第5話 お見合い?

「別に、親が決めた結婚に従う必要ないんですよ」


 アリスは、キッパリとフレイヤ様の縁談を否定する。カイザー部隊でB級機体に搭乗する女性パイロットだ。わたしが6番機に慣熟するための模擬戦に参加してもらっている。


「その話はいいからさ。6番機の射撃成績はどんな感じ?」


「良いはずないじゃないですか。わかってるクセに」


 フレイヤ様は剣での接近戦はすこぶる強い。でも全然ダメだった。


「撃たない方が資源の節約になる分、マシじゃないですか?」


「当人がいる前で、よく言えるな」


 後ろでフレイヤ様が頬をふくらせた。アリスはフレイヤ様に見えないところで片目を瞑って舌を出した。

 ラインゴルド城地下の工廠。

 わたし達3人は昼間の模擬戦を検証しているところだ。アリスは、カイザー隊でも銃火器による遠距離攻撃を得意にしているので、6番機が使った銃火器はアリスに照準を調整してもらった。

 同じ銃火器を使っても、アリスとフレイヤ様の成績は雲泥の差だ。



 重甲機兵の装甲はレーザーやビーム等の光学兵器は拡散してくれる性質がある。なので光学兵器での致命傷は受け難い。対重甲機兵の戦闘なら物理的兵器の方が有効。

 だから銃火器も実弾だし、接近戦なら剣や戦斧で戦うことになる。

 実弾では射出から着弾までにタイムラグがあって、その間に敵機は移動する。それを予測して射撃をする必要があるのだが・・・それがフレイヤ様にはできてない。


「ペルセウス型重甲機兵みたいにAIで予測する標準装置つけますか?」


 ペルセウス型重甲機兵はAIによる自動化を積極的に進めているが、ジークフリード型重甲機兵は真逆にアナログ路線を頑なに維持してる。善し悪しはそれぞれ。


「ジークフリード型を否定するな!」


 フレイヤ様はアナログ派らしい。わたしもアナログ派なので、そこは気が合う。


「じゃあ、超々高速で射出するレールガンはどうですか?タイムラグが極小で、射程も長いからターゲットを直接狙ってOKです。帝国の技術部で携帯型のを開発したはずですよ」


「帝国の新兵器をどうやって持ってくるのよ?」


「フレイヤ様が帝国へ嫁げば、貰えるんじゃないですか?」


 結局、フレイヤ様の射撃の腕を補正するのは「親の決めた結婚」なのか?



 フレイヤ様の射撃成績の検証を終え、工廠を出て城の居住区に戻ったところで月夜見つくよみ将軍と日嗣皇子ひつぎのみこに出会った。皇子も将軍も昼間と同じ軍服姿だった。


羅侯らごう射流鹿いるかです」


 昼間はフレイヤ様が将軍に纏わり付いただけだったので、改めて皇子の自己紹介を受ける。皇子は落ち着いた笑顔で、わたしとアリスの自己紹介も受けてくれた。フレイヤ様は憶えて居なかったようだが幼少時に会っていたと言う。

 将軍がフレイヤ様と兄のフレイ様の剣を指南したのは昼間に聞いた話だが、帝国では皇子にも剣を教えていたそうだ。

 皇子にとって将軍は師匠と言うことだからか、皇子が将軍に対して丁寧語で、将軍が皇子に対して命令口調だ。

 いや、将軍は誰に対しても命令口調で、皇子は誰に対しても丁寧語だった。



 皇子と将軍が立ち去ろうとするのを、フレイヤ様が呼び止めた。


「待てよ。帝国の日嗣皇子ひつぎのみこ


 皇子に対して、露骨な敵意を込めた視線。

 これは・・・ちょっと歪んだ嫉妬ってヤツだな。月夜見つくよみ将軍の日嗣皇子ひつぎのみこ贔屓も有名だ。一部で「皇子の実母は将軍では?」なんて噂も流れるほど。


「叔母上は、私にとっても師匠なんだ。だから、私はあんたの妹弟子ってわけだよな。この機会に一度くらい、妹弟子に剣の稽古をつけてくれよ」


 本当に、わかりやす過ぎる。ここで皇子を打ち負して、自分の方がアピールしようとしてるんだ。


「僕は未熟者ですから稽古をつけられるほどの腕はありませんよ」


 皇子は、フレイヤ様の挑発を笑って受け流そうとしたが、それを見ていた将軍がクスクスと笑い出す。


「面白い。一度くらい相手をしてやれ」


月夜見つくよみ様・・・」


 フレイヤ様はしてやったりとニヤリと笑う。一方の皇子は、なぜかヘラヘラと笑っていた。

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