第2話
「シャァァァァッッ!!」
「ほらよっ、と」
細い木の枝と鋭利な石を組み合わせて作った石槍を巨大蛇の口内へと突き刺す。
「ジャアアアア!?」
巨大蛇は蜷局巻いて辺り一帯を尻尾で薙ぎ払い、暫くするとモソモソと尻尾を巻いて逃げ始めた。
巨大蛇が逃げるのと同時に俺もまた逃げる。
「まだアイツには勝てん」
どこの世界も一緒、弱者は弱者なりに知恵を練り、強者は強者でこれ以上は得がないと分かれば引けば良いのだ。
俺もまたその法則に従い弱者と思わしき小動物を狩っては喰らい、身体に筋肉が付き始めてきた。
だがこのまま暢気に暮らしていては生態系ピラミッドに従ったまま、ジャイアントキリングは叶わない。
そんなものは御免だ。
だからこそ、あれから色々と考えた。
俺に類似した化け物、アイツがヒントになる。
『伸びる爪攻撃』あれは何なのか、だ。
前の世界ではあんな現象見たことも無かった。
見様見真似であのときのアイツと同じポーズで爪を突き出したが、当然何も起きなかった。
何故あいつに出来て自分には出来ないのか。
前世での悔恨を彷彿させ、フラストレーションが溜まっていく。
「駄目だ、頭を冷やさなければ」
徐に座禅を汲み、精神を統一させていく。
雑念が脳裏から離れないときはこれが一番聞く。
暫く無心で精神を集中させていくと身体に不思議な力が入ってきた。
何と表現すればよいのか、取り込む瞬間は冷気のようなモノがゾワリと入り、それが心臓付近までくると、今度は身体の節々、先端がポカポカしだした。
明らかな異常事態ではあるが、それでも暫く続けていくと動悸が激しくなってきて、これ以上は不味いと判断して、精神統一を中断した。
片膝を立てゆっくりと立ち上がり、眼を見開くと世界が真っ赤に染まっていた。
『血眼が発動されました』
脳内に無機質な音声が流れる。
「・・・これは何だ?」
目を擦っても眼を細めても世界は変わらない。
だが心臓の鼓動は高まるばかりで、どうしたら良いものかと額に手を当てる。
いくら考えても解決には至らないので走ることにした。
頭を抱えていても無駄だからな、ならば走りながら考えれば良い、という安直な考えからの行動だ。
「・・・・・・・・・・?」
暫く走ってみると違和感を覚える。
世界は未だ真っ赤に染まっているため普段との差が分かりにくくなっているが、それでも分かったことがある。
『速度』が普段の倍出ている。
勿論、意図して速度を出したわけではない。
普段通りのジョギングのスタイルに、何も意識は変えていない。
それから自分の身体の変化を調べていくと、筋力量、速度、視力、肺活量などが体感で1.5倍の性能なっていた。
試しに先ほどまで追いつけなかった角の生えたウサギ?に走り寄り競争を挑む。
角ウサギはこちらの存在に気付くなり、脱兎の勢いで走り出したが、結果は俺の勝ち。
「・・・・・ホント何なんだ、この力は」
『血眼の効果が切れました』
また脳内で無機質な声が流れる。
「てめぇもさっきからうるせぇんだよッ!!」
元々短気な性格なのもあり、フラストレーションが溜まり咆哮を放ってしまった。
とても文化国出身の人間とは思えない行動だが、思えば人間では無かった。
....人間では無い、それを再度自覚したからなのか冷静になることが出来た。
「さっきの声は何!?」
「近くに魔物がいるんだろ?そんなびくつくなよ」
「・・・用心に越したことはありません」
人間の声がする。
暫く人間に会っていなかったためその声を聞いた瞬間、心が躍ったが、今の自分の姿を思い出す。
今自分は人間では無いのだ。
故にここは大人しく逃げる選択を-----------------------------------------------------
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---------------いや、取る必要があるのか?
