第7話 守銭奴探索者、泣かれる。
フォローや♡、☆などありがとうございます!!
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『私とコラボしていただけませんか』
俺のスマホに届いたそのメッセージには続きがあった。
『突然ご連絡をしてしまい申し訳ありません。私は先日ドラゴンに襲われているところを助けていただいた西園寺ミカというものです。
先日はお礼はおろか、自己紹介もすることが出来ず申し訳ありませんでした。今回ご連絡させていただいたのは助けていただいたお礼をしたくダンジョン庁にお願いし、連絡を取っていただきました。
今回、鐘森様にコラボのお願いをさせていただいたのはお礼をしたいという気持ちのほかにドラゴンの襲撃は鐘森様と私の仕込みではないか?という憶測が広まり鐘森様には多大なご迷惑をおかけしていると思います。今回はその疑惑の払拭などご協力できればと思いご連絡させていただきました。
もしコラボしてくださる場合はこちらの連絡先までお願い致します。 ×××――』
メールの送り主は西園寺ミカだった。メールの内容を要約するとドラゴンから助けたお礼にネット上の疑惑の払拭に一肌脱ぐというものだった。
ふむ…。条件など詰めるところはあるかもしれないがこれは俺にとっても悪い話じゃない。仮にも助けた(助けたという意識はあまりないが)相手だ。無茶な条件でもなければ呑んでもらう事は出来るだろうし、何よりここで視聴者にきっぱりと関係を明言しておかないと今後の配信に支障が出るかもしれない。
西園寺ミカのチャンネルを確認するとそこには登録者数30万人の文字が。以前見かけたときよりも10万人以上増えている。俺のチャンネル登録者数の三倍だ。十分宣伝効果が見込めるだろう。
今回のコラボの誘いは様々な面で見てもメリットの多い誘いだった。唯一デメリットを上げるとしたら男と絡むことでお互い炎上するリスクがあるところだが、お礼のためのコラボであるという事を周知していれば炎上のリスクも最低限に抑えられるだろう。
「よし、受けるか」
いろいろと考えてみたが、コラボすることを決めた主な理由は彼女にもう一度会ってみたいと思ったからだ。もちろん変な意味ではなく、単に配信に詳しい有識者とのコネが欲しかったのである。
今まではユリちゃんにいろいろと頼っていたがユリちゃんも配信のことは本来専門外だ。今後の配信のスタイルや企画などを考えるにあたって配信内容に詳しい人に相談したかったのだ。
そうと決まればさっそく連絡するか。
「コラボのお誘いありがとうございます。ぜひともよろしくお願いします。っと、」
さーて、メールも返信したし深層でも――「ピロンッ!」
速くない?
俺はポケットにしまったスマホを取り出し確認してみるとそこには案の定、西園寺ミカの文字が……。
「ええ……。まだ送ってから数分も経ってねぇぞ…?」
再びメッセージを開き文面を確認してみると。
『コラボのご了承ありがとうございます。つきましては配信予定の相談や事前の顔合わせなどを行っておきたいのですがお時間が空いている日などございますか?私はいつでも大丈夫ですので鐘森様の都合のよろしいお時間などお伝えくだされば幸いです。』
確かにコラボ当日にいきなり顔合わせをするという事に不安を持って当然か。お相手さんはこっちの都合に合わせるといっていたが、俺のほうこそダンジョンに潜る以外の予定なんて入っていない。以前であれば教習の依頼なども受けていたため時間の拘束などもあったが育成法廃止後の今のスケジュールはスカスカだった。
鉄は熱いうちに打てともいうし、話題になっている今、コラボは出来るだけ早いほうがいいだろう。俺は先方に打ち合わせはいまからでも大丈夫かの確認のメールを送る。
するとまた数分もしないうちに返信がくる。
『返信ありがとうございます。今からでも大丈夫です。』
我ながら、かなり非常識なお願いだったが聞いてもらえてよかった。その後待ち合わせ場所や詳しい時間などをメールで決めたあと、すぐに打ち合わせに向かうためにダンジョンを駆け抜けていった。
………
「い、いいいい、いまから!?どどどどうしよう!!どうしよう!えーとえーとお化粧なおして服もえーと……!」
一方そのころメールの送り主の西園寺ミカは馬鹿のせいで大慌てであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
