エピソード4 対決、ヴァレリア商会!

第1話 わたくしまだ齢29の花盛りでしてよ!

**暴力行為に対しての声明**

1、当店は一切の暴力行為に屈しない


2、暴力行為が露見した場合、ただちに当店にて一時的な対応を行い、然る後ギルドへと引き渡す


3、ヴァレリア商会にくみする者、及び同商会より依頼を受けている者を出入り禁止とする


4、3が守られない場合、警告を発する。再三のそれにも関わらず、改善が見られない場合あらゆる強硬手段を用いてでも障害を排除する

***************


 ヴァレリア商会についてはジラルドや街の商人達から主に悪評が入ってきた。

 この街の酒の流通をせき止め、足元を見るような価格で方々に吹っかけている元凶だそうだ。

 その背後には貴族階級がついているとの噂もある。

 ジラルドの口振りからするとここにやられ閉店に追い込まれたのだろう。


 悪漢を撃退したとはいえ商会が今後関わってくる線は濃厚だ。

 よって声明文を早朝店の扉にでかでかと貼り付けた。

 だがこれだけではまだ足りない。

 この店は一筋縄ではいかないと、そう見せつけられる決め手が欲しいところだ。


「いやぁ、マスター。あの張り紙には驚いた驚いた。何か争いにでもなるのかなんて心配になっちまってよぉ!」


 夜営業時。店内のカウンターでは、酔っ払いつつある常連客が気持ちよさそうに飲んでいる。


「あれは予防線みたいなものだ。こんな街中で荒事なんてそうそう起きないから安心して飲んでいってくれ」


「よっ、その言葉を聞きたかった! 冒険者とマスター、二足の草鞋わらじってやつは伊達じゃないってことかねぇ!」


 口早にまくし立てる彼をよそに、冒険者としての活動を振り返ってみる。


 現在俺は冒険者Eランク、つまりルーキーレベルでしかない。

 このランクの冒険者が受けられるクエストはまだひよっこのようなものだ。

 現状は簡単な採集や軽い調査などで、メインとなる魔物討伐は含まれていない。

 ただ、こういった依頼を積み重ねていけばランクは上がっていくという話だ。


 とは言え低ランクでも冒険者には変わりない。

 その証拠に商人連中からの売り込みにも熱が入り、以前とは違った目で見られるようになったと感じている。

 そのお陰で必需品を割り引いてもらえることもあり、こちらとしてもありがたいところだ。


「お邪魔致しますわ~!」


 入り口の扉が開くと、唐突に甲高い女の声が店内に響き渡った。

 騒がしかった店内があっという間に静まり返る。

 こんな登場の仕方をするやつはろくなやつじゃない。


「はいはい、邪魔するならそのまま出てってくれ」


「あらあら、それは失礼しましたわ!」


 だかなんとか言って女は店から出ていく。

 だが数秒後再び入ってきた。


「おたく、冷やかしか何かで?」


「と~んでもない。これもすべて、第一印象に重きを置いた結果ですわ! ところで貴方がここのオーナー様?」


「俺は雇われ店長みたいなもんだ」


「そうですの。わたくし、ヴァレリア商会の代表を務めさせて頂いておりますルリシアスと申します。以降はシアとお呼びくださいまし!」


 いわゆるお嬢様口調ってやつか?

 さておきだ。青い髪を縦ロールにしている、ドレスの女が腰に手を当てて言い放った。


「外の張り紙は見たか? あんたヴァレリアなんだろ。おたくとは一切関係を持ちたくないんでね。とっととお引取り願えないか?」


「拝見しておりますわ。ええ、それはも~う穴の開くほどに! どうやらわたくしの与り知らないところでご迷惑をお掛けしたようですわねっ!」


 女は腕組みをしながら眉間にしわを寄せている。


「はっ! あの件は代表様の意図したところではないとでも?」


「そのとおりでございますわ」


「それをどう信じろと言うんだか。あんた口がよく回るようだし、都合のいいことを並べ立てて丸め込もうとしてるだけなんじゃないのか?」


「お待ちになって。わたくし、本日は言い争いに来たのではありませんの。部下の粗相はわたくしの最も嫌う不手際。ですから今回は謝罪にと馳せ参じた次第なのですわ!」


 女はカウンターに袋を無遠慮に置いた。

 物々しい音がしたことから金貨でも入っているのだろう。


「回りくどいのは嫌いなんだ。単刀直入に何が狙いか言ったらどうだ?」


 俺がそう言うと明らかに女の表情が変わった。


「あ~ら、そうですの? では遠慮なく。わたくしの商会の傘下さんかに入って頂けませんこと? もーちろん、あなた方の給金はどかんと弾みますわよ!」


 おーっほっほと、高笑いする人間はどうやら実在しているようだ。

 呆れつつ虫を払うような仕草をしながら吐き捨てる。


「ああ、そんなこったろうと思った。その袋を持って今すぐ出ていけよ、おばさん」


「お、おば……!? わたくしまだ齢29の花盛りでしてよ~!」


「ここはあんたが居ていいような場所じゃない。いいからさっさと行け」


「まあ、あなたってば強情ですのね? 今日のところはお暇するとしますわ。それではみなさまご機嫌麗しゅう!」


 癖しかない女だったな。

 なにやらこいつは一筋縄でいきそうにない雰囲気がする。

 店内のざわめきが収まってきた頃、俺は冷静に今後のことを考え始めていた。

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