第3話 初めての出会いと/別れ

転生してから3日後の事、俺は死にかけだった

結局あれから必死に動いては見たものの全く、と言っていいほど俺を取り巻く状況に変化は無い


人間が生きることが出来るのは水ありで3週間?水なしなら……3日か

俺は自分がもうすぐ死ぬのではないか?という恐怖に駆られる。


─ 嫌だ。こんな死に方、まっぴらごめんだ。


そう思ったところで俺を優しく包み込んで(殺しかけている)揺籃はピクリともしない。


「(というか今更思ったけどこれって育児放棄?……まさかの親ガチャ2連続失敗とか本当に俺ついてねぇな)」


助けを呼ぼうにも、俺の喉はカラカラで


それでも無視して叫ぼうとしても出る声はせいぜい


「……あ……あ……」


と言う掠れた、まるで死にかけのどうぶつの最後の言葉ぐらいの聞き取りにくさと声量だ(というか実際死にかけだからあながち間違っていないと思う)


それでも、魔物だけは倒していたのでさっきからそこら辺に魔物の素材と死骸、それから何故かお金が落ちていた


そんな絶望的な状況の時に、俺の目の前に救いの手?いや救いの竜が現れた




『なんだこいつは?……ほう、捨て子か?……ふむふむ?……ほうほう?……うーむ?』


そいつは俺をギロリ、と覗き込み、何かを考えたあと改めて俺の体を揺籃から引っ張り出す


俺は食われると思い、慌てて落下してもいいように体を丸める


──しかし、その竜は俺を食べるのではなく、背中に乗せると


『では我らの拠点に連れて行ってやるとしよう』


そう言いながら飛び上がる。何故か日本語を喋っていたので、その会話の内容は、ある程度俺にもわかった。


竜の上には人が乗っているようで(俺からは見えないのだが)

何やら俺をどうするのかについて話し合っているらしい。


そういえば、スキルは発動しっぱなしなのにこいつらからは敵意を感じていないな?と俺はふと思った


──まあそれから何やかんやありまして



「おーい、元気か?……へへへ相変わらず楽しそうに本を読むなあ!」


俺は6歳ほどの年齢に成長した。あの後、俺は竜の一族に迎え入れられて大切に育てられた。


中でも、大長老竜『ジアン』と、聖銀竜『ラパスノア』、剛炎竜『バルバロッサ』は俺を特に可愛がってくれた


「おいおい!無視すんなよぉ!……あ、返事してくれた!」


俺はバルバロッサに、いま本を読んでる最中だから黙っててくれ……と伝える。


「ちぇー、遊んでやろうと思ったのになぁ!」


バルバロッサはちょい不満げに去っていく。バルバロッサは竜の中でも比較的若く、普段は女性の形態に変化しているのだが


まあ空気を読まないヤツだ。……とは言え、俺も別にバルバロッサのことは割と好きだから気にしてはいない。


「アイツめ、またしてもうちの子にちょっかいをかけてくるとはな……ほらほらー大丈夫か〜?」


そう言って俺を撫でてくれるのはラパスノア。俺の義理の母親代わりの竜だ。

白銀の髪に、蒼銀の目、そしてナイスバディ……まぁ細いけど


「ちょっと撫ですぎです……やめて、やめーて!」


俺は髪をぼさぼさにされて、ちょっと不満げに怒る。すると


「ん?いやぁついうっかり触りすぎてしまうな……ふふふ君のその髪と言い、何だろうな……私たち竜にとって君は……」


「だから触り過ぎですって!」


流石に触られすぎて髪の毛が最早スクランブルしてしまっている。

その様子を背後から眺めて


「ふぉっふおっふおっ……若者はみな逞しく育つのう……」


とか言いながら仕事をサボっているのは大長老、ジアン。……俺をあの時助けてくれて、そのまま水も食料もくれた……俺にしてみれば命の恩人……いや恩竜?だ


「あ!長老また仕事サボって!……いくらジンが可愛いって言っても今日という今日は誤魔化し無効!だからね!」


その声につられて周りの竜達が皆集まってくる。

彼等は竜神族と言い、人型を取れる珍しい竜達なのだとか


俺は秘境、竜の里で育った。正直ここは俺にとって天国だった。

誰も勉強しろ、など言わず……何かこなせば褒めてくれる。自分の好きに生活ができて、俺も狩りをするとそれに見合った報酬が貰える。

しかも『魔法』も教えて貰った!


この世界には『魔法』というものがあり、それを使う事で

超すごいことが起こせるんだって知った時


俺の脳は震えた。だって魔法……あの女神様に教えて貰った小説の主人公たちは魔法で無双していた。

確かにスキルは強い。でも俺は魔法という新たな概念にワクワクしてそれを必死に覚えようと努力していた。


そんな、何気ない日常がずっと続くと思っていた。─いや、続いたんだよ



◇◇─あの時まではね





俺が12歳になった日、俺はみんなを驚かせるために1人で森で狩りをしていた。

今の俺ならその程度は楽勝だったのだが


俺が森を駆け抜けて歩いていた、その時。


「?なんか焦げ臭い?……何かが燃えているようなそんな感じ?」


俺は異様な雰囲気を森の中で感じ取った。慌てて高い木に上り、周囲を観察していると


「……?!里から煙?……待て待てなんだ!何だよ!?」


竜の里から煙が上がっていた。あれは黒い煙、普段の白い煙とは違う!


