第3話

片腕を失いそのまま地面へと落下してく。

鈍い衝突音に飛び散る鮮血音が生々しく、何処か他人事のように考えていた。


「やりましたね!スカーレッド様!!」

「・・・あぁ、所詮は下賤な生物だったということだ」


スカーレッドはそのまま流れ作業のように落下中の片腕を駒切りにしていく。


薄れゆく意識の中、ただただ今は右肩から流れる体液が心地良かった。

生物は死ぬ直前に快楽物質が生成されるというが、どうやら迷信ではなかったようだ。


「そうだ、君がアイツに止めを刺すといい、仲間の敵だろ?」

「え!...ありがとうございます。スカーレッド様、この御恩は一生忘れません」


白衣の女、エリサがこちらに歩いてくる。その足音こそが自分の今世の終わりを示すかのように、確かに聞こえる。

…あぁ、また死ぬのか.....くそったれ...


「貴方が犯した罪の重さを知りなさい。ホーリーランス!」

自分の身体に小さな穴が空いていく。

「っ!...いってぇ、クッソォ...」

小さな針で身体中を貫かれていく。

呼吸するのが精一杯だ。

残った腕で顔を覆い、膝を曲げて致命傷を避ける。

------あれ?----なんで俺、まだ生きようとしてるんだ...

----生き残ったところで、片腕がもうねぇんだよ、意味ねぇって.....諦めろよ.....


「ちっ...しぶといですね。セイクリッドファイア!!」

「うっ、ぐ、ぐあぁあああッ!?」

自分の身体が焼かれていく。

流した体液が焼ける独特の臭みが鼻腔を刺激する。

緑の皮膚が赤滲み、徐々に黒く焦げてゆく。

頼む。頼むから早く殺してくれ。

こんな苦しい目に合うなら、一秒でも早く死にたいんだ。

----なのに.....なのになんで俺、芋虫みてぇに身体引きずって逃げてんだよ....


「...次で終わらせます。オーリー、ジール見ていて下さいね。ブレインクラッシュ!!!」

脳みそがミキサーにかけられたかのようにグルグルと回る感覚に襲われる。

「.....ゴフッ」

鼻と口からどす黒い血が飛び出す。

あぁ、やっとだ、やっと死ねるんだ。

--------だからもう無駄な抵抗はよせ------

-------今更、頭抱えたって、頭ぶん回したって、頭地面に打ったって、

もう何もかも遅ぇって...........

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『パンッ!!』


辺りに脳が弾けた、そんな音が破裂した。



「満足したか?」

「------いえ、殺しても殺しきれない、そんな思いです...」

「...そうか。その気持ちを忘れずに生きるんだ。それこそが君の仲間にしてやれる唯一のことだ」

「はい、一生忘れません」


二人は抱き合い、スカーレッドはオーリの背中をさすり、オーリは鼻をすすりさめざめと泣いている。


感動の瞬間なのだろう。

ここにオーディエンスがいれば皆が涙し、拍手喝采の場面だったのかもしれない。

.....だが、ここには人間2人とゴブリン1匹しかいない。


---そう、後はゴブリンしかいない。


『血眼が発動されました』

「「ッ!?」」

スキルは世界の理、使用者は当然のこと、影響が及ぶ対象者にも通知される。

それは絶対の理である。


「何処だッ⁉何処かにまだモンスターが隠れ潜んでいるぞ!!」

「探ります!エリアサーチ!!・・・・い、いません、私達の周りにモンスターはいません!!」

「そんな馬鹿なッ!、、ならどうしてスキルが発動した!?これはモンスターだけが発動できるスキルだぞ!?」

「で、ですがッ!私の探索魔法には何も映ら..【ブチッ】------え?、い、いダァアアアアィィィいッッ!!?」

エリサの右腕が引きちぎられる。

その裂口はまるで、獣に食いちぎられたかのように乱暴に。


「馬鹿なッ、一体どこに「...コロス!」ーーーッ!?」

スカーレッドの眼前には双眼を真っ赤に輝かし、エリサの腕を咥えたゴブリンがいた。

「何故、生きている...間違いなく脳は破壊されたはずだぞ!?」

「フシュゥ!フシュゥ!...コロス、オマエラダケハカナラズコロス!!」

「そんな瀕死の身体で何が出来る!5連風斬!」

「ウガァアアアアアアア!!!!」

スカーレッドの攻撃に合わせて、爪を立てて片腕を振り回す。

「馬鹿なッ!?たかがゴブリンのスキルに私の剣技を相殺させただと?」

無意識化の行動ではあるが、確かにゴブリンから『魔技:伸爪撃』が発動された。


「ウガァアアアッ!!!」

片腕を鞭のように振り回し、全方向に空を切る。

凡そその数、30を超える全方攻撃。

「一体なんなんだ、その技はッ!?」

全力で攻撃をいなすが、額に大粒の汗が流れていく。

だが攻撃を受けているのはスカーレッドだけではなかった。


「イ、イダぁいッ!...スカーレッドさま、、たすけてください....」

エリサの身体には無数の傷が刻まれ、ただでさえ片腕が無いため、顔の血色は青ざめていた。

「えっ!あ、すまないエリサ、大丈夫か!?」

スカーレッドがゴブリンから眼を離した瞬間に、3足歩行で脱兎の如く逃げる。

「チィッ!!ファイアバレット!!」

ゴブリン目掛けて鋭利な炎弾が飛ぶが、四足を華麗に扱い斜め前方に反復横跳びで避けて行く。


「クソッ!!」

「スカーレッド様さ、ま..」

「あ、あぁ、分かっている」


スカーレッドがエリサの止血をし終わったときには、

もうゴブリンはいなかった。

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ゴブリンファイター @GrayCrazyPanda

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