ゴブリンファイター

@GrayCrazyPanda

第1話

俺はガキの頃から世界最強という称号に憧れていた。

あんなもんは年を経てば経つほど不可能だって事が身に沁みて理解させられる。

...だけど諦めきれず無茶な事もした。

山に籠もり滝に打たれ火の上を走った。

意味があるかなんて分からない。

だけど小柄な自分には神頼みの領域に手を出すしか手段は無かった。


だけど、端から神様は俺の方なんか見ちゃいなかった。


本日未明、山奥で男性の死体が発見されました。

胸元には大きな爪痕があることが分かり、警察は熊に襲われた可能性が高いとみて捜査を進めています。


30年武術に身を置いたが、熊一匹倒せねえんだからよ。


名前:☓☓ ☓☓ 享年35歳



『輪廻の儀を開始します』


暗い暗い世界の中で只々身体が沈んでいく。

きっとこのまま、何も動かなければ自分は消えていくのだろう。

御大層に四肢に鎖まで括られている。逃げようなんて考えてねえよ。

挙句の果てに思考もボヤケてきて昔のことは思い出せない。

両親、初恋の相手、友達、もう何も思い出せない。


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ーーーいやぁ、やっぱ嘘だわ、見栄張った。


脳内にこびりついて本当は一番に消えて欲しい記憶がどうしても消えない。

空手の試合でボコされた相手、階級が上で闘うことすら許されなかった相手、何よりも、俺を殺したアイツの顔を...忘れることはできなかった。


『・・・輪廻の儀が失敗しました、感情の初期化に失敗しました。再度実行します』


力の抜けきった身体に再び闘志が宿る。

誰でも良い、俺にチャンスを寄越せ、もう言い訳なんて吐かない。

あのときもあのときもあのときも.....負けたのはオレのせいだ。

体格のせいでも運が悪かったわけでもない。

熊ごときに負けたのは俺が弱かったからだ。


....だからよぉ、今度こそ


今度こそ世界最強になってみせるからッ!

俺にチャンスを寄越せぇぇぇ!!!


自分の四肢を封じていた枷が見えない力によって粉砕された。


『緊急事態発生、輪廻ノ器が破壊されました。告、緊急事態発生、直ちに神界へ通達、並びに魂魄の回収を実行します』


眼の前に形のない薄ぼやけたナニカがコチラに向かって来る。


本能で分かる、アイツは俺の目的を阻害するものだ。

巫山戯るな、、、テメェが何者か分からねえが、俺の邪魔をするつもりなら...

「潰すッッ!!」


『告、直ちに輪廻ノ器に戻りなさい。従わない場合、魂魄の消滅も辞しません』

ナニカの周りに光の粒子が集まり、鋭利な曲刀が形成された。


『最終通告、戻りなさい』

「お前が神だろうが何だろうが、俺はもう何者にも従わねえよ、意味がねえってことが分かったからなァッ!!」

『では消えなさい』

ナニカがこちらに向かって袈裟斬りを仕掛けてくる。

だが俺はその刃を背に右肘でナニカの頭部を打った。


「熊にすら勝てない弱者と見誤ったな、武術とは本来、対人戦を想定されてんだよ、バァカ」


『天駆への攻撃を確認、禁則事項の抵触により、第三精神世界を爆破します』

「は?爆破?」

『天界関係者へ通告、只今より10秒後、第三精神世界を爆破します。直ちに避難行動を取ってください。10….9….』

「ちょっ!巫山戯んなよッ!」

何処かに出口はないのか!?

