第10話 王女推参
「はぁ〜。でも、魔法少女かぁ。【
「チャーム……?」
プレシオーヌのぼやきに俺が聞き返すと、答えはすぐ隣のポポロンから返ってきた。
「あいつは、男を魅了して自分の言いなりに変えられるポン。きっとこの兵士たちも、奴に魅了されて馬車を襲ってるんだポン!」
「はぁい、よくできましたぁ♡ モフモフちゃんの言う通りよぉ。……名前なんだったかしらぁ?」
「ポポロンだポン! こっちは覚えてたんだから忘れるなポン!」
どうでもいいところでキレているところを見るに、こいつらも相性は良くないらしい。敵同士だから当たり前か。
俺はプレシオーヌを睨みつけると、ステッキを構えた。
「一度だけ言う。今すぐ、兵士たちにかけた呪いを解け」
「やぁよ。解かないわぁ」
「そうかよ──
返答を聞いて即座に交渉を打ち切り、呪文を唱えた。
ステッキの先端に収束した光が一気に放出され、プレシオーヌを飲み込まんとするが、プレシオーヌはその攻撃を読んでいたかのようにひらりと身を
「ふふっ、短気ねぇ♡ もうちょっとお遊びに付き合ってくれてもいいじゃないのぉ」
「魔族と無駄なお喋りはしないって決めてるんだよ!」
冒険者時代の経験上、魔族相手に悠長な会話をするのは自殺行為だとわかっている。
俺はプレシオーヌの懐に飛び込むと、続けざまに拳を繰り出した。
だが──当たらない。こちらの攻撃は、全て紙一重のところで空を切る。
「何だ、こいつ……!?」
「うふふっ……♡ 挙動が素直すぎ。簡単に先が読めちゃうわぁ♡」
「プレシオーヌは【
ポポロンが能力を明かすと、プレシオーヌは大げさに肩をすくめてみせた。
「あら、すぐネタをばらされちゃったわねぇ。でも、今の説明じゃ50点ってところかしらぁ? 答え合わせをしてあげるわぁ……【
得意げに笑うプレシオーヌの周囲に、七色の光球が浮かび上がり、こちらへ向けて撃ち出される。
俺はとっさに回避した──したつもりだった。
「なっ──ぐあぁぁっ!?」
七色の光球は、その全てが吸い込まれるように俺の体に直撃し、すさまじい熱とともに炸裂した。
俺の体は吹き飛ばされ、馬車のすぐそばまで叩き落とされる。
「うふふっ♡ 未来が見えるってことは、あなたがわたしの攻撃をどっちへ避けるかもわかってるのよぉ。あなたの攻撃は絶対当たらないし、わたしの攻撃は絶対避けられないの……♡」
「ぐ……く、くそっ……」
プレシオーヌ……ポポロンによれば魔神の側近らしいが、それも頷ける実力の持ち主だ。
未来が見える? そんな奴と、いったいどうやって戦えばいいんだ──?
「わたくしには、勝機が見えましたっ!」
地の果てまで轟くような声をあげて、ひとりの少女が馬車から躍り出た。
黄金を溶かしたような長い髪をなびかせ、純白のドレス姿で堂々と俺の横に立つ。頭上の冠がひときわ眩しい光を放っていた。
背丈は
「あらぁ。やっと出てきてくれたのねぇ、王女さま?」
「お……王女だって!?」
プレシオーヌの言葉に、俺は思わず隣の少女を見つめて目を剥いた。
そんな俺に、王女はニヤリと笑い返す。
「あなたが噂の天使さまですね! 初めまして。わたくしはヴォルディール王国の第一王女、アリアナ・ネリス・ヴォルディールと申します!」
「う、噂の天使!? いや、何の話を……」
「隠さなくても結構です! わたくし、あなたに会いたくてうずうずしていましたの!」
瞳をらんらんと輝かせながら語る王女アリアナに、兵士たちを殺さないように撃退し続けていた女魔術師が怒鳴りつける。
「王女殿下っ!! 今は危険です、馬車から出てはいけません!」
「いいえ、わたくしはあの魔族を倒す方法を見つけました。混乱の元を断つなら今です!」
「あらぁ……? ふふっ、大きく出たわねぇ。どうやってわたしを倒す気なのかしらぁ?」
プレシオーヌが興味深そうに唇を歪めて笑う。
俺も、攻撃が通用しないプレシオーヌをどうすれば倒せるのか、見当もつかない。
その時──どうやら未来を視たらしく、真っ先に変化があったのはやはりプレシオーヌだった。
だがその反応は奇妙なもので、眉間に思いっきりシワを寄せ、
「ちょっ……えっ? なぁに、それぇ……何のつもり?」
どういう反応なんだ、これは……?
