10良いお嫁さんになりそうな人だ

2人で切り株に座り、ウィリアから手渡されたサンドイッチを一口齧る。


ふわふわのパンに挟まれたトマトにハム、チーズとシンプルだが王様が事前に用意してくれていた食材はどれも良質なものばかりで、そのまま食べても美味しいし、こうやってサンドイッチにしたら更に美味しくなっている。


ムシャムシャと咀嚼をしていると、ウィリアがジッと私を見つめてきていて、期待するように私の様子を伺っている。


な、なんだこの視線!?何に期待されているんだ!?味の感想か?


ゆっくりと味を確認するように食べてみるが、挟まれている食材も同じで昨日食べたサンドイッチと変わりない普通のサンドイッチだ。


昨日の夜2人で一緒に作ったサンドイッチと同じ味がする……


トマトを切るのをお願いすればまな板ごと包丁で真っ二つにしたり、パンに食材を一緒に乗せていれば“シュー様のサンドイッチは具沢山にしました!“と私が作ったサンドイッチの何倍もの具材が挟まれていた。


食材も見たことないような色のソースがかかっていたり、どこから捕まえてきたんだというような足が飛び出ていたりしてオリジナリティ溢れるサンドイッチが出来上がっていて、パンとのバランスも大事だと諭して作り直したけど、とてもじゃないが得体の知れない足を食べる気にはならなかった。


あ、そうか、ウィリアが1人で作ったサンドイッチか。


「すごく美味しいよ」


私が笑って言うと、ウィリアも嬉しそうに可愛く笑った。


料理をしたことがないと言っていたウィリアが初めて1人で作ったサンドイッチは、なんか特別な気がしてより美味しく感じる。


そうか、これが成長か。ちゃんと教えてあげれば得体の知れない足が飛び出すような料理は出てこないってことだ。


「これからはシュー様の為に毎朝朝食をお持ちいたしますね」

「え、そんな……わざわざ持ってこなくても家に帰ってから2人で作って食べてもいいんだよ?」


「2人で作るのも魅力的ですが、わたくしがシュー様の為に作りたいのです」


淀みのない瞳で見つめられながら言われると頷くしかなくなる。


ウィリアって絶対いいお嫁さんになるタイプだ。夫に尽くして家事をこなしていくウィリアが想像できて、そんな夫を羨ましく思う。


あ、私が許嫁だった。


ということは、私がウィリアに尽くされる方なのか。朝は私の為に朝食を作ってくれて、昼は一緒に街まで買い物に行ったりしたいなぁ。


夜は―――ウィリアの方を見る。


家に用意されていた服を着てきたのだろう。ゆったりとしたパンツスタイルに胸元が大きく開かれているシンプルなシャツ。谷間の主張がとても激しい。


そんな激しめな胸元が夜には――――


「シュー様?」


ウィリアが私の顔を覗き込むようにして前屈みになった。


「うぉぅふっ」


前屈みになって更に強調された胸圧がゆさっと揺れて、視線が勝手に胸に行ってしまう……


朝から刺激が強すぎる!なんでそんなに胸を主張するような服装をしてきているんだ!


こんな人気がないような場所でそんな格好をしてきたら、私が男だったら襲われかねないぞ!


「私が女で良かったね。ウィリア」

「?」


なんのことだろう。と言った表情で首を傾げている。可愛い。


まぁ、私が男でも女でもウィリアに手を出したところで、返り討ちにあって終わりだろうけどね。


膝に乗せているサンドイッチに手を伸ばすと、そこにはもう何も残っていなかった。


「あれ?」


あと二つは残っていたはずのサンドイッチが膝から消えていて、横を見れば二つの頭を持つオルトロスがモシャモシャと口を動かしていた。


「あ!お前!!私のサンドイッチ食べやがったな!?」


四つの目が私を見て、艶やかな立髪を揺らし“なんのこと?“と言った様子で首を傾げる。可愛くねぇ!!


「シュー様。まだサンドイッチはありますので、どうぞ」


その立髪を三つ編みにしてリボンを付けて可愛くしてやろうか!!とオルトロスを睨みつけていると、ウィリアが新しくサンドイッチをカゴから取り出して私の膝の上に乗せてくれた。


「あなたたちもわたくしのを分けてあげますから、シュー様のサンドイッチは食べないでくださいね?」

『わんっ』


ひと吠えして尻尾を振り、上機嫌にウィリアの手から直接サンドイッチを食べているが、お前はいつまでここにいるつもりなんだよ!他の仲間は見当たらないし、穴に落ちたオルトロスはもう声すら聞こえてこないぞ。


私の視線に気づいたオルトロスが口元だけで笑った気がした。こいつぅ!!!






「ごちそうさまでした」


サンドイッチも綺麗に食べ終わり手を合わせた。


「それじゃ、そろそろ帰ろうか」

「はい」


サンドイッチを入れていたカゴを持ち、家の方向に向かって歩き出す。


来る時は軽く走りながらここまで来たし、帰りはウィリアも一緒だからもう少し時間がかかるだろうか。


落ち葉を踏み締め、枝がパキッと折れる音がした。


「…………」

「…………」


「………あれ?」

「どうなさったんですか?」


「私、ウィリアに何も言わずに出てきたけど、どうしてここにいるってわかったの?」


朝が早かったからまだ寝ているであろうウィリアには何も言わずに家をでたのに、森の中にいる私を見つけ出すなんて、そういう魔法か何かがあのか?


特定の人を見つけ出す魔法?浮気もすぐにバレそう……何それ、怖い……


いや、浮気をするからってわけじゃないけど、どこにいるかすぐにバレるのがね?かくれんぼしてもすぐ見つかっちゃうからね?




「それでしたら、匂いを辿ってきました」




「匂い!!!???」


もっとやばそうだった!!




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