第7話 夜の冒険/そして始まる物語
おっきくなったニクスを眺めて、俺は、はぁ……とため息をついてから
「寒くなるから服着ろ」
とだけ伝える。
流石に服は成長に耐えきれなかったようでパツパツになっていたが
「むう?心配してくれてありがとう、でもそもそも私の服は魔力で作ってるしすぐに直る……私ってばやっぱすごい」
そう言ってドヤ顔で俺を見下してくるのだが、そう言いながら既に10分は経過していた。
「その割になかなか服が戻らないのはどんな了見だ?」
「うん痛いとこをつくねあなた、……ふふ、すごい秘密なんだけど、いま私は魔力が無い……だから作れないの」
うーんそういう事はさっさと伝えて欲しいなあ……
仕方ないので、俺は自分の魔力をあげることにした。
まああげ方はよくわからん
「えっとねえ……手出して」
まあそれぐらいは別に良いけど、と俺は思いながら手を差し出す。
せいぜいこちょこちょされるとか、ハイタッチされるぐらいだろう
──何て思った俺の予想の斜め上をニクスは行った
「もぐもぐ、うん美味しい……ああ、君の魔力は実に美味しいよ」
口にぱくりとくわえられ、唖然としている俺の手を……”ぺろぺろ”と舐め、挙句食べるような仕草を始めたのだ
俺は手を慌てて弾き出そうとするが、
「ちょ、強い?!力が……なんでそんなに執拗いんだよ!?」
思ったよりはるかに手を離してくれない。それどころか、よりギューッと(比喩ではなく本当に搾り取るように)くわえられる。
うん、俺は一体何をやってるんだ?と言うすっごい複雑な気持ちに俺は戸惑う。
「うん、美味しかった……あ、次は手以外でもいいよ?」
そう言って、そいつはにやり、と笑った。
唾液でベタベタになってると思っていた俺の手は、案外ベタベタじゃなく、むしろ何か光っていた。
「これは……まさか……ブラックライト?!」
「違います、私の神の……あ、なんでもないです忘れてください」
そんなことをやっていると、どうやら魔物と思う奴らが周囲に現れたらしい。
── 『ターゲットロック』──
──『【迎撃】開始』──
辺り一面をいっせいにスキルが殲滅し始める。
その様子を見て、ニクスは
「へ〜!これが君のスキル?なんか色々とすごいね」
そう言いながら木の影に隠れていた。
「ニクスは戦わないの?」
俺はその様子に興味が湧いたので、そう質問したのだが
「当然、私戦闘能力1ミリも無いから」
続けてこうも言った
「神としての権能の全てをモンスターに取られたから」
──と。
話によると、昔夜女神を信仰していたものと、朝の女神を信仰していた者で戦争が起きた。
その過程で、夜の女神は配下に裏切られ、そのからだをバラバラにされた後、その力を全て奪われてゴミのように捨てられたのだとか
ちなみに、朝の女神はその戦いの後、この世界を見守る神として降臨したそうな
「本当に、許せないと思いませんか?……私が普通に皆の元に挨拶に行ったら後ろからグサッと……ですよ?」
それは確かに。
「だから私は自分を探す旅に出ようと思ったのですが……訪れたダンジョンのトラップに引っかかり、そのままそこで何百年と過ごしていたのです。」
そして女神であることを隠さなくなったそいつは、俺にある提案をしてきた
「どうです?私の力を取り戻すのを手伝ってくれませんか?……報酬はそうですね……金貨一枚でどうでしょう?」
「その話は無しだ……まずお前は世界のレートを調べてこい!」
余りにも少ない報酬に俺は思わず突っ込むが
「まあいいさ、お前の力取り戻すの手伝ってやるよ」
俺は正直、嬉しかった。
こんなにも久しぶりに会話する相手が出来たことが俺にとっては報酬よりもはるかに価値のあるものだった。
「ってな訳で、改めて俺の名前はジン……異世界転生者にして最強のスキル【迎撃】を持つ男だ」
「はぁ?名乗りですか……私はニクス、夜女神の残滓ですよ……まあ戦力にはならないですが」
そう言って優しく微笑むと
「あなたの導き手となりましょう……よろしくお願いします。”ジン”」
◇◇
こうして俺たちは旅を始めることにした。
彼女との出会いがきっかけで、俺はさらに何人かの仲間を作ることができるようになるのだが、それはまた先の話
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