第28話 新魔法の開発
食事を終えた後、俺はポポロンとミルエッタを交えて、魔法少女の行使できる魔法について確認を行った。
結局、魔神と戦ってはいけない理由については教えてもらえなかったが、ポポロンが言わない以上、無理に聞き出すわけにもいかない。
この大事な時期に、仲間と険悪になることは避けたかった。
「……魔法少女の使える魔法には個人差が大きくて、魔法を編み出した本人にしか使えないものも多いポン。
ポポロンの説明を聞いて、俺はうなずいた。
【魔法少女】スキルについては、まだ知らないことだらけだ。
身体感覚の方はもうかなり慣れてきたし、そろそろ新しい戦い方を覚えていきたい。
アリアナたちと出会ったときに戦った、未来を読める魔族・プレシオーヌのように、今のままでは苦戦を強いられる敵も現れるだろう。
奴らに対抗する手段は必要だ。
「ボクとしても、エルドラがどんな魔法を使えるのか知りたいポン。ボクが今まで見たことのある魔法を順に教えるから、使えるかどうか試してみるといいポン」
「なら、私も見学させてもらうわね。借りてたステッキも一時的に返すわ」
ミルエッタからステッキを受け取った俺は、テントの外で様々な魔法の試し撃ちを行うことになった。
結論から言うと、使える魔法は2つだけ増えた。
複数のエネルギー球を一斉に撃ち出し、広い範囲を攻撃する魔法・
魔力の壁を形成し、敵の攻撃を遮断する魔法・
ポポロンの話によれば、どちらも魔法少女にとっては基本中の基本のような魔法らしい。
それ以外にもポポロンの知る魔法を、攻撃から探知、回復などさまざまな効果のものを俺は全部で100種類近くも試したのだが、他の魔法は全く発動しなかった。
「……おかしいポン。エルドラの魔力はものすごく高いはずなのに、たったこれだけの魔法しか使えないなんて……」
日が暮れる頃になって、結果を振り返ったポポロンは納得いかない様子で首をひねった。
俺はというと、一応魔法を使うイメージをしながらステッキを振りまくっていたので、精神的にかなりヘトヘトだった。
アリアナが持ってきてくれた水をがぶ飲みして、俺は自分の細い脚を見下ろす。
「自分でもそうは見えないけど、ドラゴンを蹴っ飛ばせるくらい筋力はあるんだよな……戦士タイプだから魔法はあんまり得意じゃない、とか?」
「いや、
「ふーむ」
魔力は高いが、魔法は使えない……ミルエッタもそんなこと言ってたな。
ミルエッタは、俺が魔法を使う実験をしている間ずっと紙束に何かを書き殴っていたが、今はその紙面をじっと見つめて考え込んでいるようだ。
さっきこっそり覗き込んでみたが、複雑な計算式のようなものが書き込まれているだけで全く意味がわからなかったので、一旦そのままにさせてある。
そのミルエッタが、静かに顔を上げた。
「……エルドラさん。ちょっと試して欲しいことがあるんだけど」
「は、はい?」
「そのステッキを私にも触らせて。……ああ、渡さなくていいわ。あなたが持ってる状態で、私もステッキに触りたいのよ」
何か考えがありそうだったので、俺はミルエッタの言うとおりにした。
ふたりで左右からステッキを握る。
「その状態で、何か使いたい魔法を思い浮かべて、魔力を放つイメージを持ってみて」
「使いたい魔法? ……って、言われても」
「じゃあ、既存の魔法を改良するのでもいいわ。例えば、
「そ、そうですね。じゃあ、そのイメージで……」
俺はステッキを握る手に力を込め、魔力を放つイメージをする。
壁じゃない……球形の、結界のイメージだ。
「
そして唱えた──その瞬間、ステッキが淡い光を帯びたような気がした。
が、ただそれだけだった。
結界どころか、魔力の壁すら出てこない。魔法は不発に終わってしまった。
「──やっぱり、これが原因だわ」
しかしミルエッタは何かの確信を得た様子で呟くと、ステッキを強く握りしめた。
ミルエッタの手から、ステッキの中に魔力が流れ込んでいく感覚がする。俺も魔法を使えるようになったおかげで感じられるのだろうか?
その瞬間──ステッキがまばゆいほどに、白く輝き始めた。
「うわっ……!? ス、ステッキが……?」
「ミ、ミルエッタ、何をしたのポン!?」
驚く俺たちへとミルエッタは得意気に笑って、ステッキから手を離した。それでもステッキの輝きは、全く色あせることはない。
「このステッキは、エルドラさんという水源から魔力を汲み出す蛇口の役割を果たしているのだけど……ところどころ、その栓が締まっていたようなの。だから、今まではうまく魔力を取り出せなかった」
「今までは……?」
「エルドラさんが使えない魔法を使うために、どこが締まっているのかを、私が直接触れて探知したの。そしてうまく繋がるようにチューニングしたわけ。だから、今度はできるはず……魔法の名前も変えた方がいいわね。その方が、よりイメージが強固になるはずだから」
「……わ、わかった。じゃあ、そうだな……壁じゃなくて……
もう一度、自分を球形に包む魔力壁のイメージを持って、即興で魔法を唱えてみた。
すると──ステッキが光り輝き、俺を全方位から囲う魔力壁が形成された。
「で、できた……!」
「すごいポン!? こんなやり方があるなんて……!」
驚きの声をあげる俺とポポロンに、ミルエッタは満足げな笑みを浮かべる。
「最適な方法で魔力を引き出す……これが【大賢者】のスキルよ。私もかなり苦労するんだけどね」
計算式の書かれた紙束を軽く掲げて、ミルエッタは冗談っぽくも頼もしく言った。
「さあ、今日はもう夕方になっちゃったけど……明日からまた、新しい魔法を試していきましょう。必ずうまくいくわ」
「はい!」
心からの感謝と尊敬の念を込めて、俺はミルエッタに笑い返した。
本当に、こいつには昔からずっと世話になりっぱなしだ。
俺もこれからの戦いを通じて、ミルエッタに借りを返していけるよう頑張らなきゃな……。
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