第3話 バレンタインの告白

 正直、クリスマスのその一件で感じ取ったものはあったけど。それでも、夢見心地というか。半信半疑というか。浮かれながらも『そんなまさか』と信じきれない自分がいた。

 そうして小織ちゃんに出くわすたび、どぎまぎとして……しかし、小織ちゃんから何か切り出されるわけでも無ければ、俺からあのハグのことを言及する勇気があるはずも無く、しばらく悶々と過ごした。やがて、あれは本当にサンタさんだったんじゃないか? とすら思い始めていた頃、


「もう気づいていると思うけど、好き……です。ずっと好きでした」


 それは雪でも降りそうな二月の夜。うちの門の前でのことだった。顔を真っ赤にする小織ちゃんと向かい合い、俺はポカンと突っ立った。受け取った『本命チョコ』を手に……。


 ああ、アレはサンタさんじゃなかったのか、と最初に思った。

 そして――嬉しかった。


 静まり返った住宅街。すっかり日が落ち、街頭の淡い灯りが頼りなく照らす中、俯く小織ちゃんは今にも泣き出しそうに見えた。

 ああ、早く返事をしなくちゃ――と息巻き、


「あ、あのさ……」

「――答えはいりません!」

「いらないの!?」


 ぎょっとする俺に、小織ちゃんはモコモコ手袋で顔を覆うようにして、


「だって……私のこと、そんなふうに見てないの、分かるから」

「え……」

「女の子として……見てない、よね」

「あ……」


 ギクリとした。

 確かに、そうだ。見ていなかった。あくまで小織ちゃんは『喜一の妹』で。異性として見てはいけない、と思っていたから。でも……。

 

「せめて、伝えたかった……んだ」と小織ちゃんは一呼吸置いてから上擦った声で言って、「もう我慢できなくなってきちゃったから。スッキリしちゃおうと思って」


 だから――と小織ちゃんは意を決したように、手袋をした手を下ろし、


「チョコ、食べてね。――おやすみなさい」


 鼻の先を赤くしてにこりと微笑む小織ちゃん。俺に気を遣わせまい、と必死にに気丈に振る舞おうとしているのは一目瞭然。

 堪らなく胸が締め付けられた。


「小織ちゃん、ちょい待って!」


 気づけば俺はそう声を上げ、身を翻した小織ちゃんの腕を掴んで引き留めていた。

 キョトンとしてこちらを見つめる小織ちゃんの瞳には、星屑みたいにキラリと輝くものが見えた。

 その様があまりに純真で尊く思えて……喉の奥からくわあっと熱く込み上げてくるものがあった。


「あの、いや……、と言ったら、キモいかな!?」

 

 なんだ、そりゃあ? と呆れ返る己の声が聞こえた気がした。

 刹那、『やっぱり、ちょっと無理』というクリスマスのトラウマLINEが頭の中で小織ちゃんボイスで再生され、ゾッと背筋が凍りついた――が。

 小織ちゃんはしばらく目をパチクリとさせてから、甘いお菓子でも口にしたかのような蕩けんばかりの笑みを浮かべ、


「――嬉しいです」


 はにかみながらそう言った。

 

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