第2話 転生した話/………1人の男の人生の終わり
寺澄 迅は一般的な家庭で生まれた。だが、彼を取り巻く環境は一般的とは言いがたかったかもしれない。
彼が5歳の時、彼の父親が亡くなった。─労働しすぎによる自殺、だった。
彼の母親はその死をきっかけに”壊れた”。元々壊れそうな要素はあったが、それが最悪の形として出てしまった。
俺は母の言葉を思い出す
「いい?貴方はほかの人とは違うのよ?貴方には将来日本を、世界を引っ張っていく力があるの!」
根拠があるのかは定かではない。しかしその狂い方は正直異常だった。
彼は最悪なことに、父方の両親や親戚はとっくに亡くなってしまっていた。
そして、俺の日常は……壊れた。いや?正されたとでも言うべきか?
朝起きて直ぐに勉強、学校も親が決めて遊びなんて以ての外。
決められたルートをひたすら動かされ続ける操り人形のように、俺は母親の言いなりになった。
ゲーム?そんなものは見ることさえ許されなかった。
漫画?……バカの読むものだと怒られた。取り上げられた、捨てられた。
小説?……学業に意味のあるものじゃないと読むことは許されず、毎回母親が決めたものばかり読まされた。
テレビ?そんなものは家の中にすらない。
スマートフォン?学校で皆が触っているのを見せてもらうことしか出来なかった。
朝から、夜まで、ひたすら勉強、勉強勉強勉強勉強……壊れそうなほど、繰り返した。
青春?そんなものをする暇すら与えられず、気がつくと俺は高校生になっていた。
中学の記憶も小学校の記憶も何も残っていない。ただ、高校だけは少しだけ残っている。
必死に必死に努力して、努力して……それでも周りの天才には歯が立たず
家に帰れば■■■点も取れないの?!とヒステリックに母親に怒られる。
反抗することも抵抗することも出来たけど、それでも母親が完全に壊れてしまうのの方が怖かった。
───そしてそんな俺はついに大学受験を迎えた。
その日はいつもより早く家を出た。……今にしてみればそれが行けなかったのだろうか
俺は母親と2人でカフェに寄っていた。
それまでの毎日では、風邪をひくかもしれない、ウイルスを移されるかもしれない。
と外に出て遊ぶことさえ許されなかった俺にとってカフェによるのは12年ぶりくらいの事だった。
俺が受験票を確認して、英単語の確認をしていた時の事
───キキー!ドゴン!
俺の体は宙を舞った。いや精神的な話ではなくて本当に、物理的に
意識がどんどん薄れる中、俺はかろうじて見えた景色に唖然とする
カフェに車が突っ込んできたのだ。
──ありえない──
そう思いたくても、それが事実なのだと受け入れなければいけなかった
「(あーあ……そんな事で俺の人生終わりかよ……呆気なさすぎるなあ……)」
そんなことを考えながら、俺はゆっくりと意識を暗転させて
…………「(やっぱり納得いかないわ)」
いや、納得が行くわけが無い。なんだよ?!親の都合で俺の人生を滅茶苦茶にされて、挙句誰かわからん車にカフェに突っ込まれて命を終えるって
「……なんでだよ!!?!!クソが!?!」
物心着いてすぐに娯楽を封じられて、それでも親のため、母親の喜ぶ姿を見ていたいという気持ちで頑張って頑張って努力して
……寝る間も惜しんで遊びも控え、そうしてやっとこれから道が開けるって時に死ぬのって………………
─────「『【納得行かねぇよ!クソが!】』」───
俺はそう叫んでから何故か自分の意識があることに気がつく。
あれか?まだ生き返るチャンスがある、みたいな展開か?
そんな俺の前に光り輝く女が現れる
『いやぁ……まさかだねぇ……輪廻転生の輪を”納得が行かない”の一点張りで耐えるとか……初めてだよ……』
「り、輪廻転生?……じゃあやっぱり俺は死んだ……のか……」
俺がそうつぶやくと、そいつは
『うん、あっさりとね。まあ死んだンだけどねぇ……君、すごいよ?』
そいつは顔こそ見えなかったが、どうやら驚いているようだった。
『うーん君をどうするべきか……ま、せっかく生き残った……いや輪廻転生の輪から外れちゃったことだし……そうだ君、異世界転生してみないか?』
俺は、はてな という顔をする。
『あれ?異世界転生だよ?異世界…………君もしかして異世界転生モノを知らない?!』
俺はそれは何でしょうか?と聞く。もしそれが娯楽なら俺は知らないからだ
『ま、まじ?……この令和の時代に異世界転生ものを知らない高校生がいるって嘘でしょ?!……ち、ちょっとまっててね……』
光ってるそいつは唖然としてから何かを探して持ってきてくれた。思いのほか親切な方でよかった
『この小説みたいなのが異世界転生モノだよ?!……まあ時間はあるしせっかくだから読んでみてよ!私も初めて異世界モノを読んだ人の感想聞きたいし!』
俺はその手渡された本のタイトルと表紙絵を見る。
そこには
「『異世界転生したら俺が最強で無敵で勝てるわけが無い件』……これは小説のタイトルなのでしょうか?……あまりにも長い気がします」