正しく今の俺は化物だ。
ならば人間が持つ基本的モラルをわきまえる必要がどこにあるのか。
---俺の夢は何だ。
---俺はなぜ生き返ったのだ。
---何故、死んだんだ。
思考の渦へと飲まれていく。
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「おっ!!雑魚モンスターめっけ!」
軽薄そうな男が1人、武器を西洋の剣を肩に乗せもう片方の手は腰に当てている。
-------三秒で殺せる。
「な、なんだゴブリンですか」
白衣を身にまとった女、両手で杖を握りしめている。
-----隙しかない。
「2人とも前に出過ぎです、他に仲間がいるかも知れませんよ」
2人よりも重装備な女、両手で大型の盾を装備している。
如何にも神経質そうで周りを警戒している。
----が、首周りの装甲が薄い。
「なぁなぁ、周りにはコイツしか居なさそうだし、さっさと狩っちまおうぜ」
「・・・そうですね、長居は無用です」
3人が臨戦態勢に移る。
だから俺は--------------------
「一応伝えておこう、危害を加えるつもりはない」
「しゃっ、しゃべった!?」
「珍しいです、ね」
「あぁ、言語を話すゴブリン?って奴は初めてか、生憎とこの世界のことには疎くてね、申し訳ないが色々と----」
教えてくれないか、そう言おうとした矢先。
「ホーリーランス!!」
光の矢が飛んできたので横に飛び移る。
「お、おい、エリサ!何も殺すことはねえだろうが!」
軽薄そうな男がそう言った。人は見かけによらないということか。
「こんな珍しい魔物見世物小屋で売れば大金貰えるぜ!」
—-前言撤回、身は体を表すとはよくいったものだ。
「オーリーの言う通りです。一度このゴブリンの四肢を切り落として売り払いましょう」
「・・・2人ともどうかされています。聖典の言葉をお忘れですか?」
「あ?・・・あぁ、そうか」
「この世で言語を扱って良いのは人族を有するものだけです。---故にこの魔物は私達の正敵です」
白衣の女がそう言うと、2人はしょうがない、という表情を浮かべてこちらに攻撃態勢を取った。
「なるほど、この世界の魔物と呼称される生物が言語を扱ってはいけない、というのがこの世界の神の決めごと、ってわけか」
「今すぐその腐った口を閉じなさい!!貴方のような魔獣が言語を話すなんて、聖母神ルーミル様への侮辱です!!」
「ハハッ!侮辱か、これは面白い、俺の記憶が正しければ鳥さえも仲間間で言語を交わすらしいが、おたくらの信仰する神とやらは人と鳥の違いも分からないと見受けられる」
「ッッ!!殺します!!オーリー!!ジール!!」
「はいはい、全く、ゴブリン如きに口喧嘩で負けてんじゃねえよ」
「ですがエリサではありませんが、些か先程の問答には怒りを覚えます。迅速に処分しましょう。コレは世界に存在してはいけないモノです」
---あぁ、俺は今から殺されるのか。
そうか、それは悲しいなぁ・・・辛いなぁ・・・
—-----------------------だってまさかよぉ.....
