第8話 暗夜行路に誘われて/旅路

夢が無いね。俺はいつもほかの凡人クラスメイトに言われてきた


お前ら如きが俺の何を語るんだ?俺はお前たちとは違う、天才なんだ。と幾度も自分を騙して来た


──本当は知っていた。自分が幾ら頑張っても、天才バケモノには勝てないということを。


夢が無い?/ ──その通りさ。夢……何て幻想フィクションはただのまやかしで


俺の人生には選択肢はなく、道も無かった。

だから自分が死んだと気がついた時に、悔しいと思いつつも

──やっと楽になれる


何て思ったんだがなぁ


まあ俺は新たな人生を手に入れた訳だが、そいつの選択肢を自分で狭めてしまうミスを犯した

それは自分が楽をしようとした弊害?

それとも、それは自分に対する罪過?


───分からない。


それでも、俺は……



◇◇


「はぁ……何を言っているんですか?……全く眠れないじゃないですか、責任取ってもう一度夜を呼んできてくださいよ」


俺は汗びっしょりな顔で飛び起きる。まだ夜は更けていない

俺は安堵しつつも、隣で起きているニクスにぺちぺち、と叩かれていた


「俺は何か言っていたか?」


一人の時は気にしなかったが、俺はよく

俺一人なら気にしなかったが、流石に新たな仲間であるニクスがいるのだから、少し心配になって俺はそう聞いたのだが


「─あの、ですが……貴方が夢を持たなかったことは決して、悪いことです。今すぐにその根性叩きのめしてあげる」


どっちだよ。


「あなたは自分の楽な道を選んだ訳ですが、いいですか?世の中楽なことには当然デメリットがあります……例えば、私が服を作るのに魔力を消費するように」


続けて


「ですがその手に入れた力を恐れていては、物語は始まりません……いいですか?ここは貴方が主役になれるかもしれない世界なんですよ……」


主役メインキャラか……俺はどっちかって言うと脇役モブの方が似合っている気がす


「そこ!いいですか?私は別にあなたの事をただ助けてくれるいい人だから仲間になったのではありません!…………いえ、それに気がついたから仲間になってあげたのです」


……俺の心の中で燻る想い?


確かに、俺はファンタジーな冒険物語を見て、それの中の主人公を憧れた。

でもそれはただの突飛な、偶然の、ひと夏の夢のような物で……


「ひと夏だろうが、セミの人生だろうが知りません……貴方は!私が保証します、私『夜の女神ニクス』の名のもとに、貴方を我が最初の友として、認めます!」


なんか認められた。


「って何これ?!……手に何かの刻印が……?!」


俺の手には紫と黒の模様が刻まれていた。その模様は、月と星、そしてNを象った紋章だった


俺はそれ以外には別段変わったことが起きるわけでもなく、不思議に思いながらその刻印を触る


その瞬間、俺の体がまるで硝子のようにパキリと砕ける


星が巡り、月が導く。俺の体の破片は幾重にも折り重なり、その欠片は漆黒の夜の闇に包まれる


そしてその体の欠片にはそれぞれにいくつもの月が、星が煌めいていた

黒曜石のごときそれに映し出された光が


何故か俺を呼び続けてくれている、そんな気がした


次の瞬間、俺の肉体は再び欠片から再構築され元の場所に戻っていた。


「はぁ、はぁ……な、何が今起きたんだ?!」


「あ〜私の力を貴方に分け与えたんです……まぁ契約したんですよ……貴方の運命、あなたの魂とね」


それはいいことなのか?と俺は聞こうとしたが、体は限界だったようでそのまま力尽きるように倒れる。


「おう、危ない……全く世話のかける相棒ですね」


「あの……俺はお前の何になってるんだ……?さっきから俺の役職がどんどん変化してるんだが?」


俺はぐったりとしながらそれを聞く


「ああ、私の

……ふふ、そして」


俺は意識が限界を迎えたので、そこで完全に意識を失う。

失う直前にこう、聞こえた気がした


「……






◇◇


その言葉を言った瞬間に気絶してくれていてよかった!とニクスは恥ずかしがりながら思う


「本当に、あなたは私の物語……いえ、私が紡ぐべき物語の主役なんです……」


ニクスはそう言いながら、目の前ですぅすぅと眠っているジンを膝枕しながら撫でる


彼女は嬉しかったのだ。彼女という存在に気が付き、そして助けてくれた。彼女からしてみればまさに英雄ヒーロー


歴史に完全に葬られた悲しき神、それの残滓とはいえ、それでも


「─夜の女神は貴方を愛しているのですよ?─」



──きっとこの恋は実らない。


──それでも、貴方は運命を変えてくれた


──あなたのそのスキル、少しだけ私好みの力を授けるわ


──『……困ります。私は貴方を未だに認めることは出来かねます』


「あら?あなた喋れたの」


──『……私はスキル【迎撃】……その役目は我が主人を護りぬくこと』


「あら?なら一致してるじゃん……私は当然私の相棒を護りたい、あなたも同じなんでしょ?」


『……返答に困ります』


そう行ったっきり再び沈黙したスキル


めんどくさいやつに愛されてるね、とニクスは微笑んだ

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