異世界で起きるフラグは全てスキル【迎撃】により破壊されました。──ある意味平和な異世界転生譚

皆月菜月

第零章 プロローグ編

第1話 プロローグ/なんでかなぁ……?

俺は黒い外套に身を包み、コソコソとギルドの依頼表を確認する。


「今日は強い魔物とかは出てかないかな……?……よし……いなさそうだし日銭を稼ぐとしますか……」


「おいおいそんな雑魚狩りか?」


俺は心臓がドキッとする。やめろ俺に話しかけてくるな

だが俺のそんな感情など知るわけがない男は俺の肩を叩こうと近寄ってくる。その様子を見て俺は慌てて


「な、なぁ……?お金やるからさ……ちょっと俺の近くに来ないでくれ!頼むから!!」


「お、おう?……なんか分かんねぇけど……ありがたく貰っていくぜ?……」


俺が投げた金貨の入った袋を受け取り、男は少し困惑しながらも去っていった。

──危ねぇ……あと少し俺が反応するのが遅かったらこの一帯が血の海になってたぞ……?


俺はため息を吐き出して天を仰ぐ。やはり俺はギルドに来るべきでは無い、そんな事は当然わかっている。

本当に仲間を作るべきなのだろう。


しかし仲間を作っても


俺は自分が手にしている能力スキルを恨みながらギルドの依頼表の辺りから離れようとする。


「おい痛てぇな……ちょっとお兄さん?なーにぶつかっといてそのまま去ろうってんだ?」


── 本日2度目の危機襲来。


俺は汗を吹き出しながら慌ててそいつのそばに駆け寄ると


「すんませんでした!こちらをどうぞ!」


土下座をしながら先程と同様にお金を差し出す。傍から見れば俺は死ぬほど弱々しくて情けないやつだろう。


実際、周りの奴らは俺を見て小馬鹿にしている。─それでいい。それでいいんだよ


「ほぉ〜あんがとなぁ?!……へへへんじゃあな」


男はそう言いながら去ってゆく。その様子を眺めて俺はまたしても軽くなってしまった懐をさすり、ため息を着きつつ、やっぱりギルドには来ないようにしよう。と心に決めた



「いやぁ噂は本当だったなあ!」

先程お金をもらった男が路地裏で子分たちと話をしていた


「へへへ……たんまり貰えましたねぇ……あの噂は本当ですねぇ……ぐへへへ」


男たちが知っている噂、それは……


「あの男に因縁吹っかけると金をよこしながら土下座してくれる……っーのマジだったんだなぁ……いやぁ世の中には色んなやつがいるねぇ」


「ほんとっすね!またたかりに行きましょうぜ?……とりあえずは」


男たちは顔を見合わせると


「可愛いねぇーちゃんとこ行くぜ?!」


「「おう!」」



◇◇


「全くまたしても貴方は人にたかられて!これだから貴方は馬鹿にされているんですよ!?」


俺はぐうの音もいえず黙る。今俺に話しかけてくれているのはギルドカウンターのお姉さんだ。俺が毎回毎回こうして金をたくさんの人に取られていくのを見て心配してくれているらしい。