「武術が人殺しの道具になる日が来るなんてなァッ!!!」
一瞬で盾を持った女に接近し喉元に貫手で貫く。
「カッ!?ゴプゥ…」
口からどす黒い血を吐き出す。
間髪入れず、剣を持った男がこちらに剣を振り下ろすが、
右腕で剣の背を払い、大っぴらになった胴体に正拳突きをかます。
その胴体は拳大のに凹み、胸骨を砕き内蔵を破壊した。
「はっ、ハハッ、嘘だろ、だってゴブリンだぜ・・・夢なら・・・・・」
男はそのまま絶命した。
「...い、いや..」
「後はおたくだけだがどうするよ、死に方は選ばせてやる。お勧めは顔面破裂だ。脳が落ちれば余韻も感じずあの世に行けるぜ」
「ゆ、ゆるして下さい!!」
白衣の女、エリサはなりふり構わず俺に向かって土下座をする。
「許す?何を言っている。俺は正敵だろうが。この世に存在してはいけない存在なんだろ?」
「い、いえ、貴方のような方がいままでこの世にいなかったのです!ですから今一度ルーミル様とお話を...」
「...そうか、それなら仕方ないな」
「み、見逃してくれるのですか!?」
「見逃す?...いやいや、今すぐだ」
「え?いえ、今は無理です。一度教会へ出向いて...「いや、だからそうじゃねぇんだわ」...え?」
俺は頭を振るい、緩慢とエリサの後頭部を抑え、耳元でこう伝えた。
「だからさ、【あの世】でルーミル様に、よろしくな」
「い、いやぁああああああああああああ!!!」
白衣の女へと拳を突き出そうとした瞬間、不規則な空気の流れを感じてバックステップを取る。
それと同時に、先ほどまでいた場所の真上から剣が突き刺さる。
「・・・・一応、間に合ったか」
「ス、スカーレッド様!?」
奇襲の正体は髪が真っ赤で長身の女騎士?と呼称すれば良いのか、おとぎ話の英雄のような出で立ちをしている。
「何故スカーレッド様が此処に!?」
「偶々見回りをしていてな。そしたら悲鳴が聞こえて急いできたのだが、2人は・・・」
女騎士は2つの死骸へと見やると、頭を振るいこちらを睨み付けてきた。
「お前がやったのか」
「ハハッ、やったと言えばやったな。だが正当防衛でもあるんだぜ?」
「ッ!?貴様話せるのか!?」
「ガハハハッ!!そうさ、そのせいで正敵判定されたがな」
「・・・・・そういうことか」
「そういうわけだ。さて、どうするよ。その女が俺に危害を加えないと誓うなら今回は見逃してやっても「ふざけるな!!」-----そう来るとは思ってたさ」
女騎士は地面に突き刺した剣を引き抜き、剣を正面に構える。
「貴様は我等人族を侮辱し、無辜の民を虐殺した。その罪白日の下に晒すため、貴様の首を寄越せ!!」
横一線、女騎士は凡そ届かない距離から剣を真横に振るう。
そのカラクリは予習済みだ。
即座に腰を落としたと同時に頭上を刃が通り過ぎていき、クラウチングスタートの要領で女騎士へと突進していく。
「ッ!?セイクリッドウォール!!」
一瞬驚いたように瞠目したが、直ぐに切り替えて新たな手札を使用した。
セイクリッドウォールなるものは、女騎士を透明なカーテンのような素材で囲み、それに触れようものなら斥力が働き、はじき返された。
「・・・カァァッ、まだまだこの世界には不思議パワーがあるわけか」
「貴様ら害獣はこの領域に近寄ることが許されない、神聖領域だ」
「神聖ねぇ、俺は昔からその言葉が嫌いでよォ」
「・・・?」
「だってよォ、神聖ってのは清らかで穢れていない事をさすんだぜ?・・・それは可笑しい。なんてたって神こそが不純な輩じゃねえか!!」
「貴様ァアアアアア!!!!!」
女騎士はセイクリッドウォールを抜けてこちらへと走り出す。
どうやら使用される空間は固定されているみたいだ。
「5連風斬!!」
縦横無尽に剣戟が飛んでくる。
それを最小限の動きで交わしつつ距離を詰めていく。
「フレアサークル!!」
女騎士を中心に大地から炎柱が突き出す。
俺は身体を屈めて前屈体制を取る。
そしてそのままの体勢から跳躍していく。
凡そ4メートルくらい飛ぶと、炎の中心にいる女騎士を補足する。
そして、掌を広げ落下の勢いで女騎士を頭からつぶそうとした。
---そう、したんだ。
「真空斬ッ!!」
地の利、頭に血が上ってこんな単純な事を忘れていた。
飛んでるやつより、地に足着いた奴の方が有利なんて、ガキでも分かるのにな。
ザンッ!!
片腕が飛んだ。
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