と、俺がプレシオーヌに意識を集中させている中──アリアナは左右の手をわきわきと蠢かせ、俺の背後に迫った。
「こうですっ!!」
そして──俺の胸を、ぐわしっ!! と思いっきり鷲掴みにした。
「ぎぃやあああぁぁっ!?」
反射的に絶叫する俺。
そんな俺に構わず、アリアナはむにゅんむにゅんと胸を揉みしだいてくる。
魔法少女のコスチュームにフィットしている豊満な乳房へと指が沈み込み、弾力によって押し返すように形を変えていく。
そんなアリアナの奇行と、被害に遭っている俺の様子を、プレシオーヌは怪訝な目で見つめていた。
「……うわ、ホントにやってるわぁ……あなたたち、何してるのよぉ?」
「こ、こっちが聞きてぇよっ!!」
思わず俺が叫ぶ様子も含めて、プレシオーヌは呆れたように観察していたが、不意にはっと我に返ったように目を見開いた。
「っ! まずいわぁ……!」
「【
女魔術師がプレシオーヌに向かって呪文を唱えたのと、プレシオーヌが回避行動を取ったのはほぼ同時だった。
何本もの電撃が一斉にプレシオーヌへと襲いかかるが、プレシオーヌはスレスレのところで身をよじり、直撃を避けたように見えた。
かわされたか……!?
「ああああぁぁ〜!! やだわぁ、もう! 最悪ぅ〜!」
……そう思った瞬間、プレシオーヌは怒りを露わに叫んでいた。
その手で自らの長い髪を一房すくい上げ、チリチリと焦げている毛先を見せつけてくる。
「わたしの髪、焦げちゃったじゃないのぉ! こんなのもう、テンションだだ下がりよぉ。やってられない。帰るわぁ」
「えっ……ちょっ、おい」
即決したプレシオーヌは、俺が止める間もなく、空の彼方へと飛んでいってしまった。
……呆気にとられつつその背を見送ってから、俺はずっと胸を揉み続けてくる背後の王女殿下へ振り返る。
「……王女様。何なんです、さっきから?」
「あの魔族に未来が見えるといっても、何か理解不能な出来事が起これば、その理由を考えざるを得ないはず。そうして隙を作る作戦だったのです!」
説明になっているのかいないのか、よくわからない話だ。
女魔術師が俺の気持ちを代弁するように肩をすくめる。
「まあ、おかげで隙が生まれたのは事実ですが、そろそろ彼女を離してさしあげたらどうですか? じき、兵士たちも目を覚ますでしょうから」
そう言われて周囲を見ると、馬車の周りに群がっていた兵士たちは全員倒れ、意識を失っていた。
どうやらプレシオーヌが撤退したことで、魅了も無事に解けたらしい。
アリアナはようやく気を抜いたように俺の前方へ回りこみ、ぎゅっと手を握ってきた。
「ねえ、天使さま! あなたのお名前はなんとおっしゃいますの?」
「だ、だから天使じゃないですって。……魔法少女の、エルドラといいます」
慣れない形で名乗ると、アリアナはそのぎこちなさを緊張だと解釈したのか、くすくすと朗らかに笑ってみせた。
「エルドラさま。助けていただいたお礼をしとうございます。ぜひ、お城にいらしてくださいませ!」
「お……お城って、王様の……?」
「はい、もちろんです! わたくしは国王の娘ですから!」
当然という感じで胸を張るアリアナに、俺は圧倒されっぱなしだった。
王都で魔神の情報を集めるつもりだったから、好都合な話ではあるんだが……この王女様についていって、本当に大丈夫なんだろうか……?
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