第2話 今から私はフェリスのライバルになるから
「皆集ったな。それじゃこれから緊急のミーティングを行う」
開店前の店内には、アリスフィアやアインズ達冒険者を含めた面々が一堂に会した。
フェリスを筆頭に、ガロワ襲撃以来の緊張感がメンバーから伝わってくる。
そんな中真っ先に声を上げたのはジラルドだ。
「早速だけどヴァレリア商会がやってきたというのは本当かい?」
「そのとおりだ。どうやらこの店を
食材や食器が足りなくなったりや、特定の時間帯の客数減少など。
俺とフェリスが修行していた期間にも
だが営業が回らなくなるほどではなく、無視していれば済む程度の話ではあったのだ。
「で、クレハはそれに対してどう動くつもりなの? 商会の圧力に屈しないにしても、オレ達にできることはあんまりなさそうだけど……」
そこに不安そうな表情をしたミツキが声をあげると、
「不本意ながら同意見です。戦えないお姉様やスゥ達はどうなるんですか?」
スゥも割って入り、その言葉にフェリスも小さく頷いた。
「一人二人くらいなら俺でも抑えられるかもしれない。ただ、複数来た時を考えると不安が残る。そこで今考えてるのはこの店に護衛を置くことだ」
「それが外に知れ渡れば、商会やごろつきも下手に手は出せないってことだよね。でも人を雇うにしてもその当てはあるの? 営業中はそれこそずっと張り付くことになると思うんだけど」
ミツキが冷静に言葉を返すと俺は溜息を吐く。
「いや……今のところはそこで詰まってる。現状冒険者ギルドにもなかなか応じて貰えそうにないんだ」
「いくら冒険者と言っても時間ばかり取られるし、おまけにそれなりのランクも必要になる。そして、ただの魔物討伐とは毛色が違うのもあって臨機応変に対処できないと厳しいと思うわ」
飲めなくなるから私は無理よと、カウンター席のアリスフィアが声をあげた。
「まあ、そうだよな。ひとまず今日は普段と変わらず準備をしてくれ。引き続きこの件に関しては最優先で動くから安心して欲しい」
俺の言葉とは裏腹に、やや不穏な空気のまま今日のミーティングは終わった。
「ありがとうございました! また来てくれたらお酒サービスしますからね~!」
と、元気一杯のフェリス。
「あなた達はもう来ないでくださいね。ほら、間抜け面晒してないでさっさと行きなさい」
そして心底興味のなさそうなスゥ。
自慢の二枚看板の見送りの声が店内に響く。
開店前からは考えられないくらいの賑わいで、今日の営業は目立った問題もなく終わりを迎えられるだろう。
そのはずだったのだが。
「フェリスちゃん。いえ、今から私はフェリスのライバルになるからそのつもりでいて欲しいの」
「え、それはどういう……?」
「私ね、強い男が好きなの。つまりはそういうことよ」
カウンターに居なければいけない都合上、俺はフェリスとアリスフィアの会話を聞くはめになっている。
「強いと言うのはアリスさんみたいにですよね。そんな人が身近に存在しているものなんですか?」
「もちろん単純な強さだけの話ではないわよ? 芯が強く諦めの悪い……。誰とは言わないけれどこのお店にいる人物でなおかつ、あなたに深く関係する男性と言えば誰かしら?」
「ええっ!?」
フェリスは大声を出してしまいすぐに口を塞ぐ。
だが客がまばらな店内の状況からさして問題はなさそうだ。
「そこまで驚くこと?」
「あ! あの、ミツキさんとかどうですか? 目鼻立ちもいいですしアリスさんには本当にお似合いですよね!」
「彼は駄目よ。いくら顔がよくても言っていることが軽すぎるわ。簡単に愛を語ろうとするのも肌に合わないし、それ以前に――」
目も当てられない言葉が次々と出てきている。
自分の与り知らないところで滅多打ちにされているミツキには黙っておこう。
少なくとも、転生の同士としてこの件は聞かなかったことにしてやらないとな。
そして、この先も続くだろう追い討ちを聞いていられるほど俺のメンタルは強くない。
ひとまずは裏にいても問題はなさそうだとこの場を立ち去ろうとした。
「クレハ。店長さんが抜けていては駄目だと思うけれど?」
だがすぐにアリスフィアが俺の行く手を阻むように声を掛けた。
「抜けようだなんてとんでもない。トイレだよトイレ」
「フェリス、この際だから言っておくわ。私はその人を旦那にしようと考えているの」
言葉自体は話相手である彼女に向いている。
そのはずなのだが、アリスフィアは言いながらこちらをじっと見つめてにやりと笑った。
「それはダメです! 絶対にダメ!」
食い下がり抵抗するような叫びをあげるフェリス。
「果たしてそれはあなたが決められることかしら? さて、これからアインズ君達と打ち合わせがあるから失礼するわ」
アリスフィアは颯爽と他のテーブルに移動していく。
「アリスさん、さっきのっていつもの冗談ですよね~?」
一瞬目が合うと、フェリスはそそくさとアリスフィアを追いかけていった。
カウンター周辺には誰もいなくなり開放感から一息つく。
このままいけばもう何も起こらないだろう。
「てーんちょ。わかってるとは思いますけど、お姉様を選ばないと大変なことになりますからね?」
それも束の間、いつの間にか背後にいたスゥに両脇腹を掴まれていた。
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