第6話 睨み合い?

 将軍の「面白い」の一言で、再び6番機の工廠へ戻ることになる。わたし達以外は誰も工廠には来ないはずだから、邪魔は入らない。

 皇子とフレイヤ様は、模擬刀を手にして向かい合った。



 フレイヤ様は、皇子が模擬刀を両手に構えるより早く一気に駆け出した。

 先手必勝、真に疾風のような速さで距離を詰めて、下方から逆袈裟に模擬刀を斬り上げる。決まった・・・と、わたしには思えた。

 けれど、一瞬早く皇子は一歩踏み込んで、僅かに左に身体を逸らしていた。

 次の瞬間、フレイヤ様の華奢な身体が宙に浮く?

 身体を逸らしながら右脚だけ残していて、フレイヤ様は見事に足払いをかけられたのだ。

 ドスン!

 顔面こそ打たなかったようだが、膝も腰も胸も肘も床に打ち付けたようだ。


「僕も、よくこの手で転ばされるんですよ」


 皇子は笑顔のままで、突っ伏しているフレイヤ様に声をかける。


「もう一回だ!」


 身を起こしたフレイヤ様が、皇子を睨みつけながら再戦を申し入れた。しかし、皇子はフレイヤ様の「もう一回」には返事をしない。

 わたしは漠然と気付いた。この人は何かが違う、と。


「では、今日はこれで失礼します」


 模擬刀をアリスに手渡すと、皇子は工廠の出口へ向かって歩き出す。


「待て!日嗣皇子ひつぎのみこ!」


 皇子はフレイヤ様の声を聞こえないフリをする。将軍も、フレイヤ様の頭をポンと軽く叩いてから皇子を追って工廠から出て行った。



 翌日、フレイヤ様の機嫌は最悪だった。

 皇子に相手にされなかったことか、叔母上である将軍が自分よりも皇子を優遇していることか、それとも両方か・・・理由は、3つのうちのどれかだろう。

 不貞腐れ気味のフレイヤ様は、剣での接近戦にしか応じない。しかも、加減ができてないから相手をしてくれているB級機体を大きく破損させてしまった。


「ポテンシャルの違うA級でB級に本気になるのって、もうイジメだよ。第一、戦うのが目的じゃないの。機体を調整するためのデータ取ってるんだから」


「・・・」


 返事がない。外の風にでもあたって頭を冷やそうと思い、コクピットの胸部装甲を開いた。

 A級ジークフリード型のコクピットは、二階建になっていてSユニットの上にCユニットがある。一緒に外へ降りるつもりだったが、フレイヤ様はSユニットへ乗り込んできた。


「ちょっと!重いよ」


 一人でも狭いところへ入り込んできて、わたしの膝の上にお尻をのせる。


Cユニット操縦者コントローラーのメンタル管理もSVの仕事だからな。私を慰めろ」


 照れながらも命令口調な物言いが、妙にかわいいと思ってしまった。思ってしまったんだから仕方ない、フレイヤ様の背中から腕を回して肩を抱き寄せた。



 いつの間にかアリスは「親の決めた縁談」賛成派に宗旨替えしていた。


「例のレールガン、A級の11番機用に調整する指示を、月夜見つくよみ様が出してるそうですよ」


「そんな情報、何であなたが知ってるのよ?」


 今日の模擬戦は、フレイヤ様の機嫌のせいで中止。時間を持て余したアリスは、ラインゴルド城へ入城している帝国の陸上戦艦を見学に行ったとか。フレイヤ様の手伝いをしてる者と言うことで、艦内では待遇が良かったそうだ。

 わたしはフレイヤ様が壊したB級機体の件で、整備班から大目玉を食らってたんだけど。


「11番機は、射流鹿いるか様の専用機なんですよ。フレイヤ様が嫁がれることになったらレールガンをいじれます!」


 レールガンのために、姫を売る気か?しかも「射流鹿いるか様」とか呼んでるし。


「とにかく決闘で射流鹿いるか様が勝ったんだから、次は肉体からだの相性を確かめるんですよね?」


「今、フレイヤ様がいたら、あなた殺されてるかもよ?」


 11番機ね。皇子にも専用機があるのに驚きだな。

 帝国の帝には専用機がある。帝の後継者なんだから、帝専用機を継承するものだと思ってた。


「ああ、帝の専用機とは相性が合わなかったそうです。11番機との和合率も91パーセントとか。射流鹿いるか様は、重甲機兵とは相性良くない人みたいですね」


「え?」


 和合率91パーセントの11番機が相手なら、和合率96パーセントの6番機が圧倒的に有利じゃないか!

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