俺は全力で駆け抜けて森を進み、里にたどり着いた。──たどり着いたが


俺は全身から力が抜ける。まるで料理を作るかのように、串焼きにするかのように竜を騎士たちが刺して焼き殺していた。


まるで楽しい宴をしているようにも見えたが、その時何かが飛んでくるような音がして俺は隠れる。


「クソ!……何で王国の騎士共が私たちを狙う!……私たちは別に何もしていないだろう?!」


(襲う?……騎士? )


「ああ、別にお前たちは何もしていない……ただの鬱憤ばらしさ……!」


「ふ、ふざけやが……が……が……て、てめ……ぇ……」


「ふん、竜ごとき所詮狩られるだけの奴が何を人様に楯突いてんだ?」


そいつは知り合いの竜の体を剣でぶっ刺し、高笑いしながら去っていった。


「ねえ?ねぇ!……あ、ああ……」


ピクリとも動かなくなった知り合いの竜の目をゆっくりと俺は閉じる。


まずい、バルバロッサやラパスノア、ジアンが危ない!


あの人たちは竜の中でもかなりの戦闘能力を携えている、故に絶対にこの状況に対して歯向かうはずだ。


俺は最悪の結果を予想し、慌てて走り出す。

道中、潰された兵士や斬られた竜の姿を見る度俺は吐きそうになりながら、走る




そして、俺は家の近くてバルバロッサを見つけた。


「バルバロッサ!無事だ……っ……た」


「……ん……ああ、ジン……か……ははは……ああごめんな……見えないんだ……」


バルバロッサは目が潰されていた。それだけじゃない、腕も、足もボロボロになっていた。

体には無数の槍や剣が刺さり、羽は完全に使い物になら無くなっていた。


「あ……ああ……」


俺にはどうすることも出来ない。俺には竜を介錯するほどの力もなければ救い出すだけの体力も無い


そんな俺の様子を感じ取ったのか、バルバロッサは震える手で俺の手を握ると


「ああ、……ジン……君の手は……温かい……な…………私はすこ、し……眠……」


バルバロッサはそうして、ゆっくりとその命を散らせた。

俺は泣くこともできず、ただ唖然としていた。

そんな時、遠くの方で剣戟の音が聞こえたので俺は走り出す。

バルバロッサの遺体にゆっくりと服を被せて、瞳を閉じたあとに


◇◇



剣戟の音につられて俺がたどり着いた時 、ラパスノアが斬り倒される瞬間だった


「!!……ラパス!……おい!しっかりしろ!?」


俺は慌てて倒れたラパスに近づく。

隣には既に息がほとんどないジアンが倒れていた。

ラパスを斬り捨てた騎士は


「ん?なんだァ?人間?……こいつらの食料だったか?……ははは災難だなぁ!……まあ可哀想なガキなんざ活かしとく価値もねぇから……死にな!」


そう言って俺に剣を振るう。


──『ターゲットロック』──


──『【迎撃】開始』


100を超える魔法の矢が騎士の体をぶち抜く。俺はその死体が消えるまで撃ち込んだあと、ラパスの方に駆け寄る。


「あ……あ…………ジ、ん?……ごめん……ね……もう、貴方の髪を撫でて、あげれない……や」


ラパスは腕を切り落とされていた。それでも、もう片方の手で震えながら俺の頭を撫でる


「ああ、あなたの……成長した……姿……見てみ……たかった……なぁ…………」


その手からゆっくりと力が抜けていくのを俺は止めることが出来なかった。


「…………」


いま、俺の手の中で1人の愛すべき人が死んだ。……


俺はフラフラと立ち上がり、ゆっくりと歩く。


「おい!貴様?!騎士長ファルスをどこにやった?!」


「……うるせぇ……死ねよ」


俺はゆっくりと里を離れる。


「……【迎撃】レベルチェンジ・ツヴァイ


迎撃の武装が変更される。さっきまで矢だったのが


俺は絞り出すように、呻くように


「……てめぇら全員…………生きて帰れると……思うなよ?」


そう、囁いた


千の弾丸の雨が降り注ぎ、大地には鉛玉と血の混じったシミが生まれる。

逃げ惑う騎士はどんどんとその命を散らし、また1人、またひとりと大地へと帰ってゆく


こうして、俺は竜の里を離れた。


──俺はあの日、竜の里が襲われた理由を知らない。だからいつか、あの件に関わった奴らを全員抹消する。……そう心に誓った

◇◇◇




その後、俺はフラフラとさまよっている所を優しい冒険者の兄弟に助けられ、そいつらと共に冒険者を始める事になるんだけど、それもまた別の時に



◇◇◇


俺は「懐かしいことをどうにも思い出すなぁ……?」


とか思いながら近くのダンジョンに入る。

この世界の武器や、道具の素材は大部分をダンジョン産の物を解析、分解、再生産して生み出す。

だから俺はいつもどうりダンジョンに入る。

もちろん、独りだ


「はぁ……やっぱ孤独って寂しいよなぁ……まあスキルが容赦無いから仕方ないか……」



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