急いで待ち合わせ場所に向かったが少し遅れてしまったのか相手はもう部屋に入っている様子だった。俺はすぐにドアをノックし部屋に入る。するとそこにはツインテールの少女が座っていた。
「遅れてすみません。鐘森シュウです。あなたが西園寺ミカさんで、あってますよね?」
目の前の少女に話しかけると少女は少し緊張している様子で答えてくれた。
「は、はい!私が西園寺ミカです!鐘森さん、先日は助けてくれてありがとうございました!!」
西園寺さんは俺に向かってバッ!と勢いよく頭を下げる。
「いやいや、気にしないでください。たまたま通りがかっただけですから」
ホントに気にしないでほしい。マジで通りがかっただけだし。なんならドラゴンと引き合わせてくれたって事で俺のほうがお礼を言いたいくらいである。巻き込んだことをかなり気にしてるみたいだから流石に口には出さないが。
「いえ、巻き込んでしまったのは私ですから。きちんと謝らせてください。もしあの場に居合わせたのが鐘森さんじゃなかったらその人まで亡くなっていたでしょうし、他にももっと大勢の方が亡くなってしまう所でした。」
「あの時点で避難命令は出ていましたし、ドラゴンの出現自体は魔力異常のせいです。西園寺さんのせいじゃありませんよ」
ここはしっかりと伝えておく。実際、被害が出てもおかしくない状況ではあったがダンジョン庁から避難指示が出ていた以上ダンジョン内に入れるのは魔力異常の調査を依頼された俺だけだ。ドラゴンの出現は下層だった為あの時点で中層以上の探索者の非難は済んでいただろう。
「でも…」
「そもそもそれが申し訳ないと思ったから今回コラボに誘ってくれたんでしょう?ならそれでチャラですよ。――それでも西園寺さんが俺に対して思う所があるなら一つお願いを聞いてくれるとありがたいんですが……」
「お願い…ですか?私に出来る事なら何でも大丈夫ですよ!!」
お願いと聞いて何を想像したのか顔がほんの少し赤くなった気がする西園寺さんを俺は無視してお願いの内容を伝える。
「……敬語なしでも大丈夫ですか?正直いつメッキが剥がれてもおかしくないんですけど…」
無理、限界。自分がガラが悪いのは自覚しているから、怖がらせないようにと結構無理して優しそうな口調で話してたがそろそろキツくなってきた。
俺の情けない表情がおかしかったのか西園寺さんは驚いたような子尾をした後に少し笑みを浮かべる。
「あはは、もちろんです。私は年下ですし、鐘森さんはSランクなんですから最初から敬語なんて使わなくても大丈夫ですよ」
「助かる……。いや、確かにそういうけどな。そのSランクがいきなりタメ口で話しかけたら怖いだろ?一応気は使ってたんだよこれでも。それに西園寺さんも敬語なしで大丈夫だぞ。呼び方もさんもいらないし好きに呼んでくれ」
「私はこれが素なので大丈夫ですよ。それじゃあ私の事も好きに呼んでください。シュウさん」
よし、さっきまでの気まずい感じの空気はなくなってきたな。
「わかった、西園寺はなにか飲むか?コーヒーかジュースなら出せるが」
西園寺へ飲み物を聞くと慌てた顔で。
「気にしないでください!私は大丈夫ですから!!」
「気にするなったって客に何も出さないで俺だけってのも気まずいだろ。俺の為にも頼んでくれ」
流石にこう言われては西園寺も観念したのかコーヒーを頼んできた。
「……それにしてもすごいですね。Sランクにもなるとこんな部屋まで貸してくれるんですね」
俺が飲み物を用意していると部屋を見渡して西園寺が聞いてくる。
「まあ普段は俺も使わないけどな、ダンジョン庁も近いし依頼が立て込んでるときはよくここにいるな」
正直ここで寝泊まりすると休んだ気がしないんだよな…。
周りを見てみると40畳ほどの広さのリビングにキッチンと仮眠用のソファベッドなどが置いてある。ここは俺が無料で貸してもらっている部屋の一つだ。大抵のものはそろっている。
「いやいやいや!何がダンジョン庁に近い、ですか!ここダンジョン庁の中じゃないですか!」
驚く西園寺の前に飲み物を用意しながら俺も席に座る。
「ギャハハ、まあSランクだけあって福利厚生はしっかりしてるって事だな。探索者なんて自営業なのにな」
ここはダンジョン庁の一室を改装した俺の部屋になる。以前ダンジョン庁から依頼が山ほど来てた時に家に帰るのがめんどくさいからと作らせたものになる。
Sランクからの無茶ぶりを食らったあの時の九条の顔は哀れなものだった。これに懲りたらSランクに何でもかんでも頼るのはやめようね!!
