第3話 守銭奴探索者、ヤバい奴に目をつけられる。
操作ミスにより削除してしまった三話の再投稿です。
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私を消し去る光の奔流が放たれる寸前、汚い笑い声と共に黒い流星が墜ちてきた。
「ギャハハハハハハハ!!!!!!!いっちおっくえーーーーーーん!!!!!!」
「…え?」
――チュドオオオオオオオオオオン!!!!!!!
爆音と爆風、その黒い流星がドラゴンに着弾しドラゴンを吹き飛ばす。――いや違う。流星なんかではない。信じられることではないがそれは”人”だった。
目つきの悪い黒髪の男がドラゴンにむかってドロップキックをかましていた。
「ギャッハッハァ!!超!臨時!!ボーナス!!!死ねえええ!!!」
私は自分の目を疑った。なんで?なに?あのバケモノに向かって目の前のこの男は何をした?
私の脳はもう限界を迎えていた。恐怖と絶望と意味不明を原液で流しこまれミキサーに掛けられドロドロの私の脳はそれでも目の前の男に言葉を絞り出すことが出来た。
「あ、あの…」
「ん?人がいたのか…、なんでこんなところに人がいるんだ?ダンジョン庁のアナウンス聞いてないのか?下層のここ一帯は魔力異常によるイレギュラーが起きてるからって避難指示出ただろ。」
「に、逃げてください…」
「あ?」
「逃げてください!!!」
「うお!?ど、どうした?」
叫んだ、喉が枯れるんじゃないかと思うほどの声で目の前の男に向かって逃げるようにお願いする。
「逃げてください!!アレは人間に敵う相手じゃない!!わかるでしょう!!?」
顔を歪めながら、後先なんて考える余裕もないまま男に懇願する。
「アレは私を殺しに来たんです!まだ、あのバケモノは生きてる!!」
きっとこの男は”強い”。きっと私とは比べ物にならないほどに強いはずだ。でも感じる、感じてしまう。まだあのバケモノは死んでいないと、まだ私を殺すために生きていると。
「私が代わりに死にますから!!あなただけでも逃げてください!!じゃないと私のせいであなたまで死んじゃう!!!」
私はここで死ぬ、そう決めた。
自分に降りかかった不運にこの人を巻き込まないために。
だから私は必死に、必死に懇願する。
「お願い…ですから…。逃げて、ください…」
おねがい…だから――
「いや、逃げるとかねーだろ。あんな美味しいモンスター相手に」
「――え」
瞬間、空気が熱を帯びる。今度こそあの死の息吹が放たれて私と男の間の前に迫る。
死が目の前に迫る。
唐突に男が拳を振るう。
――ブォン。
「熱いわ!クソトカゲェ!!!」
絶望が、死が、霧散する。
――――――――パァアアアアアアン!!!!!
目の前に迫っていたあのバケモノのブレスが搔き消される。男が振るった拳の風圧によって。
「コッチのターンだ。クソトカゲ」
男の姿がブレ、消える。直後に直線を描き巻き上げられた砂埃によって私は男が消えた理由を悟る。
「消え…、違う…!?まさか、移動した…の?」
男が向かった先からは工場のような重い破砕音に混じりあのバケモノの悲鳴が聴こえてくる。
訳が分からない。非常識だ。非現実的だ。目の前で起こった事象の数々えお理解することを脳が拒んでいる。
「なに、あの人…」
もう私の脳はもうとっくにおかしくなっていたんだと思う。
ドロドロになった私の脳みそはこの地獄の窯で茹上がり、この非現実に酔っていた。
依然として相変わらず身体は動かず、脳は逃げろと無意味な命令を下している。
頭の片隅から私を侵すこの感情はなんだ?私は何を考えている?
言うな。口をうごかすな。黙れ。その感情を認めるな。
私の身体が総動員して私を侵す感情を止めようとする。
――ああ、もう遅い。私は魅せられてしまった。
あの理不尽なもう一人のバケモノに――。
「みて、みたい…」
ああ、認めてしまった。気づいてしまった。口に出してしまったならもう止められない。私はこの心の奥から湧き上がり私を犯すこの感情をもう無視することが出来ない。
「観てみたい。あのドラゴンがあの男に壊されるところを。あの男があのドラゴンを殺すところを」
「観てみたい」
微かに残った理性が私を止める。
ふざけるな、馬鹿げている。せっかく助かるかも知れない命だぞ?もう一度あのバケモノに遭いに行くだと?命がいらないのか?
「うるさい」
やめろ、お前はいま冷静じゃない。死の恐怖でおかしくなっているだけだ。
「しらない」
お前はただの人だ。あれらと同じバケモノじゃない。
「それでもいく」
…そうか、なら好きに死ね。
「あ…、あはは…、あはははは!あははははははは!!!!!!!!!」
笑い声が漏れる。気持ちいい。こんな時なのに笑うことがやめられない。彼のことを思うとワクワクする。彼の姿を思い浮かべるとドキドキする。
この気持ちはなんだろう?
恋? ううん、違う。
憧れ? これも違う。
これはそんなキラキラした綺麗な感情じゃない。もっとぐちゃぐちゃでドロドロで汚いものを練りこんで煮詰めて出来たこの感情はきっと破滅願望や破壊願望だ。
強くて綺麗なものが、もっと強くて綺麗なものに壊されるその瞬間が観たい。そして私も強くて綺麗なものを壊したいという私の願い。
「あはは!身体が軽い!!さっきまであんなに動かなかった足がこんなにも軽い!!」
今ならどんな所にだって行けそうだ。
「あははははははは!!!あはははははは!!!!!!!!」
音が近づくたびに心が跳ねる。悲鳴が近づくたびに足が速くなる。
デートに向かう時ってこんな気分なのかな。
そんなことを思いながら私は駆けていった。
走る、走る、走る。
あなたたちに逢うために。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
息を切らしながらたどり着いたその光景に私は思わず息を呑んだ。
息も絶え絶えにそれでも折れぬとばかりに必死に爪を、牙を振るうドラゴン。そしてそんなドラゴンの攻撃を避け、受け流し、時には弾き、カウンターとばかりに拳を叩き込む彼。
「ギャハハハハハハハ!!!どうしたどうしたァ!!動きノロくなってんぞ!!クソトカゲ!」
「――ガアッ!!!」
ドラゴンが爪を振るう。
「効かねーよ!雑魚!!」
彼が避け、そのままドラゴンに拳を振りぬく。
「ギャハハ、100万円パーーンチ!!!」
ドパァアアアアアアン!!!!!
ふざけた技名と共に振るわれたその拳はドラゴンの巨体を仰け反らせその音は私の耳朶を叩く。
「ガ…アッ…」
ドラゴンも限界が近いのだろう遂にはその巨体を支える足が崩れ沈んでいく。その好機を彼が逃すはずもなく足を止めてドラゴンに蹴りも交えたラッシュを浴びせ始める。
「さっさと沈んで俺の通帳残高の糧となりやがれ」
ズドドドドズガガガガドドドド!!!!!!
あたり一帯に削岩機のような轟音が鳴り響き始めドラゴンの悲鳴が木霊する。
「―――――――!!!!!!」
「ギャハハハハハハハハハ!!!!!!」
神に例えられるであろうドラゴンがなすすべもなく嬲られ、声にならない悲鳴をあげ、男は楽しそうに笑い声をあげる。ここはまさしく地獄という表現がピッタリだろう
そんな地獄を私は特等席で観戦している。
「あはははははははははは!!!!!!!!すごい!すごい!!すごい!!!」
笑う男と女と怪物の悲鳴が奏でる頭の狂ったシンフォニー。
「わたしもあんな風になりたいなぁ…」
私はこの光景を一生涯忘れることは出来ないだろう。生き方が決まる瞬間。自分の命が生まれてきた意味を知る瞬間。私は今日ここに来ることが出来て本当に幸せだ。
そんな幸せな時間もやがて終わる。
「…………」
ドラゴンが倒れ伏す。まだ息こそあるもののもう動く力も残ってはいないのだろう。
「ようやくおねんねか?じゃあトドメ、行くぞ」
彼はそう言い魔力を足に集中させる。
「お前のことは忘れない。通帳を見るたびに思い出すだろうさ、だから安心して死ね」
空中に光の線が走る。振り切ったであろう右足が地面につくと同時にドラゴンから「ぐちゃり」という鈍い音が聞こえる。
もうそのバケモノが動くことはなかった。
「ふー、ドラゴン討伐完了!!うまく手加減出来たおかげで外傷も最小限!内臓にも傷はなし!!ドラゴンは血も売れるからなー、換金報酬を考えると今から楽しみだぜ。…って、ん?」
眼が、あった。
「っ――!!」
息が止まる、彼の顔がみれない、私の顔が急激に赤くなっていくのを感じてつい目を逸らし顔をそむけてしまう。
「おい、なんでまだアンタこんなとこにいんだ。さっさと非難しろって言っただろ」
「あ、え、っと…、その……」
は、話しかけられちゃった!!!!!ど、どうしよ!!!!無理無理無理無理無理!!!!!!今の私にお話なんて出来ないよ!!!!
「おい、聞いてるかー?おいってば」
「は、はぃ……」
お、落ち着いて、まずは彼にお、おおおお礼を伝えなきゃ!!助けてくれてありがとうございますって!!よ、よーし!いくぞー…!
「た、助けてくれ、てあ、あああありがとうご、ございます……」
「あん?」
死にたい…。死ぬほど噛んだ挙句、蚊の鳴くような声量しか出てない。彼もなんて言ったか聞き取れなくてポカンとしてるじゃん!!お礼すらまともに言えないとか自分が情けない…。あ、ヤバ、涙出てきた。
「うぅ…………」
「んー…しゃあない。とりあえず地上まで送ってくから舌噛むなよ」
私が自己嫌悪で死にたくなっていると、急に視点が変わって彼の顔が、私の…目の前…に?
