第25話 The×Yellow×Vampire
涙が落ち着いてから、アタシはその日の経緯を順番に話した。アイゼンバーグに会ってから、彼に死を告げられたところまでざっくりとである。その後のことは何か聞いたような気がしなくもないが、アタシの脳の中には何も残っていなかった。
「ホノカが血を飲んだ五人の中にホノカのご主人サマがいるはずなんだけど」
レオはううんと唸った。サンダーさんが二度ほど頷く。
「そうです。そうです。しかし青の王と金髪金目の吸血鬼は除外しても良いと思いますよ。青の王は言わずもがな。金髪金目の吸血鬼はハイネグリフでしょう」
「あ、そんな名前でした! どうして知って……」
いるのか、と聞こうとしたところで気がついた。金目。そうだ、あのお兄さんはこの吸血鬼たちと同じ金色の目をしていた。そう、さっき目の話で引っかかったのはこれだったんだ!
「もしかしてその吸血鬼はみなさんの仲間なんですか?」
「いかにも。ハイネグリフは私の眷族であり、友だ」
「えぇ、えぇ、そうですとも! ハイネグリフは私の弟ですよ!!」
「オレの先輩。サンダーよりは話せるけどオレとは合わない」
サンダーさんの弟、なのね。この話は拾うと長くなりそうなのでひとまず置いておこう。
あの、ハイネグリフと呼ばれていた銃のお兄さんはこの吸血鬼たちの仲間なんだ。なんだかそれを知って複雑な気分になった。この人たちにはすでに感謝しているが、あの日ハイネグリフという吸血鬼はアタシを殺そうとしたのである。そして仕方なかったとはいえ、アタシに血を飲ませた。
だんだん怒りが込み上げてくる。もう、あのとき居合わせたヤツ全員を殴ってやりたい!
「ハイネグリフはどこにいるんですか?」
怒った口調になってしまったが察してほしい。アタシは殺されかけたのだからこれくらいは許してほしい。それはさっき話したからこの人たちも分かっているはずだ。
フェリックスさんはちらとサンダーさんを見てから口を開いた。
「……彼は今眠っている。目が覚めなくてね。生と死の瀬戸際だよ。まだ命があることが信じられないくらいだ」
「えっ」
まさか、どうしてそんな状況に? 最後に見たハイネグリフはそんな状態ではなかったのに。
困惑してレオを見る。レオはアタシが聞かずとも察してくれて口を開いてくれた。
「ハイネには毎日連絡するよう言ってあったんだけど、三日前に連絡が途絶えたんだ。それで何かあったんだろうってことで探し回った。そしたら昨日、ホノカのいた廃墟の外でボロボロになったハイネを見つけたんだ。本当にひどかったよ。手足も身体もギリギリ繋がっている状態でね。オレ、死んでいるのかと思っちゃった。吸血鬼ってこんなんなっても生きてられるんだって驚いたよ」
想像して怖くなった。背筋が凍る。手足や身体がギリギリ繋がっている状態だったなんて。あまりに残酷すぎて感想も出てこない。
「誰がそんな目にあわせたの?」
なんとなく誰か分かってしまう自分が怖かった。
「おそらく。おそらく青の王でしょうね」
サンダーさんが低い声で言った。やはり、とアタシは喉を鳴らした。
「彼にとってはただの防衛だったのだろう。一方的に追いかけているのはこちらだ。こちらに非がある。サンダージャック。君には申し訳ないが、ハイネグリフがあのような姿になってしまったのも仕方のないことだ」
サンダーさんは「いえいえ、私のことは気にしないでください」と小さく首を振った。
フェリックスさんはだいぶ冷静なようだ。確かに客観的に見れば一方的に追いかけている方が悪いのだが、仲間を傷つけられた当事者がなかなかそうは言えない。誰だって仲間を傷つけられれば何であれ傷つけた相手を責めたくなるはずなのである。それが生死にかかわるならなおさらだ。
「仕方ないよね。時間は戻せない。オレたちはハイネに何もしてあげられない。ただ、目が覚めるのを待つしかないんだよ」
アタシは唇を噛んだ。いくら憎いと思っていても、殴ってやろうと思えども、そんなになるまでしてやろうとは思えない。それをやってのけてしまうのだから、アイゼンバーグはやはり冷酷な吸血鬼だ。
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