四、大城真一郎

四、大城真一郎おおしろしんいちろう


 死体は棺桶には入っておらず、二畳ほどの箱に乱雑に詰められている。死体は人間のようなものもあれば、人間ではないようなものもある。少ないときには一箱未満、多いときだと三箱がいっぱいでやって来る。死体の搬出元はラボだ。

 飯塚いいづかと二人で、焼却炉に入れる台の上に死体を並べる。

「大城さん、こいつらって、何なんですか?」

「知らない。知ってはいけない。ただ、普通にいる生物じゃないのは確かだよな」

「ですよね。前もそう言われました。でも最近夢に出るんですよね。死にたくなかったって」

「俺も前にそうだったときもあるけど、その内見なくなるよ」

 俺達は防護服を着ている。赤ん坊くらいのが三つ、子犬みたいなのが一つ、大人の人間くらいのが一つ、犬よりひと回り大きな四つ足のが三つ。どれも確かに死んでいる。前に死に損なった個体が紛れていたことがあった。俺達に殺す権利はないから、ラボに連絡した。第一ラボから順番にかけて、第三ラボから排出された生き物であることが分かった。すぐに第三ラボから人が来て、その個体を殺した。俺達はいつものように作業を再開した。

 台に並べ終えたら、焼却炉に入れて、焼く。二時間と決まっている。これまでその時間で焼け残ったことはない。

 焼いている時間に清掃をする。あまり汚れてはいないが、毎回必ず行う。

 焼けたら、骨を粉砕器にかける。大きなちりとりのような器具を使う。

 骨が粉になったものを箱に詰めて、死体処理場の裏にある広い敷地に掘られた穴まで持って行き、穴に骨粉を落とす。流れ出ないように蓋をする。

 俺と飯塚は骨粉を埋めた後には手を合わせる。飯塚が何を祈っているのかは分からないが、俺は面識もない死体であってもやはり成仏してくれと願う。敷地からの帰り道、台車を引きながら飯塚がため息をつく。

「毎日毎日、死体と出会ってそれを燃やして骨を埋める、僕の人生これでいいんですかね?」

「仕事って、そう言うものじゃないのかな。それが嫌なら転職するしかない」

「嫌じゃないんですけどね」

 それから遅い昼食を摂って、粉砕器周辺の清掃をしたら一日の業務は終了する。お疲れ様、と言い合ってそれぞれの車に乗る。俺の車には護符が五つ貼ってある。マンションでは盛り塩を欠かしたことがないし、入るときにも必ず塩を振る。帰って最初にシャワーを浴びる。神棚に手を合わせる。別に祟りのようなことが起きたことはない。それでも、自分が作られた死に関わっていることを、放置することが出来ない。

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