3日当たり良好!風通し抜群!!
王様が用意してくれた馬車が走り去っていく。
内装はめちゃくちゃ豪華でキラキラでふかふか、とても乗り心地が良かった。一生涯のうちに乗ることがあるだなんて驚きだ。
もう二度と乗ることはないだろうソレを頭を下げて見送った。
私の母は新居に一緒に住むのかと思いきや「姑は新婚の2人の邪魔をしてはいけないもの」などと言って颯爽と家に帰っていった。
いや、結婚してないけどね!?!?
ついに2人きり。
すぐ隣には同じように頭を下げていた、魔王の娘ウィリアが銀色の髪を靡かせながらゆっくりと頭を上げた。
「ここが新居?ですか?」
キラキラと輝く銀髪に見惚れていると、魔王の娘ウィリアが後に建つ建物を見上げた。
新居というにはちょっと年月が経過していそうな建物は二階建ての2人で住むには大きすぎるくらいのものだった。広い庭が広がっていて、以前は畑をしていたのか草は生い茂ってはいるが低い柵で囲われた場所もある。
周りを見渡せば何もない、一応王国内とはいえ街の中心から遠く離れた辺境の場所に位置している。ここに来る途中から舗装されていない道を通り森を抜け橋を渡り、歩けば半日はかかりそうなところにこの屋敷は建っていた。
報酬としていただいたものだし、こんな立派な屋敷をいただけたのはありがたいが……
絶対魔王の娘という彼女を街から離すためにここの屋敷にしてるよね!?!?
そりゃ、こんな危険人物?危険魔族?を引き離したいのはわかるけどさぁ……護衛の1人くらいつけても良くない!?私がやられたらどうするの!?
アレクユアン王「君なら彼女とうまくやっていけると信じているよ」
私解釈(君1人でも大丈夫だよね!だって魔王倒せちゃったんだし⭐︎)
違うんですよぉ!!魔王は何故か倒せちゃっただけで私は別に強くないんですよぉぉ!!
「とりあえず中に入ってみます?」
しゃがみ込み頭を抱えた私の頭上から魔王の娘ウィリアが声をかけてくる。
「は、はい……」
今の所私に敵意を感じることはないけど、いつ襲われるかわからないからな。
私は腰に携えている2本剣を撫でた。
1本は私が旅に出る時に用意した刃が細身の剣で、もう1本は魔王城で拾ったものだ。戦利品は王国に手渡し代わりに報酬をいただいたが、この剣だけは渡さなかった。黒の鞘に収まっている剣は縁が金色に装飾されて、刃の部分も黒と銀という少し変わった色合いをしている。
一目見た時から気に入り、使い心地もとても良かった。魔王城にいる魔物もバッサバッサと切り倒せたし、魔王自身もこの剣を使い倒した。この剣のおかげで倒せたと言っても過言ではない。
屋敷の扉の前に立ったウィリアが扉のドアノブに手をかけて捻った。
バキバキバキッ!!!
ビクッと体が跳ねる。
急にけたたましい音を立てて扉に穴が空いた。
「はぁ!?!?」
「あ、力加減を間違えてしまいました」
先程まで扉についていたドアノブがドアノブ周辺の扉ごと外れ今はウィリアが握っていた。
「あ、あーー!!そうか!ちょっと古い建物みたいだもんね?劣化してたのかなーハハッ」
バンバンと扉を叩いた。
「ごめんなさい。私たちの愛の巣をいきなり壊してしまって……」
硬っ!!作り良いなぁ!!この扉ぁ!王様が用意してくれただけのことはある!
「こんなの後でリフォームだと思って作り替えればいいからさ!早く入ろ!」
「お優しい方……」
魔王の娘ウィリアがドアノブをバキバキといじって頬を染めた。
ドアノブが壊れて恥ずかしかったのかな?
私は壊れた扉の穴に手をかけて開いた。
外観は汚れなどが目立っていたが、内装は誰かが掃除をしてくれていたのか綺麗にされていて家具や調理器具、生活に必要なものなどがもうすでに揃っていた。
「リビング広っ!」
「キッチン広っ!」
「廊下長っ!」
「2階何部屋あるんだよっ!」
「ベッドデカっ!」
思わずベッドに飛び込んだ。
ふっかふかだ!!何ヶ月も野宿や激安の宿に泊まってたし、家のベッドもペラペラな毛布と硬いマットでこんなベッドで寝たことない!今すぐにでも寝ちゃいそうだよ……
私が目を閉じてふっかふかなベッドを堪能しているとクスクスと笑い声が聞こえた。
家の中を探検している間、魔王の娘ウィリアは私の後ろに着いてまわっていて何をしてくるわけでもなく微笑ましそうに私の様子を伺っていた。
「この部屋をシュース様の部屋にしますか?日当たりも良さそうですし」
「じゃあ、そうする」
大きな窓からは陽が差し込んでいて、窓の外は草が生い茂っていた元畑が見える。
「ウィリ……ウィリア様の部屋はどこにするの?」
「わたくしの事はウィリアとお呼びください」
「わかった。ウィリア、じゃあ私のこともシュースでいいよ」
「はい。シュー様」
「……ん?」
ここはシュースって呼ぶところじゃないの?しかも、様もついたままだし……
「あ、あのお義母様が呼んでらしたので……」
「あぁ、母さんは私のことシューって呼んでるね。じゃあ、シューいいよ」
「ありがとうございます。シュー様」
「いや、様もいらないんだけど……」
ウィリアはモジモジと指先をいじり顔を上気させた。
まぁ、あまりあれこれ言うのも良くないし?ウィリアがそう言うんだったらそれでいいかな!?
「あ、わたくしのお部屋でしたね。それでは、シュー様のお隣の部屋に――」
バキッ!!!
ウィリアが私の部屋のドアノブを持っている。扉には大きな穴が開き廊下が見えた。
私の部屋は風通しも良くなったみたいだね!!ハハッ!!
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