背徳感
七瀬さんが嘘をついていたということが発覚したので、恥ずかしい思いをさせることで二度とそんなことをしないようにする私の計画は万事うまくいった。
ちゃんとキスをし返す事が出来たのだ。
初めてにしては上出来なのではないだろうか。七瀬さんも、頬を紅潮させている。
これでちゃんと反省してくれるだろう。
さて、そろそろ元に戻ろうっと。
ぐらり。
「いたっ。」
体勢がよくなかったようで、戻るときにソファーから転げ落ちてしまった。
「‥‥幸音大丈夫?いったん落ち着こ?」
「はい。すいません。」
そして冷静になった。
何してたんだ。私。馬鹿じゃないか。
え?
ほっぺをつねってみる。
いった。
まずい。
なんかそういう雰囲気のせいで、こうするのが正解みたいになっていた。よく分かんないけど、やってはいけないことをしてしまったことは確かだ。
後悔しかない。
私、自分からキスしに行ったよね。夢じゃないよね。
最近の夢って痛みも再現できるくらい進化したとか?
横の七瀬さんを見る。
完全に放心状態。
うん。現実だわ。
冷静になったのに冷静になれないよ。
なんて言い訳すればいいんだ。
‥‥最近言い訳ばっかりだ。
「あの、七瀬さん。‥‥七瀬さん?」
トリップから帰ってこない。
肩トントン。
あ、戻ってきた。
「ゆきね。ゆめ?」
「残念ながら、現実です。すみません。私も何でこんなことをしてしまったのか。七瀬さんに反省してもらおうと画策した事なんですけど‥‥‥なんででしょうね。」
「うん。知らない。でも、うれしかった。」
なんだろう。七瀬さん、まだ意識が完全に戻りきってなさそう。
「と、とにかく反省してください。もう嘘はついていないんですよね?」
「うん。絶対に大丈夫。幸音を悲しませるようなことはしません。」
「そうしてください。」
はぁ。七瀬さんを押し倒してキスしただなんて。本当に何やってるんだろう。
これが七瀬さんが来てから、たった三十分間での出来事。
さらにここから色々あったのだ。
じっとしていられなくなったのか、七瀬さんは夕食作りを手伝うと言ってきた。
申し出は非常にありがたいが、七瀬さんと一緒に作業すると緊張で手元が狂って危なそうだ。
だから、盛り付けだけお願いした。
なぜか二人でつまみ食いをすることになったんだけど。
すぐ食べるのに。
食べさせ合いっこは‥‥しなかった。
食後はいつも暇である。
普段なら、ソファーでぐだって映画を見たり、本を読んだりするが、例のことがあったのでソファーに座りたくない。
今までそんなことは無かったんだけど、今日だけは七瀬さんに早く帰ってほしいと思ってしまう。
キッチンでうろうろと彷徨っていると、諦めようと何かが囁いてくる。
ただ、七瀬さんに今までの仕返しをしただけだから。
でも、私が参考にしたのは恋愛小説。つまり、私がやってしまったことは、恋人同士でやるようなことなのだ。
ああ。嫌だ。
七瀬さんもずっとこっちを見ないし。怖すぎる。
でも、嫌われたくないから自分を奮い立たせる。
七瀬さんに話しかける前に見られてしまったら、この仮初の勇気さえ吹き飛んでしまいそうなので、そっと忍び足で七瀬さんの方へ向かう。
「‥‥七瀬さん。」
「ひゃう。ゆ、ゆきね。おどろかさないで。」
だって、こうしないと話しかけられなかったし。
七瀬さんがぱたんとソファーで横になる。話しやすいようにしてくれたんだ。
今はそれがありがたいようで、かえって逆効果なんだけど。
「そんなことはいいんです。七瀬さん。さっきのことは記憶から抹消して下さい。私が全部悪かったので。」
「‥‥さっきのことって、何のこと?」
良かった。忘れてくれたみたいだ。
こういう時に、七瀬さんの人柄は都合がいい。
「言葉で言ってくれないと分からないな~。」
‥‥前言撤回。やっぱり人が悪い。クラスの人たちにも見てもらいたい。
そんなことをしたら、色々と大変なことになるだろうけれど。
「ん?な~に。聞こえないよ~。」
まだ何も言ってないってば。急かさないでよ。
何て言えばいい?
