第32話 万の軍勢
決意を新たにした俺たちは、ワーズの案内で、町の北にあるという廃坑に向かった。
彼女の話では、港町にいた他の人たちはそこを目指して避難したらしい。
廃坑に到着し、中に入って呼びかけながら奥へ向かっていくと、しばらくして避難民たちが姿を見せた。
避難民たちもワーズと同じように、俺を見て恐怖に震えたが、アリアナとワーズが取りなしてくれたおかげで、大騒ぎにはならなかった。
「……こちらの責任者は、どなたですか? 状況をうかがいたいのですが」
アリアナが問うと、初老の男性が一歩進み出て、頭を垂れた。
「港町バロウの町長です。王女殿下、この度はグレア王国を救うためにお越しくださったとのことで、誠に感謝いたします。このような状況ですので、おもてなしもできませんが、何とぞ──」
「挨拶は省きましょう、町長さま。まずは状況の確認を」
「大変失礼しました。……ここには現在、50人ほどの人間が町から逃れて生活しております。うち戦闘員は6名。それ以外の大半は一般市民です」
「食料や水は足りていますか?」
「今のところは……外に魔物が少ないタイミングを見計らって、戦闘員が確保しに行っております。ただ、運悪く命を落とすものも多く、状況は予断を許しません」
「そうですか……事態の元凶と思われる、謎の施設については、何かご存知ではございませんか?」
「残念ながら……ただ、王都付近にあるという避難所からも何度か連絡が来ました。王都も壊滅状態にあり、国王陛下も亡くなられたという内容で……」
「……残念です。国王陛下とは、仲良くさせていただいていたのですが……」
アリアナの表情がどんどん険しいものになっていく。
後ろで聞いているだけの俺でも、この国が絶望的な状況に置かれていることは察せられた。
「王女殿下。こうなった以上、我々はグレア王国から脱出する以外に生きる術はないと考えております。厚かましさを承知でお願いいたしますが、どうか助けていただけませんでしょうか……」
「……本国に救援を要請したいところですが、それにはまず、この辺り一帯の安全を確保する必要があります。闇雲に船を出しても、また沈められるだけでしょう」
重々しい声色で答えて、アリアナは俺に目配せした。
その意図を察し、俺も頷き返す。
「わかりました。辺りの敵を駆除する役目は、任せてください」
「期待していますわ、エルドラさま。あなたが渡航中に編み出した数々の魔法があれば、魔物たちなんて──」
アリアナが言いかけたとき、突如として激しい揺れが俺たちを襲った。
それに前後して、廃坑の外から動物の悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
「あれは、グリフォンの鳴き声です! まさか……!?」
いち早く反応したアリアナの言葉を聞いて、俺は真っ先に廃坑を飛び出した。
そして、目にしたのは──空一面を覆うほどの、大量の魔物の群れ。ワイバーンやガーゴイル、ドラゴンなど、いずれも翼を持った魔物たちだ。
グリフォンは攻撃を受けたのか、背中や頭部から血を流して、頭上の敵を睨みつけている。
「今、治すわ! 【
俺の後から出てきたミルエッタが、グリフォンに回復魔法をかけてくれた。
ミルエッタたちをかばうように、俺も空を飛んで前に出ると、見覚えのある魔族が敵軍の先陣を切っていることに気づいた。
「あらぁ……また会ったわねぇ、魔法少女ちゃん♡」
妖艶な笑みでこちらを見下ろすサキュバス。
【
「久しぶりだな。お前もグレア王国に渡ってきてたのか?」
「まあねぇ。この世界じゃ、今のところこっちが本拠地みたいなものだし……向こうの大陸には様子見に行ってたようなものよぉ」
プレシオーヌはおもむろに両腕を広げて、挑発するように仰々しく礼をしてみせた。
「この間は見逃してあげたけど、今度はそうはいかないわぁ。このわたしと万の軍勢が、あなたたちを呑み込んであげる……骨も残らないように、ねぇ」
「やれるものならやってみな。以前の俺と同じだと思うなよ」
新しい魔法を試すには、ちょうどいい機会だ。
プレシオーヌをまっすぐに見据え、俺は構えを取った。
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