第7話 そんな大層な相手だったのか?
さて、店の改革に踏み切るわけだがまずは行動で示すべきだろう。
手始めに自分からだ。そこで酒の味にバリエーションを持たせてみようと思い立った。
だがそもそもの話、俺は酒に苦手意識が強くとてもではないが開発には向いていない。
よって協力者の存在は必要不可欠となる。
そうなると断然酒に強いアリスフィアが筆頭になのだが、今日はちょうどギルドの依頼で出払っている。
ここはもう一人の酒豪ことジラルドに頼んでみよう。
朝食後、部屋で事務仕事をしていた彼に話を持ちかけてみる。
「なるほど。今あるものだけでは、商会に太刀打ちするのが難しいと考えているわけだね。そういうことなら喜んで協力させてもらうよ」
「そいつは助かるな。早速なんだが、この地域ではどういったアレンジをするのが主流なんだ?」
「この辺りで採れる果実を使うのはよくあるかな。あとは炭酸水で割って飲みやすくするのもいいね」
「なるほどな。よければ試作段階から手を貸してもらってもいいか?」
「そうか、君は飲めないんだったね。僕にできることなら何でも言ってくれて構わないよ」
炭酸水はジラルドに発注してもらうとして、果物の類は自力で揃えてみるか。
すぐに支度を整えギルドへ立ち寄る。
「あら、クレハさんおはようございます~。本日はどういったご用件でしょうか?」
目の前のカウンターではある意味たわわな果実が二房揺れている。
ここにフェリスがいたら確実にへそを曲げるだろうな。
そんなことを考え、笑いをこらえていると受付譲のリンスさんが首を傾げた。
「おっと。この辺りで果物の採取ができるところはないか知りたくてな」
「でしたらこちらでしょうね。そのついでと言ってはなんですけど、今のクレハさんにちょうどいい依頼も来てますよ~」
冒険者ランクに繋がりそうなものはできるだけ受けておきたい。
俺は快諾し意気揚々とサウスフォレストという森に向かった。
話によるとここには、酸味のあるものと甘い香りが特徴的な果物がなっているのだそうだ。
試すにはもってこいなのかもしれないと、どんどん進んでいく。
そうしてそれは何の問題もなく見えてきた。
元の世界で言うレモンやオレンジ、そして苺みたいなものが木にたくさんぶら下がっている。
もっとも、これが酒に合うかは判断がつかないが持てるだけの分を刈り取った。
ついでに依頼品である薬草も採取し荷物袋にしまい込んだ。
その帰り道のことだ。
雄叫びをあげながら、熊によく似た凶暴そうな大型のベアルが立ちはだかった。
初心者レベルの冒険者が相手する敵とは、明らかに並外れているように思えるが仕方がない。
俺はロングソードを素早く引き抜き交戦状態に入った。
先手必勝とばかりに剣を振るう。
だが、防御力が高いせいか相手にダメージが入っているようには見えない。
もしかしなくても格上のベアルなのだろう。
決定的な攻撃が出せず俺はじりじりと後退していく。
このままいくと競り負け、亡き者となってしまうのは時間の問題だ。
「ここは背に腹は変えられないな!」
アリスフィア相手に使った威力攻撃の出番と見よう。
MPの九割を消費して振り下ろす瞬間に放出する。
すると、硬い表皮を突き破りベアルに攻撃が通り始めた。
これはいける。
マジックポーションを四個使い切る頃には決着がつき、直後レベルが上がった。
【ステータス】
クレハ:レベル13
HP:90/90
MP:60/60
STR:40
AGI:34
VIT:31
INT:20
DEX:30
「なかなかの強敵だったな……。ん、これはなんだ?」
ベアルの倒れたところに光るものが落ちている。
拾い上げると綺麗な色をした丸い玉のようなものだった。
それが何かは見当がつかないがひとまずは持ち帰ることにしよう。
「クレハさんが倒したベアルはなんと、『ボアッドベア』です!」
「ボアッドベア?」
「いわゆる希少エネミーなのですから知らないのも無理はありません。それにしてもですね、Eランク冒険者であるクレハさんが倒してしまうなんて驚きですよ~」
ギルドへ帰還すると、リンスさんにしては珍しく興奮気味な様子で出迎えられた。
おまけにギルド内の他冒険者達もざわついていて視線を感じる。
それほどありえないことが起きていると考えるべきか。
「あれはそんな大層な相手だったのか?」
「それはもう。通常ですとよくてDから、場合によってはCランクほどの戦闘力が必要になるんですよ~。なので今回はそれを
おめでとうございます、と元気よく跳ねるリンスさん。
と言うことはつまりベアル討伐も解禁となるわけで、フェリスの活躍の場も増えていくだろう。
ある程度の食材もギルドを介さず狩れる可能性も出てきて、店にとっても大きな一歩に違いない。
そう思いながらも、俺は縦横無尽に揺れ動くものから目が離せないでいた。
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