12ないよりはある方が好き
「わたくしはウィリアと申します」
「ウィリア?どこかで聞いたことあるよーな?」
ミミは顎に指を当てて宙を眺めた。
今日の天気はどうやら快晴で雲ひとつない澄んだ空が広がっている。こんな日はお散歩なんて良いだろうなぁー。
「シュー様?」
そうだった。さっきまでお散歩してた。ウィリアと2人で森の中をのんびりと歩いていた。余計な犬も途中までは一緒だったがとても良い気分でお散歩していた。
「シュー様?」
「シュース?」
それが何故、右腕にはミミが左腕にはウィリアが抱きつくように引っ張り、2人が視線を合わせれば火花が飛び散っているかのように睨み合っているんだろう。
「シュースっ!!」
右腕が強めに引っ張られた。
現実から目を逸らそうとしたけど、2人に挟まれてしまってはそうもいかなかった。
ミミの発言のせいで今後ウィリアとの生活がギスギスしてしまったらどうするんだよ……違うと否定したところで不審な気持ちが完全に晴れたりするわけじゃないんだぞ。
ほら、私の左腕を抱くウィリアが瞳を潤ませて私を見てるじゃないかっ!かなり疑われているような気がする。半分嘘で半分本当って言った私も失言だったが………
私に親しい間柄の人はいないと、どうにか誤解を解かなければ……
「お、お前誤解を招くような発言するなよっ!!」
「えー。本当のことじゃーん」
「私がいつミミの彼女になったんだよっ!!」
「だって2人で愛の逃避行したじゃない」
「(魔王討伐の)旅なっ!!2人じゃないし!他にも仲間が一緒だったろ」
「毎日熱い夜過ごしたでしょ?」
「交代で夜の見張りしてただけだ!ミミが私と一緒じゃないとやだって我儘言ってたんだ」
「一緒に寝たでしょ?」
「勝手に私のテントに忍び込んできただけだろ!!」
むーとミミは頬を膨らませた。
はぁはぁと肩で息をする。こいつに付き合っていると疲れる……
魔王討伐の仲間が私以外みんな貴族でミミも貴族令嬢だが、他の仲間が平民の私を見下す中、ミミだけは何故か私に懐いていて長い旅では気軽に話せる相手だった。私と他の仲間の仲もとり持ってくれたりと助かっていたのは事実。
それでも、ミミだって……魔王城で私を置いて行った1人でもあった。
「シュー様?」
キュッと私の左腕の袖を握られた。
「あ、えっと……この子はミミって言って、私の――えーっと、旅の元仲間?で、別に深い間柄ってわけじゃないからね?」
「そう……なんですか?」
「まぁ、一緒に魔王ウッ……もごっ!」
慌ててミミの口を塞ぐ。
(魔王の話は禁句だから!ウィリアの前でその話はやめろ!!)
「もごっもごっ!!(なんでっ?)」
(どうしても!!)
ウィリアの親である魔王の話はできるだけ避けたい。下手に魔王の話をしてウィリアを悲しませるようなことを私はしたくなかった。魔王を倒した本人が言うのもなんだが……
うんうんとミミが頷くので口を押さえていた手をどかした。
「ぷっはぁ……それで、ウィリアさんだっけ?シュースとはどういう関係なの?」
「わたくしは――シュー様の……シュース様の………許嫁……です」
ウィリアは指先をモジモジと可愛らしくいじりながら照れたように頬を赤らめた。
「は?いいなづけ?」
小柄で小さいミミは大きく目と口を開けて顔いっぱいに驚いた表情を見せる。目が点になると言うのは、こういう顔のことを言うんだろうか、大きく見開いた目は黒い部分が丸く綺麗に見えている。
「シュース!許嫁いたの!?」
「王国に帰ってきたら出来てた……ミミもここに来たってことは知ってたんじゃないの?」
だいたい国中の人々がいる中で発表されたことだし、当然みんなが知っていることだと思っていたんだけど……
「知らないわよっ!シュースが帰ってきたって聞いて、どこにいるのか場所を教えてもらってここにすっ飛んできたんだもん!」
無い胸を大きく逸らして“すごいでしょ“と言った様子だ。
私の帰りを待っていてくれたのは素直に嬉しいけれど、ほんとに居場所だけ聞いて他の話に耳を傾けずにここまで突っ走るところは一緒に旅をしてきた時から変わらない。
「まだ愛人枠は残ってるから、それでいいわ」
「そんな枠ないから!!」
彼女と言ったり、愛人と言ったり一体ミミは私に何を求めているんだ!?
「許嫁だって勝手にできてたんでしょ?愛人だって勝手にできてても良くない?」
「良くないなぁ!!全然良くない!」
そんな節操のない奴になりたくもない。
「そ、そうですよっ!シュー様に愛人枠なんて必要ありません!!」
左腕に柔らかい何かが押し付けられる。
何かなんて言い方しなくてもわかる。デカい……
「必要か必要じゃないかはシュースが決めることだと思いますけど!?」
「いや、良くないって言ったよね?」
「シュー様はいらないと言ってます!私だけで足りてるんですっ」
むぎゅむぎゅと胸が押し付けられる。おおぉう……
「何よっ!ただデカいだけじゃダメなんだからねっ!」
「ないよりはあった方が良いと思いますっ!」
右腕には多少柔らかさを感じる何かが押し当てられる。
容姿としては可愛い女の子だが、私の好みはどちらかというと大きい方だ。ないよりはあった方が好き。口には出せないが……
2人はバチバチと私を挟んで火花を散らしている。
とりあえず、家に行きませんか……
太陽はすっかり真上まで登っていた。
魔王討伐して帰ってきたら魔王の娘が許嫁になっていた シャクガン @yamato_
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