第30話 惨劇の目撃者

 女性の言葉に、俺は立ちすくんだ。


「……こんな恰好の女の子が、この国を……滅ぼした? それって、まさか……魔法少女のこと、なのか?」


 はっとしてポポロンを見ると、ポポロンは目に涙を浮かべていた。

 その反応だけで、俺は自分の考えが正しかったことを理解した。


「どういうことだよ、ポポロン!? お前、何を知ってるんだ!?」


「ち……違うポン。その女の子たちは……」


「エルドラさま、お待ちください。まずは、この方に状況をうかがいましょう。わたくしたちは、グレア王国で起こったことをほとんど知らないのですから」


 俺は感情的になってポポロンに詰め寄ったが、アリアナに制され、落ち着きを取り戻した。

 確かに、アリアナの言うとおりだ。まずは状況の把握が先だろう。


「申し遅れましたが、わたくしはヴォルディール王国の第一王女、アリアナ・ネリス・ヴォルディールです。音信不通となったグレア王国の救援に馳せ参じました」


「ヴォ、ヴォルディールの王女殿下!? しっ、失礼いたしました!!」


 女性は大慌てでその場に跪いた。その間も、俺を警戒するように横目でチラチラと様子をうかがっている。

 俺は口を挟まず、アリアナと女性の会話を聞いていた方がよさそうだ。


「私は、この港町バロウで町長の補佐をしておりました、ワーズと申します。この町が壊滅してからは、ずっと地下壕に隠れていたのですが、食料が尽きてしまい出てきたばかりで……」


「地下壕? 他に生き残りはいらっしゃるのですか?」


「わかりません……ひとりで隠れていたので。町から避難した人たちもいたはずですが、私とは別行動を取ったので、逃げ切れたかどうかは……」


「そうですか……わたくしたちは音信不通となったグレア王国に、ヴォルディール王国から調査団を派遣したのですが、それも戻ってきておらず状況がわからないのです。つらいことをお願いしますが、何が起こったのか教えていただけるでしょうか?」


「でも、この辺りには魔物がいるはずです。立ち話をしている時間は……」


「いや、町を徘徊していた魔物はもう全部倒した。当面は安全と言っていいはずだ」


 怯えるワーズを安心させようとして俺は言ったが、ワーズはやはり俺の言葉に恐怖の表情を見せた。

 しかし、アリアナの存在がいくらか安堵感を与えているようで、それ以上取り乱すこともなく話し始める。


「……始まりは、70日ほど前でした。グレア大陸のへきに謎の建造物が出現したという報告でした。そこから魔物たちが溢れ出している、と、国中に注意喚起がなされたのです」


「その報告なら、ヴォルディールにも届いておりましたね」


「ただちに討伐隊が派遣されました。魔物や魔族はかなりの大群で、この町にも押し寄せてきましたが……グレア王国には精強な王国軍や、冒険者たちが数多くいます。ですから、最初は善戦していたんです」


 ワーズはもう一度だけ俺の方を見てから、視線を下げた。


「……流れが変わったのは、それからほんの少し後でした。魔族の軍勢に加え、見たこともないようなヒラヒラの服を着た女の子たちが現れて、町を襲い始めたんです。どう見ても人間にしか見えませんでしたが、彼女らは空を飛び、すさまじい威力の魔法を使ってきて……町はあっという間に焼き払われ、滅ぼされてしまいました」


「……そんなことが……?」


 アリアナもミルエッタも、信じられないというように目を見開いた。

 しかしワーズの沈痛な表情を見れば、少なくともそれが冗談の類でないことは明らかに思えた。


「町を焼き払うと、女の子たちはまたどこかへ消えてしまいましたが……私はその辺りで地下壕へ逃げ込んだので、それ以上のことは何も……」


「わかりました。……ワーズさま、ひとまずあなたを保護します。わたくしたちが乗ってきたグリフォンの背にテントがありますので、そちらへ参りましょう」


 ワーズは頷き、アリアナの3歩ほど後ろを歩き始めた。

 ミルエッタに先頭を任せ、俺はしんがりを守るように最後尾へつきながら、ポポロンを拾い上げて自分の肩に乗せた。

 すくんだように身を縮めているポポロンに向かって、耳打ちする。


「テントに着いたら、知ってることを全部話せ。……今度はイヤだと言わせねえぞ、ポポロン」


「……うん……話す、ポン……」


 ポポロンも覚悟を決めたのか、落ち込んだ声ではあったが、はっきりと頷いた。


 ……以前ポポロンは、この世界に来てから魔法少女にできたのは俺ひとりだけだと言っていた。

 まだ考えられる可能性はいくつもあるので、断言はできないが……ポポロンの反応を見るに……もしかしたら、その俺以外の魔法少女とやらは……。

 

『チキュウ』から、やってきたのかもしれない。

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