第43話 アンドレを探せ
ミュリエルはフィンと一緒に、イザークを近くにいた警察官へ引き渡して、マドゥレーヌを探した。
マドゥレーヌは臨時のオフィスで、突入作戦について、報告書を書いていた。
「ご苦労様。遺体の確認は終わったかしら?」
「いいえ、まだなのですが、犯人グループの仲間だと思われる人物を、先程警察官に引き渡してきました」ミュリエルが言った。
「何ですって?」マドゥレーヌは怪訝な顔で訊いた。
「彼によるとガルディアンは、まだ生きています」
「何ですって⁉」マドゥレーヌの美しい顔が、盛大に歪んだ。
ミュリエルは、地下の遺体安置所での出来事を、マドゥレーヌにかいつまんで話した。
「アンドレ王子殿下を探しています。ガルディアンの真の目的は、アンドレ王子殿下だと思われます。危険だと知らせなければなりません」ミュリエルが言った。
「これは復讐なのね、29年前の——アンドレ王子は、警察署に来ていないから、ヴィラにいるんじゃないかしら」
「ヴィラにいるのなら、安心ですね。あそこにはまだ、艦艇が停泊していますから。モーリスさんは引き続き遺体の身元確認を行いますが、私とフィンさんは、一度ヴィラに戻ります。アンドレ王子殿下とカミナード艦長に、ガルディアンは他にいると、報告してきます」
「ええ、お願いね。イザーク・ブルトンに、ガルディアンの似顔絵制作を手伝ってもらうわ。顔が分かれば見つけやすくなるでしょう。イザーク・ブルトンみたいに、案外近くにいたりしてね」
ミュリエルたちは、マドゥレーヌと別れてヴィラへと向かった。
ミュリエルとフィンが、馬車に乗ってヴィラへ向かっていると、後ろから馬に跨ったモーリスが追ってきた。
「ミュリエル、イザークが逃げた。牢屋にいたはずのイザークが、忽然と姿を消したらしい」
「ヴィラへ急ぎましょう。アンドレ王子殿下のところに鼠を向かわせます。危険だと気がついてくれると良いのですが」
「馬を交換しよう。お前たちは先に行け、俺は馬車で後を追う」モーリスが馬から降りて言った。
「はい、そうします」ミュリエルとフィンは、モーリスが乗ってきた馬に跨った。
アンドレは昨晩遅く、犯人死亡の報告をサンジェルマンにするため、ホテルへ行っていたが、サンジェルマンとは旧知の仲である国王陛下へ、内密にサンジェルマンの容態を伝えたくて、ヴィラへ戻ってきていた。しかし、今朝になってサンジェルマンが危篤だという知らせを受けて、ホテルへ急いだが、間に合わなかった。アンドレが到着した時には、すでに息を引き取った後だった。犯人死亡の知らせに、思い残すことなく逝ったのかもしれないとアンドレは思った。
それからしばらく、アンドレはサンジェルマンの側を離れられずにいた。
サンジェルマンが行方不明だと知った時、情勢など考えずに、すぐに大規模な捜索をしていれば、助けられたかもしれないという自責の念が、アンドレの頭をもたげた。
アンドレは、サンジェルマンの遺体を、家族のところへ送る手配をするために、またヴィラへ戻ってきた。
馬車から降りて、アンドレはエクトルに言った。「エクトル、サンジェルマンの遺体を運ぶために、輸送機を一機、借りられないか、カミナード艦長に聞いてきてくれるか」
「承知しました」
エクトルがアンドレから離れて、航空母艦へ向かおうとしたとき、アンドレの足に鼠がまとわりついた。
「何だ?鼠か?」
エクトルがアンドレに声をかけようとしたその時、銃声がヴィラ・レ・ドニに響いた。
ミュリエルはヴィラに到着すると、馬から飛び降りてエントランスに走った。エントランスには血だまりができていた。
「ああ、そんな……家族を探さなければ、ジゼルさんを守らなければ」走って行こうとするミュリエルの腕をフィンがつかんだ。
「ミュリエル落ち着いて」フィンは取り乱すミュリエルの肩をつかんで視線を合わせた。「犯人の狙いはアンドレだ。アンドレは今どこにいる?動物の目を借りて見るんだ」
ミュリエルは鼠の目を使って見た。ミュリエルがアンドレに警告するよう指示を出していた鼠は、アンドレのそばから離れていなかった。
「ああ、そんな……ガルディアンの正体は、オラス・グロージャン支配人です」その姿はミュリエルが知っているグロージャンとは違って見えた。落ちくぼんだ目がぎらぎらと光って、復讐に身を焦がしている悪鬼そのものだった。ミュリエルの強く握りしめられた拳を、フィンがそっと包み込んだ。「アンドレ王子殿下は、ヴィラの中にいます。おそらく、ご自身の部屋だと思われます。無傷のように見えますが、人質に取られているようです。警察官の制服を着た男が1人、アンドレ王子殿下に銃口を突きつけています。それから、イザーク卿と、シルヴィー嬢もいます。シルヴィー嬢の体には、爆弾が巻き付けられているようです」
「その警官は、現在逃亡している内通者だろうな。アンドレが怪我を負っていないとすると——エクトルはどこにいる?」
「怪我をしているのはエクトル卿です。肩から血が流れています。ドアの前で様子を窺っているようです。海軍の兵士たちもいます」
「人質をとって立てこもるのなら、腕が立つエクトル卿は邪魔だ。だから、撃ったんだろうな——家族はどこにいる?」
ミュリエルは鳥に上空を旋回させ、ヴィラ全体を見渡した。「家族とヴィラの従業員は、兵士に誘導され、エテルネルに避難しています」
「良かった」フィンは大きく息を吐き出して安堵した。「不安要素はひとつでも少ない方がいい——それじゃあ、ミュリエル。グロージャンたちの隙をつけないかどうか考えよう。まずは、エクトルと合流するぞ」
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