バイト仲間の女子大生
せっかく
西銘の邪魔が入らなければ話していただろうか。
いや、しないな、たぶん。
そんな話を聞かされても困るだろう。
第一、俺はまだ父方祖父に会ってもいない。
俺の兄だか弟だかが向こうにいるようだという情報しかない。
とはいえ、その話が頭を何度も巡って、今の俺は学校にいても何も集中できなかった。
誰かに喋った方が胸がすっきりするのだろうな。
しかし、その相手を誰にするか思いつかなかった。
少なくともそれは同級生ではない。
ふと担任の
散々チャラい男を演じてきた俺は芦崎に相談事をしたことがなかった。
そもそも芦崎が生徒の相談に応えられるのか? って、芦崎先生に失礼かな。
もっと年配のベテラン教師なら、と考えて思いついたのが
何となく違うんだな。
やはりひとり自分の胸のうちで消化するしかないのだろう。
その日は何となく
数日過ごすうちに徐々にふだんの調子に戻っていった。
父方祖父にはいずれ会うだろうが、多分それで終わるだろうと思う。
血はつながっていても会ったことがなければ他人と同じだ。事業を手伝うなど思いもよらない。
その日はいつものように夕方からのバイトをしていた。
厨房で調理補助をしていたら給仕担当の学生アルバイト
「最近おとなしかったね、今日は普通になったみたいだけど」
こんなところにも気づく人間がいることが驚きだった。
「思春期はいろいろあるんだよ」俺は大学生相手でもタメ口を利く。
「恋の悩みかな?」三森菜実は笑った。
「それもあるかな」俺は思わせぶりに言った。
「お姉さんに話してみな」お姉さんムーブは反則だな。
「そんな時間あるかな」
「時間はつくるものだよ」説得力があるな。
「たしかに」
忙しいから短い会話しかできない。しかしその日は三森菜実と何度もやりとりをした。
わずかな時間をつくって三森がわざわざ声をかけてくる。
そんなに俺、悩んでいる顔をしているかな。
何でかな?と思っていたら帰り際に三森菜実に呼び止められた。
「
「何かあるの?」
「今日、うざいくらいしつこい客がいて、店の外で待っていないか不安なのよ」
「ああ、なるほど」そういうことだったのか。
店長も話を聞いていて、後片付けは良いから三森と一緒に帰れと言った。
「わかりました」
しかし三森は自転車、俺はバイクだ。
どうするか考えていたら、店の近くの駐輪場で三森が少し恥ずかしそうに言った。
「後ろにのせてくれたりするのかな?」
「そうしたいのはやまやまだけど、免許とって一年たたないと乗せられないんだよな」
「そっか」
「てか、その格好でバイクは無理じゃね?」三森菜実は長めのスカートだった。「自転車も危ないくらいだよ」
「ゆるゆる走ってるから大丈夫」
「じゃあさ、俺、バイクをおいていくからその自転車で帰ろ」
「え?」
「後ろに横向いて乗りな」
「でも二人乗りになるよ」
「バイクで捕まるよりマシ」
ということで、三森菜実の自転車に二人で乗った。
家はここから自転車で十分くらいのところらしい。新興住宅が多いエリアだ。
「他所から越してきたの?」
「パパの異動で中学の頃ね」
話を聞くと俺の高校の卒業生だった。
「後輩だったのねー」後ろから先輩の声がした。「一年生には見えないよ」
「よく言われる。偉そうにしているからな」
「堂々としているね」
三森菜実は
「そっちこそ京葉大に見えねー」
「やっぱり?」
三森は明るい茶髪で、語り口はギャル系だった。私服のロングスカート姿がかろうじて京葉大生に見える。
「家から通ってるのか?」
「そうよ」
真冬は家を出て一人暮らししたいと言っていたな、と俺は思い出した。家から大学まで通えてしまうなら親の許可はおりないのではないか。
「前生徒会長の
「私もそうしたいとは思う。でもやっぱり怖いよね」
「変なやつもいるしな」俺は後ろを窺っていた。「今も虫がついてきている」
「え!?」
三森が後ろを振り返ろうとするのを俺は制した。
自転車が二台、うち一台は二人乗りだった。店を出たあたりからついてきている。
これがしつこい客なのか。だとしたら三森の家まで連れていくわけにはいかない。
「コンビニに寄るわ」
大きな道路だったからそいつらもたまたま同じ道という可能性もあった。だから見極める必要がある。
「後ろを振り返らずに一緒に来て」
近くのコンビニ駐輪スペースに自転車を停めた。
三森を連れて店に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます