第5話

「取り敢えず…配信はしてないのか、じゃあ、なんでこんな所に?」


「…」


口を硬く閉ざす動音メロ。

どうやら言いたくないらしい。


「…そっか、分かった、じゃあ聞かない」


もしかすれば、配信者ではない可能性があった。

こんな危険な場所に、訪れる理由など、配信しかないと思っていた。

だが、他に考えられる事があるとすれば、それは配信者の追っかけとかだろう。

能力を持たない人間が、こんな場所に一人で来る事自体危ない事だ。

だけど、それを強く説教するつもりは無かった。

彼女は怯えているのだ、其処まで目くじらを立てて言う事も無いし、身を以て危険を理解しただろう。

それに、結局は赤の他人、口にした所で、むきになって反感する事もあり得る。

下手に気持ち良く説教をして、それが相手に響いて無ければ意味はない。


「取り敢えず、戻ろうか」


ここは禁忌域である。

一人でうろつくのは推奨し難い。

一般人が歩けば、命の保証は無いだろう。

間違って来てしまったのならば、帰り道は一緒に行かないかと提案する。


「…うん」


動音メロ何も言わず頷いた。

神守クロウの提案に承諾したと見て良いだろう。


「じゃあ、行こうか…一応、後ろについて来てくれ…」


神守クロウが先行して歩き出す。

その時、神守クロウの手のひらを動音メロは掴んだ。


「うえ?!」


一瞬驚く神守クロウ。

後ろを振り向く。

当然といえば当然だが。

神守クロウの手を握っているのは動音メロだった。

ただ、手を握っているわけでは無い。

指と指の間に指を絡める。

恋人繋ぎのような手の握り方だった。


「(え、えぇ?!ちょ、なん、どう、えぇ!?)」


神守クロウは戸惑っている。

当然だろう。

出会って数分もしていない女性から恋人のように手を繋げているのだから。


「あ、あの…メロ、さん?手…」


声のトーンを抑えめにして神守クロウは動音メロに聞いた。

指摘すると動音メロは暗い表情をより一層、蒼褪めた。


「なんですか…ダメですか?貴方もなんですか?私を捨てるんですか?思わせぶりな事して、私に嫌悪を抱いていたと?私は、私は傷ついているのに、突き放すんですか?どうして?私が何か悪い事でもしたんですか?手を握る事すら許してくれないんですか?じゃあ、全部、全部私が悪いんですね?そうなんですね?私が、私がッ、誰も、誰も愛してくれないのは、そういう意味だって事なんだ、私が気持ち悪いから、気持ち悪いからッ…」


自分の行為が悪い事だと言われたか如くにショックを受けている。

声を震わせながら自分の存在の否定するように事を言い始めた。

よほど精神的に迷っているのだろう。

神守クロウは慌てるように動音メロの言葉を否定する。


「いや、ち、違う…そういう意味じゃない、本当だ、ッ!!」


喉奥から、否定的な声を漏らした。

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