第34話 プレシオーヌ、尋問
俺はプレシオーヌを地面に下ろすと、手を後ろに回させ、魔法を唱えた。
「
自由に形を変える柔軟性を備えつつも、ちょっとやそっとでは切れない頑強な紐だ。
「ちょっとぉ。わたしは負けを認めたのに、この扱いはひどくないかしらぁ?」
「さっきまで殺し合ってた相手……それも魔族を信用できるほど、俺はお人好しじゃねえんだよ。先に言っとくが、妙な動きをしたら命はないと思え」
念入りに脅しつけて、振り返る――と、既にアリアナとミルエッタは、ポポロンを連れてすぐ近くまで駆けてきていた。
アリアナはなぜかプレシオーヌではなく、俺の顔をじーっと覗き込んでくる。
「ええと……王女殿下にミルエッタさん。見ての通り、敵は殲滅。プレシオーヌの捕縛にも成功しました。これで情報を……」
「……エルドラさまって、まるで男の人みたいな喋り方をする時がありますわよね。ポポロンさまとお話しされている時など、今までもたまに出ておられましたが」
「えっ。そ、そうですかあ?」
ヤバい。今のプレシオーヌとのやり取りを聞かれていたらしい。
思わず目をそらし、自分でも白々しいと思える声ですっとぼけると、アリアナは俺の視界に入るように回り込んできて、キラキラと輝く瞳で俺を見つめてきた。
「もしかして、そちらがエルドラさまの
「……い、いえ、それはちょっと」
ものすごい熱量でグイグイと詰め寄ってくるアリアナに、俺は
「やだやだ、わたくしも呼び捨てで気安く話してほしいです! 『アリアナ、俺のそばを離れるなよ』とか、可愛い声でカッコいいこと言われたいです~!」
「エルドラさんが困ってるから、そのくらいにしてあげなさいよ……そこの魔族から、話を聞き出す必要もあるし」
「むー。仕方ありませんわね」
ミルエッタが仲裁に入ってくれたおかげで、駄々っ子状態だったアリアナは、唇を尖らせながらも何とか納得してくれた。マジで助かった。
俺は気を取り直して、再びプレシオーヌと対峙する。
プレシオーヌはプレシオーヌで、もうどうにでもしろという感じの不貞腐れた顔でこちらを見上げていた。
「それで、聞きたいことって何なのよぉ? 命の保証をしてくれるなら、たいていのことは話してあげるけどぉ」
「まずは、魔神の居場所を教えろ。知ってるんだろう?」
「ここから南東へ、ず~っと行ったところに魔神様の本拠地があるわぁ。『チキュウ』から転移してきたわたしたちが、最初に根を下ろした場所……わたしたちはブースト・タワーって呼んでるけどぉ……そこにいるはずよぉ」
「ブースト・タワー?」
突如としてグレア王国の僻地に現れた、奇妙な建造物……港町の町長もそう言っていた。そこがそのまま、奴らの本拠地なのか。
なんとなく引っかかりを覚える名前だが、一旦そのことは置いておいて、次の質問に移ろう。
「次だ。魔神は『チキュウ』から連れてきた魔法少女を手駒にしているんだろう? その数は?」
「『チキュウ』での戦いでかなり数を減らしたけど、生き残ってるのは50人くらいじゃないかしらぁ。わたしも、いちいち数えたことはないわぁ。あの子たち、好きじゃないし」
無愛想な態度でプレシオーヌは答え、小さく鼻を鳴らした。
嘘をついている感じじゃない。本当に、魔法少女のことは好きじゃないんだろう。
「……でも、今はお前らの仲間なんじゃないのか?」
「仲間だなんて思ってないわぁ。あの子たち、今は思考能力を奪われて抜け殻状態だから、コミュニケーションも取れないし。それに、面白くないのよねぇ」
「面白くない?」
「魔法少女たちは、魔神様のお気に入りなのよぉ。強くて簡単に操れる手駒……昔から仕えてきた眷属のわたしたちより、遥かに信頼できる存在。そう思われてるわけ」
プレシオーヌは忌々しげに吐き捨てると、静かに目を伏せた。
その瞳は、どこか寂しさを
「魔神様の力でも、わたしたちを操ることはできないの。わたしたち眷属は、自分もそれぞれ何かを操る能力を持っているぶん、精神操作に耐性があるのよぉ。……だから、心の底から信頼できないんでしょうねぇ」
「自分の思い通りに操れる相手しか信用できないってことか? 魔神ってのは、ずいぶん懐が狭いんだな」
「ふふっ、あなたもそう思う? あなたが仲間だったら、一緒にご飯でも食べながら上司の悪口で盛り上がれそうねぇ」
「ああ、お前が人殺しじゃなきゃ気が合ったかもな」
「あらぁ、あなただって魔族殺しじゃない。同類みたいなものでしょぉ?」
嘲笑交じりに言い返され、俺は言葉に詰まったが、そもそも話が脱線してきていることに気づいてかぶりを振った。
とりあえず魔神の居場所や魔法少女については、ある程度の確認ができたと言える。
他に聞いておくことはあっただろうか……と考えていると、アリアナが一歩進み出て口を開いた。
「魔神の能力について、知っていることを話しなさい。操る対象は何なのか、どうすれば操れるのか……わたくしたちは、魔神の能力に対抗する術を必要としています」
「……知らないわぁ。少なくとも、魔法少女たちは操れるみたいだけどぉ」
「魔神の側近であるあなたが、知らないはずはないでしょう」
「言ったでしょぉ? 魔神様はわたしたちのことなんて信用してないのよ。自分の能力は重要な生命線よ。気軽にホイホイ明かすほど、魔神様は不用心じゃないわぁ」
「そのわりに、あなたは先日わたくしたちを襲った際、自分の能力が男性にしか効かないことをあっさりバラしていたようですけど?」
「わたしはいちいちそういうこと気にしないのよぉ。知ってようが知るまいが、どうせ相手はわたしに勝てないんだしぃ」
大した自信だ。実際、未来を読めるプレシオーヌに勝てる人間などそうそういないのだろうとは思うが……。
感心と呆れが半々の心境で見つめていると、プレシオーヌは突然はっとしたように目を見開き、声を漏らした。
「あ」
振り返り、空を見上げる。
そしてプレシオーヌは、小さく声を立てて笑った。
「……ふふ。わたしは用済みらしいわぁ。頑張ってね、エルドラちゃん?」
――用済み?
耳に入ったその言葉が、頭の中に染み込んだ瞬間、ぞっと総毛立った。
プレシオーヌには、数秒先の未来が視えている――!!
俺たちの頭上から一条の雷撃が降り注いだのは、その直後だった。
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