなのを隠していたのか。
確かに不思議な雰囲気を放つ女だ。
「終わったわ。これは『シャイニーストーン』。武器に付与することで効果を発揮する石よ」
「それはどんなものなのかもわかるか?」
「不死、つまりアンデッドベアルに対して強い浄化作用があるの」
要するに不死モンスターによく効く剣に早変わりってわけだ。
場所によっては有利に狩りができる可能性が高まるな。
「それはいいことを聞いた。鑑定料はいくらだ?」
「初めての人からは受け取ってないわ。だから気にしなくていい」
彼女から石を手渡された時に手が触れてしまった。
「ありがとな。また会うことがあればその時は礼をさせてくれ」
俺はそう言って店を出ようとした。
「その時はお酒を一杯奢ってもらえればいいわ」
背後からの声に振り向き、
「ああ、それがいいな。一杯と言わず料理も楽しんでいってくれ」
と返事をしたところまではよかったが違和感に気付く。
「……って待てよ。俺何も言ってないよな。どうしてそれを知ってる?」
「視えたからよ、クレハの過去が」
彼女は眼帯を再び掛け俺を見つめた。
「おいおい、名前までお見通しってわけか? 本当聞いてた以上の鑑定人だな」
「それはどうもありがとう」
最後まで笑いもしない彼女はさておき、アリスフィアの待つ酒場へ向かった。
「あ、クレハぁ。おっそいよ~! はやく一緒にのも~!」
「まったくお前ってやつは!」
アリスフィアはすでに出来上がっていてどうしようもない。
まあそんな予感はしてたがな。
店を出ると外はすっかり暗く、彼女を連れ渋々宿を取るはめになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます