第2話 守銭奴探索者、配信に乱入する。
私の操作ミスにより投稿完了していた3話までのエピソードが削除しまったため再投稿です。
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俺はあの後、ユリちゃんから配信開始までの流れとドローンの使い方を教わり、さっそく東京ダンジョンの下層にて2時間ほどダンジョン配信を行っていた。だが、手元のスマホに表示される情報にため息が出てくる。
【#ダンジョン配信】下層探索で小銭稼ぎ【Sランク探索者】
現在の視聴者数 1人
「……人が来ねぇ」
人が来ないのである。まったくと言っていいほど配信の同接人数が増えない。時たま思い出したかのように2、3人と増えるのだがそれも少しするとコメントもなしに配信から出て行ってしまう。
だが、配信活動を始めたばかりとはいえSランクの下層探索だぞ?ここまで過疎るものか?
そんなふうに何か違和感を感じていると前方にモンスター《ATM》を発見した。
「おっと、オーガかぁ…買い取り額いくらいだったかな…と。オッ!ラッキー!一体50万超えてんじゃーん。高騰してんなー」
前方から姿を現したのは頭に角を生やし、赤黒い肌をした3mほどのバケモノ【オーガ】だった。俺は思わぬ高額モンスターの登場に笑みを浮かべながらオーガに近づいていく。
「オーガの買取部位は頭の角に牙、それと鬼の肝か…ならそれだけ無事なら問題ないな。視聴者ー!オーガが来たんでぶっ殺しまーす」
見られているかはわからんが一応いるかもしれない視聴者に向けて声をかけておく。
「よっと」
―ブンッ
掌に魔力を集中させ振り切る。そうして飛んで行った魔力の刃は狙い通りオーガの首を切り飛ばした。
「ストラーイク!…にしてもキレーに飛んでったな」
まあインパクトはあっただろうと首から血を吹き出し続けるオーガを映しているカメラの反応を見てみる。どうだ?下層のバケモノを軽々討伐する光景はそこそこの取れ高って奴なんじゃないか?
「おっ!コメント来てる。なになに?」
『釣りかよキモ』
『CGでしょこれ』
『下層のモンスターがこんなに弱いわけないじゃん』
「あ?」
『てかSランクが配信なんかするわけねーだろ』
『もっと現実味のある嘘にしたら?』
何言ってんだ?こいつ、なんで俺の配信が釣り扱いされてんだ?
「あー、俺は正真正銘Sランクだぞ。ほれ」
そういって俺は自分の探索者カードをカメラの前に持っていき視聴者に見せる。本来、探索者カードは個人の特定が出来るからあんまり公共の電波に乗せるべきではないがSランクなんてすでにほとんど情報は公表されている。まあ20人しかいないわけだしな。
『探索者カードの偽造は犯罪だぞ』
『通報しました』
「なんでだよ」
どうやら聞く耳はないらしい。
そうしてせっかく入ってきた視聴者も抜けまたこの配信は無人となった。
「あーあ、めんどくせーな畜生、とりあえず配信とじまーす。釣りじゃないのでチャンネル登録よろしくお願いしまーす」
もはやどれだけ効果があるかも知らないが一応終了のあいさつだけ行い配信を閉じる。
俺はオーガの解体を行いながら先ほどの配信のことを思い出していた。
「マジか…、まさかこんなにも信じられないとは思ってなかったな…。確かに本名より金の亡者とか守銭奴とかの名前のほうで呼ばれることのほうが多いけどよ」
ただこうなると厄介だな…、実力を見せ続ければファンは増えるかと思ったがこのままだと暴れるたびに嘘つき扱いされちまう。そんなことが続けば終わりだろう。
「どうすっかなー…、お、きれいに内臓抜けた」
――帰ってユリちゃんに相談するか。
「うし、そうと決まれば早いとこコイツをバラシて地上に帰るか」
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〈side 西園寺ミカ〉
「おーっほっほっほっほ!!!やりましたわー!これでわたくしも中層突破ですわー!!」
私は今、中層最終階層の10層を踏破し、下層の入り口となる大階段前に立っていた。
『ミカ様おめでとう!』
『中層突破おめでとうございます!』
¥5000『中層突破記念』
¥3000『中層突破したダンジョン配信者って初めてじゃない?』
「皆様!ありがとうございますわ!!わたくしがここまでこれたのも皆様の応援あってこそですわ!!!」
お嬢様口調でリスナーのみんなにお礼を返す。みんなが応援してくれたおかげで私はここまで諦めることなくやってくることが出来た。
私、『西園寺ミカ』はもはや板についたお嬢様キャラでダンジョン配信を行っているダンジョン配信者だ。今回ついに念願であった中層突破を果たし、下層探索者の仲間入りを果たすことが出来た。
「これで名実ともにダンジョン配信者としてトップに立つことが出来ましたわー!!」
一か月ほど前に長年進められていたダンジョン内でも届く電波通信技術が解放され、ダンジョン内でも自由にインターネットに接続することが出来るようになった。そんな技術革新のおかげでこの世に『ダンジョン配信』というコンテンツが生まれた。
このダンジョン配信というコンテンツは瞬く間に大流行りし始め数多くの『ダンジョン配信者』を生み出した。
だが当然ドローン技術があるとはいえ配信に気を使いながらギリギリの戦闘なんて出来るはずもない。ただでさえ戦闘時には安全マージンを十分とって戦うのだ。わざわざマージンを削って配信をするためには中層が限度だった。
「今までは、でもわたくしは中層を突破し今下層へと続く大階段を下りているのですわ!!皆様、このわたくし、西園寺ミカの歴史的瞬間を見逃すことは許しませんわよー!!」
長い階段を下っていくとやがて視界が開けてくる。
「ここが…、下層ですのね……」
下層は見た目こそ中層と同じ洞窟のような景色が広がっているが空気が違う。中層では感じなかった、魔力がドロリと身体に絡みついてくるような感覚。気を抜けばきっとケガではすまないと感じるほどのプレッシャー。
「っつ!何か来ますわね!」
ドスドスと踏みしめるような音が聞こえてくる。
「アレはオーガですわね……、下層の中でもかなり強いモンスターですが一体だけのようですし望む所ですわ!」
『オーガだ!』
『イケるの?』
『オーガって下層の探索者キラーだぞやめといたほうが…』
コメントでは私の事を心配してくれているがまだこれくらいであれば『魔法』を使えば問題ない。
まだオーガとの距離は100m以上離れている。今のうちに私は魔力を練り『魔法』を放つための準備をする。
「いつでもかかってくるといいですわ…。――今ッ!『フロストジャベリン』!!」
射程圏内に入ったオーガに私が呪文を唱えると練り上げられた魔力は形を成し巨大な氷の槍を創り上げる。
『でた!』
『行け―!!』
『いつ見ても魔法ってよくわからんよな』
『きれい』
――ヒュン!
私の放った氷槍はオーガに向かって一直線に飛んでいきオーガに直撃した。聞いているようで微かに悲鳴のようなものが聴こえる。
「まだまだこれからですわよ!それそれそれ!!」
私は好機とばかりに氷槍を追加で作り出しオーガへと追撃する。するとさすがのオーガも参ったのかその場にうつぶせに倒れこみ動かなくなった。
「よし!倒しましたわね!!下層だけあってモンスターも強いでですがわたくしの敵ではございませんわー!!」
『すげー』
『やっぱミカ様って配信者関係なく強いよな』
『オーガ相手に無傷か…』
「さーて今日の配信はまだまだ続きますわよー!!次にわたくしに倒される哀れなモンスターはどちらかしら?おーっほっほっほっほ!!!」
その後も何回かモンスターと戦闘を行ったが、オーガが一番強かったのか魔法を遠くから放っているだけで何とかなってしまった。
流石に絵面が代り映えしないがかといって魔法抜きで戦うには下層のモンスターは強い。遠距離から攻撃できるからこそ安全に攻略できているだけで下層のモンスターが危険なことに変わりはないのだ。
「ふう、いい時間になってまいりましたし、あともう一度くらい戦闘をしたら地上に戻りたいと思いますわ。最後のモンスターは何かしら?」
魔法の連続使用によって流石に疲れが出てきたため、次の戦闘で区切ろうと最後のモンスターを探し始める。すると視界の端をぼてぼてとなにかが横切っていくのを見つけた。
「あれ…?今の姿はもしや…?」
その何かの後を追いかけてみるとそこにいたのは、1mほどの翼の生えたトカゲのようなモンスターだった。
「み、皆様!!あれ【リトルドラゴン】ですわ!!!初めて見ましたの!!」
『うわマジだ』
『まさかとは思ったけどマジか』
『リトルドラゴンって?』
『下層のレアモンスター、小型のドラゴンで倒しやすいわりに買い取り額200万くらいのおいしいモンスター』
【リトルドラゴン】は1mくらいのサイズのドラゴンである。ドラゴンといっても翼が小さすぎて飛ぶことは出来ないしドラゴンの代名詞でもあるブレスも吐くことは出来ない。だが曲がりなりにもリトルドラゴンは竜種である大型には敵わないもののドラゴンとして全身が換金対象のいわゆるおいしいモンスターだ。
「絶対に逃がしませんわよ!『ストーンブラスト』!『フロストジャベリン』!!」
私はリトルドラゴンの逃げ場を塞ぐように石礫放ち、動きの止まったリトルドラゴンに向けて氷槍を放つ。
「クギャアアアア!!!!」
氷槍が直撃し、リトルドラゴンが動きを止める。
「まだまだ!おかわりですわ!『フロストジャベリン』!『ストーンブラスト』!」
ズドドドドド!!!!!
砂煙を上げながらリトルドラゴンに魔法を連発すると遂にリトルドラゴンは力尽き床に倒れこむ。
「やった…?やりましたわ!リトルドラゴン討伐完了ですの!これで今日はおいしいご飯がいっぱい食べられますわー!!」
『うおおお!!』
¥5000『おめでとう!!』
¥10000『これでおいしいものでも食べて』
¥1000『取れ高最高じゃん』
「わ!わ!皆様ありがとうございますわ!!配信の最後にこんなサプライズがあってわたくしもうれしいですわ!でも皆様?まだここは下層。地上に戻るまでは安心できませんわ。屋敷に帰るまでがダンジョン攻略。ですのよ?」
リトルドラゴンを倒し、私もコメント欄同様に喜んではしゃぎまわりたい気持ちもあるがここは下層、リトルドラゴンの為に魔法を連発したこともあって私は今限界に近い。ここで油断しモンスターに襲われでもしたらリトルドラゴンの換金どころか命に係わる。
「ですから皆様も最後までわたくしを応援して見守っていてくださいませ!それじゃあ撤収の準備を――」
帰り支度を始めたその瞬間、大気が、爆ぜた。
「グウォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」
「――へ?」
空気を震わせ、鳴き声だけで意識を刈り取るのではないかとも思える咆哮。それは私の前から響いてきたもので――。
その咆哮の主を私は見た。――みて、しまった。
「ド、ドラ…ゴン……?」
そこにいたのは先ほどのリトルドラゴンなどとは比べる事すら出来ない。本物の『竜』だった――。
「グギャアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「う、うそ…。そん、な…、なん、で?」
『うそ!』
『なんでドラゴンがいるんだよ!!』
『ミカ様逃げて!!』
『イレギュラーだ!!下層に魔力異常が起きてるってダンジョン庁が!!』
『なんでこんなところに!深層のモンスターだろ!!』
それは私を認識していた。そして私はその竜から向けられる視線の意味にも気づいてしまった。
「殺される…。」
あのバケモノは私を殺すつもりだ。ドラゴンからは私に対して尋常ではない殺気を放っていた。『お前は殺す』そう言われた気がした。
「あ、あは…に、逃げなきゃ…」
私の頭はもうその機能を果たしていなかった。
脳裏に浮かぶのは逃げなければいけないという命令にも似た思いだけ。
逃げなきゃ、逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ…、逃げなきゃ!!!!!
「し、死にたくない…!死にたくない死にたくない、逃げなきゃ逃げなきゃ…、な、なんで!!」
しかし、その思いは無視されることとなる。
「なんで動かないの!!」
私の身体は目の前のバケモノに呑まれ動かすことが出来ないでいた。
「嫌だ!動いてよ!!逃げなきゃいけないのに!!!なんで動かないの!」
必死に目の前の死を否定しようと身体を動かす。立ち上がることが出来ないなら這ってでも逃げろと脳は命令を下す。だが私の身体はその命令が聴こえていないかのように動くことはない。そんな矛盾した身体に頭が揺れる。気持ち悪い。涙が零れ始める。
「やだよ…まだやりたいこともしたいこともいっぱい…あったのに…。みんなとももっとおしゃべり、したかったのに…。もっともっと…いっぱい、生きたかったのに……」
『にげて…ミカ様…』
『ごめん、もう無理だ』
『神様…助けて』
そんな私を嘲笑うかのようにその死の象徴《ドラゴン》は口元に魔力を集中させ始めた。ブレスだ。すべてを消し去るその光の奔流は私を消し去――
「ギャッハハハハハハハ!!!!!!!いっちおっくえーーーーーーん!!!!!!」
――ることはなかった。
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