第33話 再戦
「ふふっ。この間は意味のわからない行動に驚かされたけど、今度はそのくらいじゃ退いてあげないわよぉ? さあ、覚悟しなさ……」
妖艶に微笑んだプレシオーヌが、こちらに手をかざす──。
直後、その美貌が引きつった。
形の良い眉がピクピクと、まるで痙攣するように動いている。
だが、そうではない。俺にはわかる。
おそらく、奴は試行錯誤を繰り返しているのだ。何十通りにも思考を変え、【未来視】によって自分が勝利できる未来を必死で探している。
10秒ほどそうしていると、やがてプレシオーヌは苛立ちの限界を迎えたように、大きく舌打ちした。
「チィッ!! そんな……そんなわけない……! 食らいなさいっ、【
プレシオーヌが唱えると同時、鋭い矢のような一条の光弾が放たれた。
「
俺も即座に魔法を唱えると、俺を包み込むように球体の結界が形成され、プレシオーヌが放った光弾を弾き返した。
どうやら一撃の威力に特化した魔法だったようだが、ミルエッタとともに編み出した魔法の結界を破るには至らなかった。
「未来が読めるってのもつらいもんだな。今の攻撃が弾かれること、お前にはわかってたんだろ?」
「ぐっ……!」
プレシオーヌは、俺がどこへ逃げても確実に攻撃を当ててくる。
だが、その攻撃が通用しなければ、当たったところで何の意味もない。
「今度はこっちの番だな」
俺はステッキの先端を、プレシオーヌと、その後方を飛ぶ魔族の軍勢へと向けた。
「……!? く、うううっ!?」
プレシオーヌは素早く高度を上げ、回避行動に移る。
構いはしない。俺の狙いは、後ろの魔族どもだ。
ステッキを強く握りしめ、魔力を込めるように強く念じる──その思いに応えるように、ステッキが強く光り輝いた。
「いっ、けぇ……!
唱えた瞬間、ステッキの先端から、膨大な光の渦が巻き起こった。
渦はうねりながらその大きさを増し、魔物の群れを瞬く間に呑み込んでいく。
光に触れた魔族たちは、魔力の熱に焼かれて一瞬のうちに蒸発していった。
「おおおおぉぉっ!!」
この魔法は俺が止めない限り、光の渦を放出し続ける。
俺はステッキを固く握りしめたまま、水平になぎ払うように振り抜いた。
放出を続ける光の渦が、魔物の軍勢をまとめて呑み込み──後にはチリひとつ残さず、完全に消滅させた。
「……ふうっ……!」
さすがに、これだけの大技ともなると魔力の消耗も激しい。
無駄撃ちを避けるため、俺は魔法の発動を止めた。
その直後、上空へ待避していたプレシオーヌがすぐに下りてきた。バリアを破れない以上、遠距離で戦うのも得策ではないと踏んだのだろう。
さすがに余裕を失っているのか、その額には汗が浮かんでいた。
「やってくれるじゃないのぉ……魔神様から預かった戦力を、たったひとりで消し飛ばすなんて……」
「魔神の側近であるお前には、聞きたいことがある。大人しく投降するなら命は助けてもいいぞ」
「図に乗ってるわねぇ……あなたの攻撃だって、わたしには当たらないのよ。忘れたのかしらぁ?」
「……なら、避けてみろよ」
俺はプレシオーヌに再びステッキを向け、唱えた。
「
魔力を込めて形成した、黒い光弾を放つ。
飛んでくる弾を見ると、プレシオーヌは挑発的に笑った。
「ふん、たった一発の魔力弾なんかに当たるわけ──ッ!?」
プレシオーヌの切れ長の目が、カッと見開かれた。
やはりわかってしまったのだろう。
どうやっても自分には、この弾を避けられないのだということが。
「その弾は、俺の狙った敵を引き寄せる……強烈な引力を持った魔力弾だ。今度は避けられねえぞ、プレシオーヌ!!」
「い、いや……いやああああぁっ!?」
プレシオーヌは翼をはためかせて必死で離れようとしたが、自らを吸い寄せる魔力弾の引力から逃れることはできず、直撃を受けた。
魔力の熱で焼かれ、ボロボロになって落ちていくプレシオーヌを、俺は素早く受け止める。
「……どうだ? まだやるか?」
「……ぐ、っ……大した、ものねぇ……まさか、こんなに強くなってる、なんてぇ……」
プレシオーヌは口惜しげに俺の顔を一睨みしてから、やがて何かを割り切るように、大きな溜息をついた。
「仕方ないわねぇ……わたしの負け。それで、何から話せばいいのかしらぁ?」
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