俺の家とバイト先
自転車で家に帰ってきた。築四十年は経っているが、その地域では誰もが知る豪邸だった。
畑を含めて数百坪はある敷地に建て増しを続けているから、築四十年以上の部分と新築の部分が混在している。
家主は俺の実の祖父
祖父は大工だったが、今はその長男で俺にとっては叔父にあたる
俺も祖父に教えられ、柔道、空手、剣道とも初段を持っている。それで満足して今は全くやっていないが。
道場は敷地内にあった。俺は道場に近い
俺の実の両親は俺が生まれる前後に相次いで亡くなっている。
父は俺が生まれる前に事故で亡くなり、母は俺を生んで間もなく病死した、と聞いている。
俺は両親の顔を知らない。祖父と叔父夫婦、いとこたちと暮らしてきた。法律上は祖父の養子というかたちになっている。
「おかえり、
セーラー服の上にエプロンをしている。夕食準備の手伝いをしていたのだろう。飛鳥は俺の二歳下だから中学二年生だ。
「何か食べていく?」飛鳥が訊いた。
「おにぎりでもあるか?」
「あるよ」
「
「部活だからね」従兄の雷人は同い年で同級生。隣のクラスだった。
小さいころから双子のように育ったから兄弟のようなものだ。飛鳥もまた妹のような感覚だった。
「そうか、じゃあ、またあとだな……」
俺は飛鳥からラップで包んだおにぎりを受け取って、家を出た。
どこの地方都市も似たようなものだろうが、俺が生まれ育った土地も、先祖代々住んでいる家々が集まる地域と新興住宅街、そして市街地、観光地に分かれる。
俺の家は古くから住んでいる住民の集落だったが、バイト先は市街地と新興住宅地の間にあった。
地元民が利用するファミレス。それが俺のバイト先だ。
そこを利用する地元民はよそから移り住んできたものが大半だった。
そこへ行くにはバイクか自転車でないと余計な時間がかかってしまう。だから俺はバイトへ行く際にバイクを使っていた。
冬は空気が澄んでいて、空も大きい。車に乗っていれば窓を通してぽかぽかした日差しを身に受けるのだろうが、風を切るバイクではいくら着込んでいても体が芯まで冷やされた。
五月生まれの俺は六月にはバイクの免許をとっていた。十六歳でバイク乗りだ。
このファミレスのバイトは夏休みに入ったときに始め、今ではすっかり慣れている。
皿洗いなど厨房業務が主体だが、最近は人手が足りない時、客席業務もこなすようになっている。今日はその日に当たっていた。
五分と少しでバイト先に着いた。
ロッカールームで冷えた体を温めながら給仕用の制服に着替えた。
まだ四時台。これから夕食時間帯になるとどんどん混んでくる。
今の時間帯は学校帰りの制服姿が目立った。安価で喫茶軽食ができるチェーン店だったので高校生の利用客は多かった。
ボックス席に男子高校生が三人。その制服は俺が通う高校のものだった。
三年生だろうか。ちょっと垢抜けた印象で、三人とも髪を少し茶色にしてワックスで仕上げていた。
この近くに住んでいるとしたら、都市部あたりから移住してきた連中に違いない。
「どうよ?」
「
他の客からオーダーを取ってもどる途中にその台詞が聞こえた。歩く速度を落とす。空気に溶け込み、気配を消すのは隠密のスキルだ。
「今のうちにアピールしておかないと、チョコもらえないぜ」
「そうだな、もうすぐ卒業だし、その前に一発やっておかないと……」
三人はけらけら笑っていた。
三年生とはいえ、
「一発やって」などと言っているが、グループでいるノリで言っているに違いないだろう。
しかしそうでない可能性もある。
「明日呼び出して
「なんだよ、オレが狙っているのに」
「オレだ、オレ」
「げははは……」
こんな
まあ学校の評判を落としているのは俺も同じだが。
どうせ
先日近くの神社で行われた節分行事に胡蝶日和は助勤デビューした。二月下旬に行われる神宮での
高校生になってかつての幼馴染はどんどん有名人になっていく。
そんな彼女を俺が意識するようになったのは、やはり巫女姿を見てからだ。
それまで
俺は
何かありそうなら手を打つ必要がある。「闇の暗殺稼業」に憧れる俺の中二病がいよいよ発動しつつあった。
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