第5話 また女の人が増えてるような
「さて、来週の偵察はこのメンバーで行こうと思う」
定休日前日の営業終了後。
テーブルにフェリス、アリスフィア、スゥを集め座らせる。
腕組みをしているミツキは、テーブルと距離を空けたところから不満げに俺を見た。
「クレハ、なんでオレは除外されたの?」
「だってお前人の料理の味わからないんだろ」
「そりゃあオレのがどこよりも一番だしね?」
ミツキはふふんと不敵に笑う。
「その自信は頼もしいしいつも頼りにしてるさ。でも、今回はそれじゃ話にならないんだよ」
「ま、そういうことなら仕方ないよね。じゃあねアリスフィアさん!」
ミツキは手を振るもスルーされ肩を落としながら店を出ていく。
もはやお馴染みの光景になりつつあるが仕方ない。
あとから慰めてやるとしよう。
「そういうわけで、わたしが味見役として選ばれたんですねっ」
フェリスがにへっと笑顔を見せている。
彼女には天性の舌がある。
おまけに料理人採用面接での実績も考えれば妥当と言えるだろう。
「私は当然お酒のテイスティングね。すべてはお店のため、お客様のため。雑念を取り払い粉骨砕身尽力しましょう!!」
アリスフィアは勢いよく立ち上がり、それはとてもいい笑顔を浮かべる。
まあこいつがただ飲みたいだけなのは皆の知るところだ。
もはや誰もが、出来の悪い子を見守るような生暖かい視線になっている。
「スゥは接客や店内の衛生具合ですか。そこまでよくわかってないんですけど、本当に任せてしまっていいんです?」
彼女は自分が選ばれるとは思っていなかったのだろう。
意外といった風に首を傾げている。
「お前は意外と周りを見れてるからな。その冷静さで公平にジャッジして欲しいんだ」
こうして以上の三点をポイントとすることは決まった。
あの浮かれ具合はどこへやら、直後アリスフィアが颯爽と手をあげる。
「一ついいかしら? さすがにこのままの格好は偵察に向かないかもしれないわ」
「確かに誰が見てるかわからないか。最悪あのシアという女に勘づかれるかもしれないしな」
「おかしいです。また女の人が増えてるような……」
フェリスの呟きは置いておくとしてだ。
「普通に考えれば変装ですかね。もちろんあまり派手ではない感じがいいと思いますけど」
「そうだな。スゥの言うとおり何かないか考えておこう」
この日は話がまとまり解散となった。
翌日、俺は早くに起床し出掛ける準備をしていた。
それは店の裏口の扉を開けようとした時だ。
「クレハさん」
声に振り返るとフェリスが立っていた。
珍しくポニーテールにしている。
おまけに最近買ったという、薄手のピンクのワンピースがとてもよく似合っている。
「なんだ、いつもとえらく雰囲気が違うな」
「どうでしょう……?」
「似合ってるんじゃないか?」
そう言うとフェリスは小さくガッツポーズをした。
「ありがとうございます。ところでどこかへ行くんです?」
「昨日言ってた変装をどうしようかなってな。お前も出掛けるのか?」
「いえ、わたしも何かお手伝いできればと。一緒に行ってもいいですか?」
「もちろんだ。一人より二人の方がいいアイデアが出るかもしれないしな」
こうして俺達は店をあとにして街へ向かった。
「この間のアリスさんが着ていた服はどうでしょう? 変装か何かで使ったって聞きたんですけど」
「あれか。修道院服は目立つ方だと思うんだよな。それに三人も着てたら何かの集会みたいになるだろ?」
「確かにそれは怪しいかもしれませんね。ところでクレハさんはどういうものにするんですか?」
「俺はこれとスーツにするつもりだ」
度の入っていない丸眼鏡と帽子を取り出して身につける。
「わあ……意外と印象変わりますね! あれ、でもいつ買ったんですか?」
「これはジラルドから借りたものなんだ。だからあとはフェリス達の服装を考えるだけでいい」
話しながら歩いていると見かけたことのない店を見つけた。
どうやら飲食店のようで、外から中の様子がよく見える。
「フェリス、少し覗いてみてもいいか? 運営について何か参考になるものがあるかもしれない」
「あの、お休みの日くらいお仕事から離れてもいい気がしますよ?」
「確かにそうだな。じゃあ気晴らしという名目で入ろう」
「結局入るんじゃないですかあっ!」
伸び伸びとしたいいツッコミだ。
彼女はくすっと笑い楽しげに俺の後についてきた。
「いらっしゃいませー」
店員の声色や声量にはさほど覇気を感じられない。
空いているテーブルに案内されて座ったのだが、目の前には前の客のものだと思われる皿が置かれたままだ。
周囲の様子を伺うと給仕がそれを片付けにも来ない。
「参考にはなりそうにないな」
と俺はフェリスに聞こえるくらいの声で話す。
「まあまあ。クレハさんは決まりましたか?」
「ああ」
彼女は手をあげて給仕を呼んだ。
「お待たせしまっ……し!」
すぐにやってきた女の給仕は明らかに噛んでいる。
「慌てずゆっくりですよ」
フェリスは小さな声とともに笑顔を向けた。
「あり、ありがとございまう」
「そろそろ注文いいか? これとあれと――」
「はひ、しばらくお待ちくだひゃい!」
その後彼女は盛大にすっ転んだ。
ここはおっちょこちょい給仕のいる店か。
スゥのようなキャラが受け入れられている現状、こういうのもありなのかもしれない。
結局ここでは妙なヒントを得るに至った。
「ふう、これで買い物は全部ですか。皆さん驚くでしょうね!」
夕日の差してきた帰り道。
フェリスの弾むような声を耳にしながら、両手に袋を持ち並んで歩いている。
「しまった。宣伝用のチラシをさっきの店に置いてきてしまったな」
「今から取りに戻るのもちょっとかかりそうですね……」
「まあまた作ればいいか」
「その時はわたしもお手伝いしますっ!」
敵情視察への準備を整え、俺達は店への
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