キスしたこと‥‥違う。
七瀬さんに反省してもらおうと恥ずかしい思いをさせたこと?
長い。
あ、そうだ。
「七瀬さんに今まで受けた雪辱を果たしたことです。」
「うん。すごく悩んだね。」
「でも、事実ですよ。」
「そうだね。だったら、」
そう言って七瀬さんは椅子の背もたれに肘を預けていた私を引き寄せた。
「私だってすごく恥ずかしかったんだから。幸音だって同じ思いをしないと不公平だよね。」
顔が近い。
そもそも、私がしたのは今までのやり返しだったはずだ。おかしい。
「いやです。どうしてそう、変なことをしてくるんですか?さっき私がやったときは‥‥‥」
「どうしたの?続き、言いなよ。」
「‥‥黙秘権を行使します。」
「だったらそのお口を無理やり開かせちゃうよ。」
「?塞ぐではなくて?」
そんなこと、出来るのだろうか。私、くすぐられるのには強いんだ。
「知らない?口の中に舌をねじ込む。結構有名だけど。」
は?絶対いや。
「私が、やったときは、ほんの僅かに、本当にちょっとしか楽しくなかったです。‥‥‥これでいいですか。」
「はい。よく言えました。じゃあ幸音は楽しかったんだ。ふーん。」
「違います。キスが楽しかったわけではなくて、縮こまっている七瀬さんをいじめたくなった‥‥なんでこんなこと言わせるんですか。」
「いや。幸音が自分から言ってたよね。それで、私いじめられたんだ。」
「だから違います。言葉の綾です。」
「全然ダイレクトな表現だけど。」
もう。本当に七瀬さんといると調子が狂う。
そして気づく。
あ、なんか普通に話せるようになってる。
いつの間にかわだかまりが溶けてなくなったかのように普通に話せている。
まるで、おふざけでしたことを笑い話にしてしまうような。
七瀬さんはそういったところが巧みな人なんだ。だから人気。
「七瀬さんってすごいですよね。」
「どうしたの?急に。」
「会話が上手だなと思って。」
「ふーん。よく分からないけど、褒められとく。」
「そうして下さい。」
「で、話を逸らされたけど、幸音に恥ずかしい思いをさせられたから私も同じようにするって話だったよね。」
そうだ。まだ七瀬さんに捕まえられたままだった。
「いや。」
思わず捕食されそうになっている小動物のような声が出てしまう。
それほど、今の七瀬さんは言葉では表せない雰囲気をまとっている。
七瀬さんは動き出さない。それが逆に私の恐怖心を煽る。
「まあ、また今度にしておくか。」
そう言って七瀬さんは私を解放してくれた。
助かった。
今度は捕まらないように、常に警戒を怠らないようにする。
これが七瀬さんのアタックが始まってからたった一日での出来事。
先が思いやられる。
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こんにちは。作者のノノンカです。
本当なら前回が第十話目だったのでそこでメッセージを残す予定でしたが、キスシーンの雰囲気を壊したくなかったので一話ずらさせていただきました。
ご報告ですが、この作品を見て下さる皆様のおかげで本作品「少し大人なクラスメイトに溶かされる」は、恋愛部門週間ランキングで100位以内に入る事が出来ました。
また、嬉しいことにPV数が1000を突破いたしました。
これも、読んで下さった皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます。
まだまだ白世さんと七瀬さんの恋愛はこれからなので、ご期待ください。
どうぞよろしくお願いいたします。
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