「せっかくダンジョン庁にいるって事だったからな、ここなら邪魔も誰かに聞かれる心配もないし話し合いにはピッタリだったんだよな」
「案内されたときは何事かと思いましたよ。他の部屋は事務所や会議室なのにドアを開けたらここだけ中が豪邸みたいになってるんですから」
「驚いてもらえたようで結構。お互い打ち解けてきたところで本題に入るか」
雑談もそこそこに俺は本題に入る。
「そうですね。改めて今回はコラボを受けてくれてありがとうございます」
「ああ、こっちにもメリットがあったからな。ただコラボするのはいいが何をするんだ?もちろん何か考えあっての事なんだよな?」
俺がコラボを了承したことに頭を下げる西園寺に俺は今回のコラボの内容を尋ねる。
「はい、メールでもお伝えした通り、今回のコラボは主にシュウさんへのお礼とネットで話題になっている私とシュウさんの関係性の説明がメインになります」
「そこまではメールで聞いていた通りだな。だがそれ以外にも理由があるだろ、正直その二つの理由だったらコラボしなくともSNSなんかで十分だしな」
俺が気になっていたのがこの部分である。お礼と視聴者への説明と、もっともらしい理由だがそれだけでコラボまで行くのは少し疑問に思った。実際に絡んでしまったからこそ起きる邪推もあるだろうし、そのことを考えるとただコラボするというだけではないのだろう。
「なにか俺にコラボを通して依頼や要望があったんじゃないかってのが俺の予想だがどうだ?」
つまり、西園寺も俺と同様にSランクとつながりが欲しかったのだと思う。実際それはアタリだったようだ。
「バレてましたか。正解です、今回シュウさんにはあるお願いがあってコラボに誘わせてもらいました。」
「やっぱりか、お願いってのはなんだ?言っておくが聞いても受けると決まったわけじゃないからな」
こればっかりはしっかりと線引きをする。俺はSランクの探索者である。宣伝するからお願いを聞いてくださいというのは流石に出来ない。
「……お願いというのは」
顔をこわばらせ、神妙な顔つきになった西園寺をじっと俺は見つめる。何回か深呼吸を繰り返した後、西園寺は意を決したように俺にお願いごとを打ち明け頭を下げる。はたしてそのお願いごとの内容は――
「私を、シュウさんの弟子にしてください!!!」
俺の弟子になりたい。というものだった。
「はあ?」
思わず疑問が漏れる。なんでわざわざ俺の弟子に?もしかして俺が教習で荒稼ぎしてたことを知っててそれなら私も―という事か?
俺が西園寺のお願いごとの内容を理解するのに黙っていたのを勘違いしたのか西園寺は続ける。
「シュウさんがドラゴンを倒す瞬間を見て思ったんです!私もあなたみたいになりたいって!!どんな理不尽にも負けないかっこいいヒーローみたいになりたいって!!才能なんてないのはわかってます。でも、それでもあなたみたいになりたいんです!!!どうか!私を弟子にしてください!!!」
「い、いや。あの」
「私に出来ることがあれば何でもします!私に差し上げられることがあれば何でも差し上げます!だから!どうか!!どうかお願いします!!」
俺があまりの熱弁にちょっと引いていると、西園寺は椅子から跳ね上がり床に座り込み土下座をしようとしている。流石に年下の女の子相手に土下座させるのは俺の精神衛生上悪すぎる!!俺は急いで、頭を床につけようとする西園寺の肩をつかみ土下座をやめさせる。
「わかった!!わーかったから!!土下座をしようとするのをやめろ!!」
「放してください!!私は弟子にしてもらうまで頭をあげません!!」
「うるせー!!とりあえず落ち着けー!!!」
まだ土下座をしようとする西園寺を無理矢理に立ち上がらせ、そのまま座っていた椅子にダイレクトシュートを決め着席させる。マジかコイツ、全然動かなかったぞ……。
「ハァ、ハァ…、落ち着いたか?」
「ご、ごめんなさい、つい興奮してしまってご迷惑を…」
「いや、まあ。それは別にいいけどよ。なんでいきなり弟子?」
とりあえず一番気になっていた部分を聞いてみる。
「シュウさんみたいに強くなりたいからです!!」
「そうか、いや俺じゃなくてもよくないかそれ」
普通に強くなりたいだけならどう考えても俺の弟子になる必要はないだろう。
「普通じゃダメなんです。もっと、もっと強く。あのドラゴンを倒せるくらいに強くならないといけないんです」
そういって俺の目を見つめる西園寺の目はどこまでも真剣な眼だった。
「改めて、報酬ならいくらでもお支払い致します。出来ることがあれば何でも任せてください。お願いします、私をシュウさんの弟子にしてください」
そう深く深く頭を下げる西園寺を見てしまった。
――ハア~~~~~~~………。
「わかった。弟子にしてやる」
仕方ない、金の事しか考えていないといわれる俺だって人間だ。面と向かって尊敬されたらうれしいし、真剣な奴の気持ちには答えたくなる気持ちだってある。
そう俺が伝えると西園寺はポロポロと涙を――って!
「なんで泣く!?」
ビビったァ!なんだコイツ!?情緒がジェットコースターすぎるだろ!!
「ご、ごめんなさ。う、うれ、しくて…。や、ったぁ……。シュウ、さんの、弟子、だあ…!」
ボロボロと涙を流し続ける西園寺をどう扱えばいいかわからず立ち尽くす。
こんなんでやっていけるんですかね。俺は……。
――――――――――――――――――――――――――――――
ここまで読んでくださりありがとうございます!!
ミカは対面だと基本的に誰に対しても敬語が出るタイプ。
フォローや♡、☆にコメント、レビューなどいただけると作者のモチベーションが爆増します!
次回もよろしくお願いします!!
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