4火加減も水加減も間違っている!!

カンカンカン


「♪〜♫〜(鼻歌)」


トントントン♪


「♪〜(鼻歌)よし、こんなもんかな」


「祝いの歌ですか?」

「ドァああ!!」


背後を取られた!?


驚きすぎて振り返りざまに剣に手を添えていた。


「お、驚かせてしまってごめんなさい。懐かしい歌が聴こえてきたもので……」

「う、うん。そう。よく知ってるね?サブリオン王国の歌なのに」


「……えぇ。小さい頃にちょっとだけ……」


ウィリアは懐かしむように目を細めて微笑んだ。


魔王の娘と知らなければ、こんな美人でスタイル良くて豊満なお胸の人と同居生活なんて心臓がドキドキバクバクして大変だったろうなぁ!


さっき驚かされたせいでまだ心臓がドキドキしてるわ。ふぅ……


「扉の穴を治してくれたんですね?」

「とりあえず応急処置だけどね。鍵は壊れて使えないんだけど、こんな所に誰も強盗とか入らないでしょ」


まず、魔王の娘がいる家に強盗に入ろうなんて思う奴なんていないだろうし……


「ウィリアはどうしたの?フライパンなんて持って」


本当に背後から襲撃をかけるつもりだったのか!?フライパンでガツンと!?いや、魔王の娘がフライパンで襲撃って……普通に素手で殴っても同じくらいの衝撃ありそうだな。


「え、えっとシュー様にお夕飯を用意しようと思ったのですが……」




「かまどの使い方知らない?」


キッチンに来てみれば色々と材料が出され置かれている。


「あまり料理をしなかったもので……」


ここに来る前までは魔王城で暮らしていただろうし、魔王の娘が料理をすることもなかったのかもしれない。今は魔法石で調理するのが主流になってるし、かまどなんて高価な魔法石を買えない貧困層(私とか)が使っているくらいなものか。


「これは下にこうやって薪を入れて火をつけて使うんだよ」

「なるほど……」


えっと、マッチ――マッチは……


ポケットを探りマッチを取り出そうとしているとウィリアが手を差し出した。


「火ですね。任せてください」

「ん?うん」


魔王の娘だもんな。火魔法も使えるはずだ。私は魔法はほぼ使えない。だからこうやって腰に剣を下げて魔王の討伐に向かったんだ。魔法が使えるのは階級が上の人間、主に貴族の血筋の人が多い。私のような平民には魔法が使えるような人は少ないのだ。


かまどに手のひらを向けてウィリアが小さく囁いた。


ボッ!!


かまどに火がついた。


「うわぁぁ!!!!ちょっ!!威力強すぎ!!」


かまど全体を覆い尽くすほどの火力がウィリアから放たれ、かまどが燃えてる。


「あ、あぁ!!ごめんなさい!火加減間違えました」


火加減って料理で使うんだよ!火魔法で火加減なんて使わないでしょ!!いや、かまどに火をつける時だったから火加減で合ってるのか!?違うか!


「み、みず!!とにかく火を消さないと!!」

「水ですね!ま、任せてください!」


ウィリアが胸を張ってポンと胸を叩いた。たゆんと揺れる。

手のひらを上に向けてウィリアが小さく囁いた。


「……え?水?」


頭上には大きな水の塊が現れた。


私は悟った。その大量の水を放てば火は確実に消えるだろう。しかし、その後の惨状もわかっている。これは確実に………


「わぁあぁぁぁ………ぶくぶくぶくぶく………」



……………………




「ゲホ…ゲホ……」

「また、ごめんなさい。水加減間違えました……」


膝を付きしゅんと申し訳なさそうに私のそばで眉を八の字にさせている。ウィリアはボインとさせているお胸に水滴一つついていなくて濡れた様子はない。


だから、水魔法に水加減なんて使わなくないか?……ゲホ


「大丈夫ですか?シュー様」

「あぁうん。大丈夫……んー、これじゃ料理できないね」


辺りを見渡せば案の定キッチンは水浸しになっていた。


かまどとその周りは燃えたけど、掃除すればまた使えるようになりそうかな。燃えにくいかまど周りだから黒くなった程度で済んだみたいだ。水浸しだから今日はもう使えなさそうだけど……


「申し訳ありません。シュー様に温かいものをお作りしたかったのですが……」


料理してこなかった人の料理は怖いんだが………


「仕方ないよ。今日は簡単に作れるものにしようか。パンにハムとか挟んでサンドイッチとかさ」


「……お優しい方」


とにかくここを片付けないとかなぁ。モップとかどこにあるんだろ?


「へっぶしゅっ!!!」

「シュー様!!濡れたままではいけません!!先にお風呂にしましょう!!」


確かに濡れたまま掃除しても意味ないし、せめて着替えないといけないけど……少し寒いからお風呂がいいな。


「じゃあ、お言葉に甘えてお風呂に入ってくるから待って―――」

「お!お背中お流しします!!」


「ファぁっ!!!」




お風呂場には魔法石が使われていた。蛇口を捻れば丁度良い温度のお湯が出てくるし、広い浴槽も足が伸ばせて快適そうだ。


魔法石が使われている冷蔵庫もあったし、何故、かまどだけ薪を使った古い作りなんだよ!あれか?直火の方が美味しいとかそういうこだわりの人が住んでいたのか!?私には味の違いなんてわかんないけどね!?


濡れた服を脱ごうと剣に触れる。


これ、大丈夫か?魔王の娘だぞ?親の仇を取るために私に近づいている可能性もゼロではない。剣を取り服を脱ぎスッポンポンの状態の私を襲ってくる可能性だってある。


魔王を倒したこの剣があったから襲ってこなかっただけかもしれない。


先にお風呂場に行っててください。と、言い残してウィリアはどこかに行ってしまったし……


考えてもわからない事だらけだ。


私は剣を外し浴室内の手の届くところに置いた。


念の為念の為……

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