第7話 暗転

 日が落ちて少し過ぎた頃、カイザー隊のCNコードネームダンとCNコードネームレンジが6番機工廠に集合した。フレイヤ様の八つ当たりで、ダンのB級機体は修理工場へ直行。代わりにレンジがB級機体と共に模擬戦に参加してくれることになった。手の空いてしまったダンも雑用係で残ってくれると言う。


「そう言えば、フレイヤ様は?」


射流鹿いるか様と月夜見つくよみ様が、領主様のところへお見舞いに行ったじゃないですか。だから、領主様の部屋の前で待ち伏せしてますよ。射流鹿いるか様ともう一回、手合わせするんだって」


 言ってるところでフレイヤ様が工廠に入ってきた。憮然とした表情からすると思惑通りには行かなかったんだろう。


「どうだったんですか?」


 ダンとレンジが、フレイヤ様に問う。


「母上と叔母上に止められた」


「皇子は、何と?」


「何も言わない。あの男は、私の声は聞こえないフリをする」


「何でだよ!」


 ダンとレンジが「納得できない」として、フレイヤ様に同情を示す。


「男らしくねえ皇子だな」


「ちゃんと決闘を受けて、どっちが強いか白黒つけるべきだ」


 ダンとレンジは、皇子と将軍を領主夫人エリス様が出迎えた場面を見てないから、理解できてないんだろう。

 領主夫人エリス様は、警備兵こそ連れてはいたが当人は丸腰。しかし、皇子と将軍は二人とも軍刀を佩いていた。

 それは・・・帝国の要人は、ラインゴルド領主を斬り捨ててもいいってこと。帝とラインゴルド領主が旧友であっても、政治的な立場ではずっと格上な存在。

 皇子自身はラインゴルドを快く思っていないんじゃないだろうか?

 帝と将軍の手前、愛想笑いをしてるだけで・・・。


「もう・・・。あの皇子に関わるの止めようよ。嫌な予感しかしない」


 とにかく、明日の予定としてレンジのB級機体をアリスのB級機体が後方から支援する2対1の模擬戦を行うことを決めて解散した。



 アリスの遠距離射撃だけで翻弄されて、レンジの機体に近づく前に6番機が撃破判定される未来しか見えない。フレイヤ様の機嫌次第で、レンジの機体も大破されるかも。

 現実逃避したい・・・のに、ダンとレンジが声をかけてきた。


「将軍を呼び出してくれ?」


「俺達で、皇子を説得してみるよ。フレイヤ様とちゃんと試合をしてくれるように」


「無理だと思うけどね」


「男同士で話し合ってみる。だから将軍にも席を外してもらいたいんだ」


 わたし自身、将軍に相談したいことはあった。2人には絶対に、皇子に対して非礼なことにならないよう念を押して承諾した。

 正直、が通じるようなタイプじゃない。わたしの本音は「無駄」とわかって、諦めてくれることだった。



 ラインゴルド城の客間を担当してるメイドを通して、将軍を呼び出してもらう。


「オルガだったな。6番機には慣れたか?」


 将軍は、わたしの戦歴や6番機の改修に関しての情報を既に頭に入れていた。帝国に軍籍を移しても、ラインゴルドやフレイヤ様のことは親身に思ってくれているのは間違いないんだ。


「皇子の11番機で、6番機との模擬戦をして頂けませんか?」


 将軍の表情が一瞬曇る。そして、何か合点がいった様子。


「フレイヤが勝てると思っているなら間違いだ。射流鹿いるかが負けることない」


 将軍は、わたしの思惑を完全否定した。何故?と問いかけようとしたが・・・。

 その時。



「おおーーーー!」


 悲鳴とも絶叫ともわからない声が響いた。数秒遅れて、城の非常警報が鳴り響く。

 将軍は即座に声の方向に走り出し、わたしもその後を追いかけた。しかし、あの悲鳴は聞き覚えのある声・・・嫌な予感で内心は真っ暗だった。


 わたしの視界に入った光景。

 客室の廊下に広がる真っ赤な鮮血。少し前まで明日のミーティングをしていたダンは、その鮮血の中に突っ伏したまま動かなくなっていた。

 戦場で見慣れたはずの死・・・なのに、わたしは嘔吐感が込み上げてその場にしゃがみ込んでしまった。


「ダンが持っていたのは模擬刀だぞ!わかっていたはずだ!」


 レンジが叱責の声を向けている先には、皇子が真剣の太刀を握って立っていた。

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