第2話

禁忌域を歩く神守クロウ。

基本的に歩きながら移動する。

住宅街ではあるが、移動用の車やバスは稼働していない。

舗装された道路は罅割れている。

所有している移動用の道具があれば、移動は楽になるだろう。

だが、神守クロウは貧乏だ。

配信者は、動画の再生数に応じて報酬が得られる。

だが、登録者数の少ない神守クロウには、報酬は些細なものだった。


「はァ…肉体的に、精神的に、キツイな」


動画を撮り続けていれば、何れは登録者数も増えるだろう。

そう思いながら活動していると、配信を終わった後に増える事の無い登録者数を見て、愕然としてしまう。

だが、それでも止めてしまおうと言う考えに至る事は無かった。


「神様の為だ…腐って堪るか」


神守クロウには契約している神が居る。

彼の功績は全て、神に還元されるのだ。

神守クロウは、自らの神を天上へ押し上げる事を決意した。

並大抵の覚悟では出来ない事だ。


だから、誰にも見られないからと言って、神守クロウは自棄を起こして配信を廃業しようなどとは思わない。

全ては、自らの心を溶かしてくれた神の為。

その為に、神守クロウは尽力するのだ。


「…けど、奥まで行くと、戻るのも厄介だな」


徒歩で移動して、禁忌域から脱するのに一時間。

其処から自宅に戻るまで、バスを利用して三十分程。

せめて自転車でもあれば、移動する時間が節約出来る。

しかし、それを提言出来る立場ではない事を、神守クロウは理解している。


現状、神守クロウは、神様に喰わせてもらっているのだ。

当然ながら、配信サイト『Yaoyoroz』が神様の為の配信サイトであれば。

その配信を行うのは、人間だけでは無く、神様も配信を行う。

今の神守クロウよりも、契約している神様の方が収入がある。


人が神に捧げる筈なのに、神が人に捧げている状況。

これは、契約している人間にとってはこれ程無いまでに情けない事だった。


「…健康一番、歩いて帰れば、運動にもなるしな」


そう言い訳をして、神守クロウは歩き続ける。

禁忌域を進んでようやく半分と言う位置。

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