6魔王の遺品かよ!!
「兄は今、別の国に行ってらっしゃるので、しばらくは戻っては来ないかと思いますが」
「え、あぁ……そうなの?」
しばらくは平和って言うことかな。
でも、このことが知られれば王国中に瞬く間に広がり混乱を招きかねない。
「ウィリア……この事は誰にも言ってない?」
「えぇ」
「その、しばらくは誰にも言わない方が良いかもしれない。せめてウィリアのお兄さんが戻ってくるまでは……」
「わかりました。シュー様がそう言うのでしたら……」
せっかく王国が平和になったと国中の人たちが喜んでいるのに、水を刺すような真似はしたくないし、何より無駄な争いが生まれかねない情報は簡単に流すべきではない。
王様に教えるべきだろうか。あの王様に?ウィリアに対して恐怖で体を震わせていた人に?
ウィリアの兄が新魔王になりました!なんて教えたら白目剥いて倒れないかな……
うん。黙ってよう。
脳内会議が終わりを迎えた頃、ぽちゃんと水滴が湯船を揺らした。
「そう言えば、気になってた事があるんだけど」
「はい」
「なんでウィリアは私の許嫁になったの?」
普通母親を討伐した相手は憎い存在で、許嫁になりたい相手ではない。最初は仇を取るためかと思ったけど、そういうわけでもなさそうだし、今日初めて会ったばかりの女の私が許嫁なんて理解できない。
「あの、えっと……その――」
ウィリアは胸の前で指先をいじいじとさせていて、視線が左右に動いている。
最初この動きを見て何か襲撃前の行動なのかと思ったけど、これは多分ウィリアのクセだ。考えている時とか指をいじっちゃう人なんだろう。
指が動くたびに湯船も(お胸も)小波が立つ。
「お母様が……わたくしの結婚相手はお母様を倒せるほどの人じゃないとダメだと言われて……」
「……………え!?それってめちゃくちゃ縛られてない!?なんなら限りなくゼロじゃん!!よくその条件受けたね!?」
「ゼロじゃありませんよ?だってシュー様がいらっしゃいますから」
「いや、そうだけどさ……」
今まで何人の人が魔王の討伐に行って、そのまま行方不明となったと思っているんだ。毎年何百という人が向かい、半数以上は行方不明になり帰ってこられたとしても大怪我を負っていたりする。
私自身も半数以上の人の中にいてもおかしくはなかった。魔王に勝てたのが奇跡だと思っている。ありえない話だ。母さんがウィリアのようなボッキュッボン!なボディになるとか、私が“お前明日から王様な“って言われるくらいありえない。私がボッキュッボン!ならまだ可能性はあったかもしれないが……
視線を落とすと水中には凹凸の少ない体が見える。……………もう一度、奇跡があるかもしれないからな。
脱線していく思考をまたウィリアに向けた。
「ウィリアはそれで良かったの?」
「良いとは?」
「結婚相手が魔王を倒した相手じゃないとダメって、ウィリアはそれで良かったの?」
指先がまた動き出しチャポッと水が跳ねた。
「わたくしはシュー様が良かったのです。シュー様以外考えられません」
キュッとウィリアが手を握って真剣な眼差しが私に向けられた。
私以外考えられないって、魔王を倒した相手じゃないと考えられないってこと?強い人が好きっていうことか?それなら私は違うでしょ。私は強いわけではない。奇跡的に倒せただけなんだから……
「ウィリアが思うような人じゃないよ。私は……」
「いえ、そんなことはありません!シュー様はお強い上にお優しい方ですから!」
「お世辞はいいよ。私が1番よく分かってるんだ」
魔王討伐へ向かうパーティには私以外に4人の仲間がいた。その中でも1番強かったのはゴーシュという大剣使いで、魔法効果も使い繰り出される大剣は、ケルベロスのような大物の魔物でも一撃で倒せてしまうくらいの威力があった。
そんな仲間の中でも1番弱かったのが私だ。
仲間が先陣を切って進んでいく後を仲間の荷物を持って、ただついて歩いているだけだった。平民しかも平民の中でも私が暮らしていた街はすごく貧しい人たちが集まっているところだった。平民からも見下されるような平民。仲間に入れてくれただけでもありがたい話だったのだ。
「そろそろ上がろうか」
浴槽の縁に手をついて立ち上がると、手の届く距離に置いてある黒い鞘に収まっている剣が目に入った。
「その剣……」
ウィリアがポツリと呟く。
こんなところに剣を置いてあるのは不自然だったか!警戒してますって言ってるようなもんじゃん。いや、もう怖いですって言ったようなもんだけど、これは流石にあからさまだったよな。
「こ、これは……あの……」
「お母様の………」
「魔王様の!?!?」
まさかの遺品だった!?魔王城で拾った剣だし、使い心地も良いし、すごく良質な剣だと思ったら魔王が使っていたものだったとは!!
ウィリアにとってはすごく大切な剣じゃん。
気に入っていたけれど、これはウィリアに返すべきものだな。戦利品の中にも何かウィリアの大切なものがあったかもしれないが、もう手渡してしまったし魔王城から持ってきたものはもうこの剣だけだ。
剣を手に取ってウィリアに差し出した。
「ウィリアに返すよ。魔王リアンの遺品だもんね」
「あ、いえ……これはシュー様がお使いください」
「え?」
ウィリアは私が差し出した剣を優しく撫でて微笑んだ。
「それにお母様は……「わぁぁぁぁ!!!!!!!」」
浴槽内でお互い立ち上がり向かい合った格好をしている私たちはお互いスッポンポンだった。
白く艶やかな肌と豊満なたゆん、同じ女だと思えないほど綺麗にくびれた腰と長く伸びている足を上から下まで視界に入った瞬間、私は叫んで浴室から飛び出した。
あんな綺麗な体直視できねぇよ!!!
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