第12話 叩き潰します

「昨日はありがとうございました。アリーシャがいなければ今頃どうなっていたか」


 朝食をとりながら、私は向かいに座るアリーシャ様に頭を下げたのです。

 するとなぜでしょう。不満げに口を尖らせているではありませんか。


「正直に言ってちょうだい。わたしの作ったご飯、美味しくなかったでしょう?」

「そんなことはありません」

「いいえ、すごく薄味だったわ。はあ……まだまだメアリのようにはいかないのね」


 アリーシャ様はがっくりと視線を落としてしまいました。


「なにを仰いますか。そのお気持ちだけで美味しくなるというものですよ」

「そういうことではないの……わたしはきちんとしたものを作りたいのよ。だから明日は一緒に作りましょう。もちろん早起きするから起こしてね?」


 ここまで言われては断ることなどできません。

 了承したところ表情が明るくなりました。やっぱりアリーシャ様には笑顔がとてもよく似合います。


「アリーシャさん、メアリさん。いくらあなた達とは言えなにが起こるかは予測がつきません。どうか無事に帰ってきてくださいね」


 ギルドへ立ち寄ると、職員の皆様から激励や心配する声を多くいただきました。それほどに油断のならないところなのでしょう。

 ですが私がいる限り、アリーシャ様を危険な目に遭わせるはずがありません。

 万全の準備を整えた私達は隣の街イルへと旅立ちました。


「ひどい有様です。アリーシャは見ない方がいいかもしれません」


 壊滅と聞いていたので覚悟はしていましたが、建物だけではなく人々が犠牲となった跡がありありと残されています。

 幸い今のところ魔物の反応はないようです。


「いいえ、わたし達がきちんと弔ってあげなくては。このままでは皆さんが浮かばれないでしょう」


 しばらくの間、私達は街中をまわり亡骸を埋葬していくのです。

 そうして時間が経つにつれて、魔物のものと思われる魔力の痕跡を感じ取りました。

 これを辿れば潜んでいる場所が判明するでしょう。


「アリーシャ、このままではここを襲った魔物が私達の街に押し寄せてくるかもしれません」

「メアリにはそれがわかるのね?」


 私は頷き言葉を続けます。


「残された手掛かりから足取りを掴むことができそうなので、これから魔物の住処を叩こうと思います。そうしなければ安心してお家に帰ることができません」

「でも、二人だけで大丈夫かしら……。一度ギルドに戻るのはどう?」


 アリーシャ様が不安げに仰ることはもっともです。通常であればそうすべきでしょう。


「そうしている間にも手遅れになる可能性があります。これまで私達は数多くの討伐を成し遂げてきたんです。それに――」

「それに?」

「私は街の人達の仇を取りたいのです。ですからアリーシャ、力を貸してください」


 頭を下げたところアリーシャ様は私の肩に手を乗せました。


「かならず生きて帰りましょう。もしも危ない時は二人で脱出よ?」

「もちろんです」


 先導して痕跡を辿っていくと、徐々に魔力の反応が強くなっていきます。この洞窟内で間違いはないでしょう。

 今回はランタンを用いているので中の薄暗さがよくわかります。

 予想どおり、魔物の姿がちらほらと見えてきたところで殲滅を開始します。


「メアリ、気をつけてね!」


 普段とは違いアリーシャ様もどこか気合いが入っていることから、弔い合戦に対する思いは私とさほど変わらないのでしょう。

 モップで攻撃を受け止めながら、これまでに放ってきた魔法を駆使して屍の山を築いていきます。


 最奥に大物の姿が見えてきたのですが、これが指揮官のようなものでしょう。私はすぐに駆けていき声をあげます。


「アリーシャ、今です」

「フレアバースト」


 炎の渦が背後から私の肩を掠めて飛んでいき、その直撃と同時に私はモップで力一杯殴りつけました。

 こうして殲滅は完了しましたがこれだけでは足りません。


「少々忘れ物をしてしまいました。アリーシャはここにいてください」

「わたしも一緒に行くわ」

「いえ、すぐ戻りますのでお待ちを!」


 アリーシャ様を入り口に残し私は洞窟の中ほどまで駆けていきます。

 これからなにをするのかというと決まっていますとも。

 二度と魔物が巣食うことのないように、この洞窟を完全に叩き潰す。破壊の魔法をすべての魔力を使い発動させました。


 地面が大きく揺れ出したところで、速度上昇を用い入り口を目指していきます。

 この分だと余裕を持って出られるでしょう。ほどなくして外の光が差してきているのがわかり、それと同時に天井が崩れ始めました。


「メアリ、はやく!」


 アリーシャ様の手を取り、無事に脱出を果たすと私達はギルドへ帰還しました。


「なるほど。つまり巣を突き止め討伐したところで洞窟が崩落。命からがら逃げ出してきたと?」

「そのとおりです」

「本当に規格外だね、アリーシャは」


 言葉とは裏腹に、鋭い視線を私に向けているのはもちろんギルド長のメリッサさんです。その目はまたやったね? と言わんばかりで私は思わず地面を見つめます。


「まあとにかく、これで街の復興を進めることができる。二人ともご苦労様だったね。そして、死者の弔いの件……ギルドの代表として礼を言うよ」


 メリッサさんは立ち上がり深々とお辞儀をしました。しばらくして再び椅子に座ると温和な表情をしているのがわかります。


「それではわたし達はこれで。またなにかあればお力になります」


 アリーシャ様が部屋を出ようとしたのですが、メリッサさんは引きとめます。


「いや、待ちな二人とも。依頼には報酬がつきものだろう? これは宝剣といってね、アンタ達ならうまく使えるはずさ」

「このような立派なもの……本当によろしいのですか?」

「ギルド長に二言はないよ。さあ、受け取るといい」


 こうして私達はギルドをあとにしてお家に戻ってきました。


「なんだか疲れたわね」

「はい、今日は移動も多かったですしね」

「じゃあ早速お風呂に入りましょう。これは命令よ?」

「わかりました……」


 ご命令とあらば断ることはできません。私は言われるがまま、体の洗いっこをすることになり夜は更けていくのでした。

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