ひゃあ!か、顔近ッ!!そ、それにこ、この態勢ってまさか――
「ピッ…!」
「ん?なんか言ったか?あんたは暴れさえしなけりゃいいからちょっと我慢してくれ」
今私もしかしなくとも…お姫様抱っこ、されてる?
「――――!!?」
私の脳はついにキャパオーバーを起こして気を失ってしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―ぃ――ぉぃ――ぉきろ―おーーい!
何か聴こえる…?なに…?
「ん、ぅうん…」
ゆっくりと私は目を覚ます。あれ…?私寝てた?なんで私寝ちゃったんだっけ…?
「お、やっと目を覚ましたか。もう地上についたぞ」
「はい…ありがとう…ございます…」
意識がはっきりとしないし頭もはっきり動かない。誰かが話しかけてくれてるみたいだけど…、この人、誰だっけ…?
「まだ寝ぼけてんのか?ほらしっかりしろ」
ぺちぺちと誰かが私の頬を叩く。するとようやく意識がはっきりとし始めて目の前の人物を認識すると――
「ひゃあ!?」
バッチリ目が覚めた、しかも寝起きだというのにこれ以上ないくらいに意識が覚醒し思考を回し始める。冷汗が止まらない。やばいやばいやばい!そうだ!思い出した!私は助けてくれた彼にお姫様抱っこされてその衝撃で意識を――って、まてまて今はそんな場合じゃない!!お、お礼!!!
「あ、あの――」
「よし!目も覚めたみたいだし大丈夫そうだな!!アンタのことはダンジョンの受付に事情も話してあるからもう今日は家に帰って寝とけ。じゃあな、今度は死ぬなよ!」
そういって彼は瞬く間にダンジョンへと帰っていった。
「――お礼を…って、もう行っちゃった…」
結局お礼も言えていないし、なんなら私は彼の名前すら聞いていない。
「またあえるかな…、その時こそお礼を言わなくちゃ!」
そう再会を願い気合を入れていると視界の端に見慣れた何かが見えた。
「あ、ドローン………って、え!!??あぁ!!!!私今配信中じゃん!!!」
ドラゴンの登場によって完全に頭から抜けていた!そもそも私は今日配信をしていて帰るところでドラゴンに襲われたんだった!!
ドローンに飛びつき恐る恐るコメント欄を開く。すると――
『目覚ました!!』
『よかった!!』
『ミカ様起きた!!』
『完全に忘れてましたねこれは』
『ドラゴンが現れたあたりからそれどころじゃなかったからな』
『それにしてもドラゴンをボコボコにしてたやつは何者なんだ』
「み、みんな…、ありがとう。うん、自分でも信じられないけど私は無事だよ。ケガ一つない」
リスナーのみんなにはものすごい心配を掛けてしまった。それでも私の生還を祝ってくれているコメントをみてようやく生きて帰ってきたんだと実感がわいてきた。
「ごめん、みんなにはすごい心配かけちゃったよね。私もまだ今回のことに整理がついているわけじゃないからみんなへの謝罪とか説明とかは後日しっかりさせてもらうね、これで配信は閉じます。今日は改めて見守ってくれてありがとう。じゃあね、バイバイ」
私はそう言ってドローンの配信終了ボタンを押す。
その瞬間投稿されたコメントが目に入った。
『ミカを助けたあの男ってこの配信の男じゃないか?【URL】』
「え?」
彼が誰かわかった?
もし本当にそうなら私はそれが正しい情報か確かめたい。すぐさま私はそのURLをチェックする。するとそれは私が配信しているサイトのとあるチャンネルだった。
【守銭奴探索者のダンジョンATMちゃんねる】
そのチャンネルは作ったばかりなのだろう、登録者もまだ一人だけで配信のアーカイブも一つだけだ。私はそのアーカイブを再生する。
――彼だ。
間違いない、そこに映っていたのは私を救ってくれたあの綺麗な
「そっか…Sランクの人だったんだ。通りで強いわけだ」
私はそのまま彼のアーカイブを流していると彼の配信のことをCGではないかと疑い、証明を求めるコメントがあった。そのコメントに対し彼は証明として探索者カードをカメラの前に写した。そこにはSランクを現す金文字と彼の『名前』が表示されていた。
「鐘森、シュウ」
鐘森シュウ、それが彼の名前。
「シュウ、さん」
彼の名前を呼ぶと心がポカポカする。幸せだ。
私は彼のチャンネルを登録した。
「また会いましょうね、シュウさん!」
再会が楽しみだなぁ!あははははは!!
こうして世界に一人、最凶最悪強火厄介前方彼女面オタクが産まれた。
シュウの知らないところで。
【守銭奴探索者もダンジョンATMちゃんねる】
登録者 2人 New! 収益¥0
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ここまで読んでくださりありがとうございます!
こちらでプロローグとなる序章は終わりとなります!
次回は掲示板を挟んでシュウの視点に戻ります!
これから物語も加速していくので是非フォローや♡、☆にコメントなどなどよろしくお願いします!!
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