表表紙にはとても可愛らしい?とでもいいうのか分からないが、派手な色の女性とカッコイイポーズを決めている、おそらく主人公と思わしき人物が描かれていた
その表紙をめくり、俺は小説を読み始める。久しぶりに本を勉強以外の意味で読むことに俺は違和感を感じつつ読む。
────「成程」
俺はその本を読み終えて、一息つく。死んでいるはずなので一息つく意味があるのかは分からないが
『ねぇねぇどうだったー?これが異世界モノだよ!』
おそらく俺に感想を求めているのだろう。正直に俺は答える
「正直なところ、文章のレベルが低く、内容もかなり大雑把でしたし、主人公が強い力を手にして弱き者をいたぶるシーンは正直見ていて不愉快でした」
俺は一息置いて
「でも、何故か分からないけれど、読み終わった時に少しだけスッキリしました……これがなぜなのかは分かりませんが」
『お、おう……なるほどねぇ……ちなみにまた同じジャンルで別の作品もあるよ?』
俺は再び手渡された本を手に取り読み始める。
タイトルは
「『魔物になっても俺は勇者だろう』……短いですが意味が分かりにくいですね……」
そう言いながら俺は頁をめくる。
その物語は、かつて伝説の勇者と呼ばれた男が魔女の呪いにかかり、魔物になってしまうというものだ。それでも主人公の心は勇者だったから人々に尽くすため戦い、最後はみんなを庇って死ぬ
そんな物語だった。
『どう?面白かった?まだまだあるよ〜』
何故か分からないけど、俺はその本を読んだ後涙を流していた。文学的な素晴らしさはそこまでなのに、妙に心を揺さぶってくるものがあった
そうして俺はそいつ(のちのち聞くと女神)に本を大量に読まされた。
ゲームももちろんやらされたし、初めての経験を色々とさせて頂いた
───『どう?異世界、行ってみたくない?……』
「勿論!ぜひ!」
まあ娯楽に飢えていた奴が娯楽にハマるのは当然な訳で
『じゃあ異世界に君を送り出すんだけど……どんな能力が欲しい?』
俺は考える。今まで見てきた異世界ものでは全部自分の力で解決していた。
でも俺は自分でなにかするのがめんどくさい、そう思い始めていたので
「……全部勝手に倒してくれる系、つまり全部全自動で敵意を排除してくれる能力!とかが欲しいです!」
『オッケーじゃあ……これを授けるよー!名前は……そうだなぁ……【迎撃】……なんてのはどうだい?』
【迎撃】……悪くない名前だと思う。
「それでは女神様!ありがとうございます!……無事異世界を楽しんできます!!」
俺はそうして異世界の知識を手に入れて異世界に飛び出して言った。
『あいよ!……ふふふ君がどんな物語を歩むのか……ぜひ見せておくれよ?』
女神は彼が消えたあと、そう呟いた
──◇
目を開けると、俺は見たことがない世界にいた。
間違いない、ここは異世界!そう目を輝かせたのもつかの間
俺はある事に気がつく。……俺、赤ちゃんじゃね?
ひとりぼっち、籠の中で、俺は詰み。
辞世の句でも読もうかな? とか考えていたら近くで
───グルルルル……ガオォオン!!
なんて聞こえてきたもんだ。流石に俺でもわかる、あんな声のヤツが可愛らしい猫とかなわけが無い
間髪入れずに、当たりをガサガサという音が囲んでいることに気がつく。そして暗がりの草木の中から光がいくつも一斉にひかり輝くのを俺は見た
「(あーこりゃ死んだわ)」
俺はそう思いながら目をつぶる。
──『ターゲットロック』──
──「【迎撃】を開始します」──
激しい何かが放たれる音と、悲鳴が聞こえ何かが飛んでくる。
手に落ちたそれは真っ赤な血だった。
しかしよく見ると真っ赤というか、茶色っぽい?そんなことを思いながら辺りを見回すと
あたりにはおそらく先程俺を襲った魔物の死骸とそれに刺さる無数の矢があった。
俺はこの惨状は先程聞こえてきたアナウンスからわかる通り、スキルだろう。
俺はスキル【迎撃】の凄さを噛み締めながら、俺最強じゃね?という悦に浸っていた
──浸っていたが、そのうちふと気がつく。
状況が何一つ変わっていないという事に
そう、仮に俺が今赤ちゃんだとしよう。その場合まず、籠から出て歩いて近くの人に助けを求めるべきだろう
──?どうやってそもそも籠から抜けるんだ?
抜けたとして俺は歩けるのか?
そもそもここは何処だ?
何だろう、異世界転生そうそう不安しかないんだが?
◇◇◇◇
その後、3日ほどたち、死にかけの俺は巨大な人語を喋るドラゴンに助けられて彼らの集落に行き、そこで12歳まで過ごすことになるのだが
それはまた別のお話。─たぶん次語られるんじゃないかな?
◇◇◇
目を開けるともう朝になっていた。俺は昨日金をせびってくるやつを殺したあとその場で横になって寝ていたんだっけ?
辺りには魔物の死骸(アイテムドロップ)と金貨がざくざくと落ちていた。
俺はそれを拾いながら、【迎撃】のすごさを改めて実感していた。
こうして、彼はまたお金を集めて様々な情報を仕入れるのだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます