11ミミ
ウィリアの嗅覚が犬並みにすごいということではないらしい。
普通の人間よりは優れている嗅覚と、あまり人が立ち入らない森に残る痕跡、あとは気配を感じて私のいる場所がわかったそうだ。
何それ怖い……
私がどこにいようと後を追ってこれるんじゃないだろうか。
浮気をしようものなら『別の女の匂いがしますね』などと確信的に言ってきてすぐにバレてしまうかもしれない。いや、その前に浮気現場に乗り込んできて『誰ですか!この女は!!』とか『この泥棒猫!!』とか……
……ウィリアが浮気現場に怒鳴り込んでくる様子が想像し難い。まだウィリアと過ごして1日くらいしか経ってないけど、ウィリアの怒り方は声を荒げるタイプではなく静かに怒るタイプだ。内に溜めた怒りを爆発させた時、声を荒げるタイプの人よりも恐ろしい。
ま、まぁ?私は浮気などしないですけどね?そんな相手はいませんし。
森を抜ける頃、私たちの後をついて来ていたオルトロスは森の奥へと戻っていった。
家まで着いてこなくて一安心だ。飼い犬みたいに家で飼うなんてことになったら、夜も眠れなくなる。
何もない場所にポツンと建つ屋敷が見えてくる。
「良いお散歩になりましたね」
「そうだね」
行きよりも随分と時間をかけて帰ってきた。
よくよく考えてみれば、こんなにゆっくり帰ってこなくてもよかったかもしれない。ウィリアだって身体能力的には私より上だし、走ればこんな森あっという間に抜けれただろう。
「あれ?誰かいますね?」
「え?」
屋敷を見つめるウィリアの視線を追って私も屋敷の方へ視線を向けると、こんなところまでやってくる人などいなさそうなのに、確かに屋敷の壊れたドアの前には誰かが立っているのが見える。
私たちが近づいていくと、相手も気づいたようでこっちに手を振り私たち向かって走ってきた。
「シューーースゥゥゥ」
「うげっ!!」
ダッシュで近づいてくる相手の姿がはっきりしてくるにつれて、私の顔がどんどん青ざめていくようだった。
「お知り合いですか?ーーー」
「会いたかったよ!!シュース!!」
「ゴフッ!!」
隣にいるウィリアに目もくれず、私に向かって勢いよく飛びついてきた。
私より小柄なくせして力は強く、勢いに任せて飛びついてきた女の子に押されて2人して地面に倒れ込んだ。
「いててて………って、な、なんでここにいるんだよ!?」
「なんでって、シュースに会いにきたんだよ?すっごく心配してたんだからね?帰ってきたら、すぐにミミの所に来てくれるって思ってたのに……」
「あ、会いに来たって……だって、お前……」
倒れ込んだまま私に抱きついてなかなか離れない。いい加減離れて欲しいんですが……
「しゅ、シュー様……あの、そちらの方は?」
ミミが私の胸に顔を埋めてぐりぐりと頭を擦り寄せてくる。
「あ、あ、あの!しゅ、シュー様……そ、そちらの方は……」
「えっと、この子は――」
ウィリアの声が震えている。怒りで震えているのか!?や、やばい早く離れろっこいつっ!!
力づくで離そうとしても私より小柄なミミはなかなか離れようとしない。
「だぁれ?この人?」
ミミが顔を少し離してやっとウィリアの方へ視線を向けた。
「だ、誰って………」
「あ、そっか!自己紹介しなきゃっ」
ミミが勢いよく立ち上がり、頭を軽く下げた。
「ミミって言います!」
腰に手を当ててない胸を張った。
「ここにいるシュースの彼女です!!」
「か、か、か、かかかの、かのじょ?」
ウィリアが驚きで目を見開いて、錆びついたブリキ人形のようにカタカタと口が動き、なんとか言葉を発している。
どこからか“ズガーン“という効果音が聞こえた気がした。
「ちょっ!!お前!!何言って―――」
「だって一緒に寝た仲でしょ?」
「い、い、いっしょ、に……ねた?」
“そ、そうですよね……シュー様にそういうお方がいる可能性だってあった訳で……ちゃんと確認をしていなかったわたくしの不得の致すことろ……“
ウィリアが青ざめた顔で口元に手を当てて何やらぶつぶつと呟いている。
「ウィ、ウィリア!!違うっ!違うからね!?誤解だよ!!」
「毎日熱い夜を過ごしたじゃない。朝まで一緒に……」
「あ、あ、あああ…熱い夜?朝まで……」
「ミミ!!お前は黙ってろっ!!ウィ、ウィリア!!違うからね!?」
「何言ってるの?真実でしょ?本当のことじゃない?」
「そう……なんですか?」
ウィリアが右手の震える拳をもう片方の手で押さえつけている。
あ、あぁ……怒ってる!?絶対怒ってるよね!?
サーっと血の気が引いていく。背筋に汗が流れていくのがわかる。
「ミミの言ってることは……半分は本当だけど……半分は違うから……」
「は、半分も本当なんですか!!??」
「え、えっと……」
ウィリアを怒らせてしまったらどうなるか想像がつかず、恐怖が勝り言葉がうまく出てこない。
「それでこの人誰なの?シュース」
ミミが空気も読まずに私の腕に絡みついてくる。
それを見たウィリアの眉を歪め、目が少し細められた。
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