上下左右、暗闇だから、そもそも進めているのかすらわからない。


『5….』

それでも地面を蹴っている感覚はある。

一瞬背後のナニカを見やると光も心做しか小さくなっている。

距離は稼げどその声だけは確かに聴こえる。

恐らくこの空間全てに鳴り響いているのだろう。

極限の環境のせいか息も絶え、脚に乳酸が溜まった。

だがそんな中、生を実感でき、口角が上がってきた。



『4….』

「君は何故生きたいんだい?そんなにも弱いのに」

道中、小柄で真っ黒な生物がそういった。

それも胡座をかきながら随分と偉そうに。

「夢があるからだ」

本来であればこの場から早く逃げなければ行けないのに、コイツから逃げてはいけないと魂が拘束された。



『3….』

「ふぅーん、弱いくせに夢なんか見てるんだ」

「悪いか?」

「・・・うぅん、面白いなって思うよ」


『2….』

「じゃあ俺は先を急ぐからよ、お前も早く逃げろよ、まぁ無駄な足掻きかもだけどな」

「いや、僕はもう夢が叶うんだ、だからここでいいんだよ」

「そうか」

わけがわからんが本人が満足ならそれが良いのだろう。


『1….』

「ねぇ、助けてあげようか?」

「あぁ頼むわ」

間髪入れずそう答えた。

だってこいつに気を取られたせいで時間がもう無くなっていたからな。


『0』

黒坊主は徐ろに俺のデコへと手をやり、

「【形代交換】、はい、これでーーー」

それからの声は聴こえなかった。

謎ならあたり一面が真っ白な世界へと覆われたからだ。

遠退いて行く意識の中、あの黒坊主のことが気になった。アイツは何故俺を救ってくれたのか、何故最後に笑っていたのか。

答えはもうわからない。


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目を覚ますと薄暗い洞窟の中だった。それも半身が土に埋まった状態で。

それから耳をすませば滴る水の音と、キーキーと不快な音を発する蝙蝠らしき生物もいそうだ。

暫くは生活に不便はなさそうだ。


土に埋まった自身の身体を抜け出し、汚れを払う。

「ん?・・・なんだこれ」

汚れを払った自身の手を見やると、そこには緑に変色し骨ばった不細工な手があった。


それから脚、腹、胴を確認してみたが、昔見たSFに出てくるエイリアンのような身体をしていた。

自分の顔を見ることは叶わないが恐らくはこの図体で美男子は期待できそうに無い。


背丈は目線の高さから察するに、120cmくらいといったところか、

前世の容姿からは凡そマイナス40cm。


世界最強を目指すと誓った自分としてはハンデもハンデ、大ハンデだ。

・・・だがきっとこれで良いのだ。自身の体躯のせいにして心の深いところで諦めてしまっていた自分には、このハンデが寧ろ心地よくも感じる。


加えてこの醜い容姿、大方この世界に人間がいるのであれば、エンカウントと同時に討伐対象と補足されるだろう。

それはつまり、人類の敵であることを意味し、神が人間の寵愛を与えている立場であれば、神からも拒絶された存在になり果てたことを意味する。


予測の域を出ないが改めて思う。

「全てが心地良い」と、


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出口を探すべく道を進んで行くと、キーキーと鳴く生物を生物を発見した。