「ありがとうございます……でもいいんです……俺が撒いた種なんで……」


俺はそういうとゆっくりとギルドを後にする。


「はぁ……なんでこんなに辛い異世界転生になってるんだよ……」


俺は自分の甘さとスキルの使い難さを嘆きつつ王都を出る。

とぼとぼと王都から離れるようにして実に1時間ほど歩いていると、後ろから誰かに絡まれる。


「おい?兄ちゃんさぁ……金、くれない?へへお前って良い奴なんだろ?だから金をくれよ?なぁ?」


ガタイの良さそうなガラの悪い連中に絡まれるが、先程と異なり俺はそれを無視してとぼとぼと歩く。


「あ?何無視してんだゴラァ?!」


「そうっすよ!うちの親分はかなり強いですからね!死にたくないならさっさと金をよこしな?」


──数にして実に8名


それぞれが武器を携え、中には魔法を使おうと杖を構えている奴もいる。

俺は街との距離を確認して、それから溜息をつきながら呟く。


「ああすまない、君たちごときゴミ共になにかしてやる術は無い」


そう言うと俺は再び夜に近づく道をゆっくりと歩く。

その反応が想定外だったのか、彼らは一瞬ポカンとしたあと


「てめぇ死にてえなら今すぐ殺してやる!」


そう言って武器を振りかざしながら俺に近づいた瞬間。


「──死ぬのはそっちだぞ?」


俺は不敵な笑みを浮かべて告げる。ここなら誰も巻き込まないだろうし……


途端、こんなシステム音声が流れる。


『ターゲットロック』


「──『スキル【迎撃】を開始します』──」


俺の周りの空間が突然変化し、無数の矢を番えてその先端を全て彼ら馬鹿どもに向ける。

その数、実に数千を優に超えるそれは


「……へ?」


固まっていた彼らを一瞬で針山のごとき姿に変化させる。

盾や魔法で防ごうとしても、物量には勝てずどんどん体に矢が刺さってゆく。


慌てて逃げ出す足の速そうな盗賊も哀れな事に


その攻撃からは逃げられず、そのまま針の骸と化して死に絶える。

俺はため息を吐き出して、その光景を見つめる。

わずか数十秒でその場にいた男たちは血肉の塊と化して地面のしみに変化する。


「そもそも俺は……何故かわかるか?」


最後の一人、先程俺に金をせびってきた男は震えながら失禁する。


「それはな?……使……だから俺は街にはいる時はなるべく下手したてに出る」


そいつの胸ぐらをつかみ、俺は蹴り飛ばす。


必死にもがきながら逃げようとするそれを俺は止めない。


「う、打ってこないんですか……?」


止めないのはシンプルに、俺に敵意を向けてくれないとこのスキルが発動しないからだ。


──だから俺は嫌々こうする事にした


「そういえば……お前の父親も母親もお前のことを心配していたなぁ?……俺が代わりに伝えといてやるよ?……お前の最後は惨めで哀れだった……ってなぁ?!」


俺はそいつの耳元でそう呟く。


そいつの目は憎悪と、怒り、まさに殺してやる!と言わんばかりの目をしていた


『ターゲットロック』


ピピッという音がして、彼が【迎撃】対象になったことを俺は確認すると


「すまんな。お前に嫌われないと俺はスキルが使えないんだ」


そう言いながら、先程と同様に矢を叩き込む。

どすどす……っというむごい音がしてその肉体が完全に地面のシミになったことを俺は確認すると


「──だから俺に構うなって行ったんだがな……」


俺のそんな苦悩に充ちた呟きは、寒空に溶けて消えていった


◇◇◇◇



『寺澄 迅』は転生者である。


高校3年、受験生シーズンのある日に事故でなくなり、その際の無念が強すぎて女神とやらに気に入られ

結果、異世界転生という形で新たな人生を得た。

その際、彼は異世界で生きていくために1つスキルを女神に願った。

そのスキルこそが【迎撃】である。


【迎撃】はというスキルで、自動発動系のスキルだ。

そして、自分に敵意を向ける……の度合いは、基本的に


『殺意』『敵意』『嫉妬』『恨み』『ほんの少しのムカつき』などが該当する。


──そしてこのスキルは発動時に周りに人がいようがいまいが関係なく発動する。

もし、その攻撃で恨みを買った場合、そいつも【迎撃】の対象になってしまう


これが彼が『異世界とか戦うのだるいし自動で敵倒してくれないかな〜』

とか願った結果である。


────彼はこのスキルを手にしてしまったことを死ぬほど後悔している。

仲間もできない。嫉妬やら恨みをかった場合、仲間だろうが容赦なく攻撃を打ち込んでしまう。しかも自分で止めれない


だから彼は極力街中で敵意を買ってしまった時は自分が下になることでスキルの発動を阻害している。


俺はこのスキルを正直欠陥品だと思っている。

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