見た目は蝙蝠の姿を2倍にしたくらいか、加えてその配色は羽内が赤、羽外が灰色と敵対心をこれ見よがしにアピールしている。


少し様子をみようかと思ったが、キシャーッ!と大口を開けたあたりから戦う覚悟を決めた。

自身の両拳同士をぶつけて、拳の硬度を確認する。

「ほう、、こりゃあ良い」

最高の拳だった。


人間の拳(手)というのは、物を扱うことに特化している作りをしている。

だから間違っても人を殴るためや、絞殺するために進化したパーツではない。

だがコイツの身体は違う。間違いなく己以外の生物を殺すために進化した身体だ。

肩を回してみると余計にそれが分かった。


「かかって来いよ、デカブツ!」

挑発行為を行うとまんまと乗せられた巨大蝙蝠がこちらに向かって突進をかましてくる。

それと同時に大口を開け、巨大な牙でこちらを攻撃してきた。

「馬鹿がッ!」

重心を低く、右半身を後方へと流し、脱力しきった身体から前方へと拳を突き刺す。

「ガピャッ!?」


突き刺した拳は巨大蝙蝠の口内へと潜り、その牙を折り体内の奥深くへと貫通していった。

生暖かい感触が右ひじまで伝わったのと同時に拳を引き抜く。

「生物の弱点を大っぴらに晒してノコノコ突っ走る馬鹿がいるとは思わなかったぜ」


それから幾度も無く得体の知れない生物を虐殺していくと、前方から小さな光を見つけた。

恐らくこの洞窟の出口だろう。新しい世界への扉に些か心を躍らせていくと、一つ影が遮った。

双眼を細めて正体を見やると、人型のシルエットに細方小型の体躯に緑の体色。

「なるほどな、それが俺の正体って訳だ」


その顔は、正しくエイリアンと呼称してもまかり通る見た目、顔が前に突き出しており、耳は上へと尖がっている。

目は全て黒く、歯はノコギリのような形状をしている。

「ゲギャ?」

何を言っているのかわからないが、その仕草から察するに仲間?とでも言いたげな様子だ。

そんな訳はあるまい、と鼻で笑って足元に落ちていた石を投げつけた。

「ギャァァア!!」


どうやら怒ったようだ。

眼を真っ赤にさせて鼻息を荒くしている。

怒りの感情を乗せたまま、こちらに向かって自身の腕を上げ引っ掻くような態勢を取る。

そして上から下へと爪を駆り立てる。

寸前で身体を逸らし反撃を繰り出そうとしたが、ヤツの爪の先から白く光る疾風が走り、

爪先から2メートルくらいの攻撃を目視し、体勢を立て直すべくバックステップを踏んだ。

「・・・なんなんだ、そりゃ?」

「ギャァギャァギャァッ!!」

今度は勢いに任せて伸びる爪攻撃を3連続放ってきた。


「・・・チッ」

腕から血が滴る。

どうやらヤツの爪が腕にかすったようだ。

アイツに近づこうにも爪攻撃を繰り出されて近寄れない。

一瞬で距離を詰めようにも今の身体では筋肉量が足らなすぎる。

・・・しょうがない、プライドは捨てよう、今は生きることが優先だ。


ヤツにギリギリまでにじり寄り、爪攻撃を仕掛けようとした瞬間、思いっきり地面を蹴り飛ばす。

「ギャァッ?」

一瞬何が起こったのか分からない様子だったが、すぐに自分の目の違和感に気づいたようだ。


種は簡単でただの目つぶしだ。

恐らく太古から存在する人類の卑劣な技だろう。

奴が一瞬怯んだその瞬間、距離を詰め利き足で頭を蹴り飛ばす。

そのまま壁際まで吹っ飛んだので、ゆっくりと近寄り貫手で喉元を突き刺す。

「カペッ・・・」

血反吐を吐きそのまま首が落ちたことを確認した。


「しょうもない勝ち方をさせやがって、糞がッ」

この苛立ちは目の前の死骸に対してではない、自分への怒りだ。

今の自分ではまたあの時のように簡単に死ぬだろう。

そんな自分への怒りだった。


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洞窟の外は荒廃しており、草木一本も生えていない終わった大地だった。

先の戦いであのエイリアンからくすねた布切れを頭へと覆い、安息の地を探し出した。


『第三精神世界跡地』

「それで異常個体の消滅は確認出来たのか?」

『識別番号:N725185の消滅は確認しました』

「そうか、なら何故私がここに呼ばれた」

『XXX:XXXXXXXも消滅されたからです』

「...嘘だろ?...一体何が起きた?そもそも担当の天駆は何をしていたんだっ!!」

『分かりません。担当の天駆も消滅しているため原因の追求が困難な状況にあります』

「・・・何としても突き止めろ、こんなことが公にやらされたらお前らのオリジナルもただでは済まされんぞ!!」

『最善を尽くします』

「俺の方でも探ってみる。...後のことは頼んだぞ」

『かしこまりました』


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