リアルチートプレーヤー 〜リストラされたがムチムチエロ女神にチート能力『ワッショイ生成』をもらったので、絶対暴落しない独自通貨ワッショイを駆使し金融無双で成り上がってざまぁしたい〜

ハタラカン


現実ってやつぁどうしてこう不公平なんだ?

ファイヤーだかサンダーだかフリーザーだか知らんけど、なんで仕事やめて遊び暮らして安泰な奴らがいるんだ?

リストラされた俺の貯金はもってあと3年だってのに。

ズルだ。

チートだ。

なんで俺ばっかりモブキャラで我慢しなきゃならねえんだ。

あ、これは心が叫びたがってるわ…と悟り、モブらしい気遣いで枕に埋まった。

「あーあ俺もラノベみたいなチート欲しー!」

「いいわよ〜」

……………………あ?

返事?

確かに安アパートの薄壁は低反発枕越しの叫びをも貫通させてしまうだろう。

隣近所に聞かれてもおかしくはない。

だがほんわかおっとり間延びした女の声は、俺の布団のすぐそばから発せられていた。

独身貴族の、俺以外誰も居ないはずの部屋から…。

「えっ!?」

うつぶせから飛び起きて見ると、手の届く距離にゆるふわ〜なムチムチエロ女が正座していた。

どのくらいムチムチかと言うと、プレイ中のスマホゲーの存在を忘れてしまうくらいだ。

その胸は男の願望がふんだんに盛り込まれたSSRを一周り小さく見せるほど膨大で、かつAV女優にありがちな

『太ってるからついでにデカい』方式ではない。

異様に発達してるのは乳と尻だけであとは中肉中背。

まさに現実離れした肉体だった。

「どんなチートがお望み〜?」

童顔を乗せた小首をかわいく傾げながら、人類種には似つかわしくない問いかけ。

彼女の声と髪はどちらも黄金の輝きを纏って甘ったる〜く伸びており、尖りや硬度をまるっきり感じさせない。

困窮する弱者男性のもとへ突如として、物理を超えた御業で、都合よく現れた超絶あまあま美人。

これは…これはもしかしなくても…!

「女神!?」

「は〜い女神ちゃんで〜す」

凶悪な隆起の横で小さく手を振る女神。

「うおおやったあああああ!!

チート!!

チートくれる人ですよね!?」

「人じゃあないけどぉ、チートあげるわよ〜」

失礼な念押しにも垂れ目が歪む事はなかった。

また、この表情確認自体おっぱいの質量が生む超重力に視線を引かれつつ行っているが、それでも彼女はぽわ〜んとした微笑みを崩さなかった。

この母性…まさに女神!

だが待てよ?

まだ不自然な点がある。

「あの…俺まだ死んでませんけど」

「そうねぇ〜」

「死んでないのに…転生でも転移でもないのにチートくれるの?」

「そんな日もあるわよ〜」

とてもざっくりとした答えだった。

だが冷静に考えてみると、チートをもらうに値する真っ当な根拠なんかどんなラノベでも見た覚えが無いし、俺自身思いつかなかった。

こういうのは元々ざっくりしたものなのかもしれない。

しかし念の為だ、少々詰めておくか。

「リスクは?」

「ん〜リスクがある能力がいいって言うならそうするけどぉ〜、他は特に無いわよ〜」

「後で取り立てない?」

「ないない。

希望通りの能力を、無利子無担保で授けちゃいます♪」

「何か決まりがあったら先に説明してほしい」

「え〜とねえ、能力は1個だけ。

選べるのは1回だけ。

そんなもんかな〜」

ふーむ…まあいいか。

なんであれ、チート有りの人生と無しの人生ならそりゃ有りを選ぶだろ!

「で、どうするぅ?」

「あーちょっと考えさせてくれ」

もらうならどんなチートにするか。

常日頃の妄想により、既に3択までは絞り込めている。


①鉄板の時間停止能力!

②何事も正面突破で解決できる超身体能力!

③一見地味で雑魚だけど汎用性に富んだ便利能力!


さてどれがいいか。

①はまあロマンだけど…危険回避に使おうにも暴走車だったら轢かれる前に気づかなきゃならないし通り魔だったら背後から刺されたら意味無い。

平穏な日常生活だと時を止める理由が無いのでもっと役立たない。

定番のようで実のところ帯にもたすきにもならない能力かもしれん。

開き直ってエロマンガの竿役みたいな犯罪生活するなら最高だろうが…。

②は輪をかけて使い所に困る…チート級に強い体なんかそれこそ日常には無用の長物だし、危険回避に使っても良くて暴行犯悪くて殺人犯だ。

正体隠してヒーロー…は柄じゃないし、そもそも運動は嫌いだ。

できてもやりたくねえ。

となると③なわけだが、便利能力が活きる理由はいわゆるナーロッパレベルの世界だからであって…。

治安が良くて天敵が居なくて非戦時でポチればだいたい何でも届く便利社会では霞んでしまう。

うーむ…3つに絞ってはいたが、どれも現実での運用は想定外だった。

チートをもってしても攻略に悩むとは、現実って本当にクソだなあ。

「まぁだぁ〜?」

全く急かす意欲を感じられぬの〜んびりした催促。

これも確認しとくか。

「どのくらい待ってくれる?」

「200年くらいならいいよぉ〜」

の〜んびりした返事。

この調子なら俺が化石化した後でも願いを聞いてくれそうだった。

安心して思考を再開する。

「……………よし、決めた!」

逆転の発想だ。

現実が既存のチートを活かせないなら、現実を活かせるチートにすればいい。

「絶対に暴落しない、世界中どこででも使える独自通貨『ワッショイ』を無限に作れる能力をくれ!」

「は〜い」

の〜んびり了承して、…会話が止まった。

女神は何の身振り手振りもせず、それっぽく光りすらしてない。

「…そんだけ?」

「そんだけよぉ〜」

「能力は?」

「もうできるよぉ〜」

そんなバカな…と思いながらも念じると、やはりそれっぽく光りもせず、手の平に1万ワッショイ札が生成された。

「うおおすげー!!」

思わずワッショイ札の俺の肖像画と同じポーズで喜ぶ。

夢にまで見た特殊能力者になれたのだ。

そのくらい浮かれてもバチは当たるまい。

「これ本当に使えるんだよな!?」

「使えるわよぉ〜」

女神は受け合ったが、実際に使ってみるまでは安心できん。

じゃあなんで訊いたんだって話になるけど、そこはまあテンションの都合だ!

さっそく試しに行こう!

俺はパジャマを脱ぎ捨て、床から拾ったシャツとGパンに着替えた。


安アパートの階段を主役級の勢いで駆け降りる。

もう遠慮は要らない。

ワッショイが機能するならご近所トラブルもなんのそのだ。

気に食わなければいつどこにでも現金一括で引っ越せばいい。

そう、資本主義社会においては現金こそチートそのものなのだ。

現金最強物語の別名が資本主義なのだ。

現金さえあれば無双して成り上がりでざまぁできる!

「ふふふ…ははははは!!」

まさかコンビニへの買い物程度で笑いをこらえきれなくなる日が来るとは!

最高だ!!

階段を降りきり、反対車線側のコンビニへ信号無視でダッシュしようとした時、背後からスタタタタタとミシンのような連続音がして体が熱くなった。

「…………………………あ?」

なんだろう?

口から何かが溢れ出てくる。

喜びかな?

震える指で確かめてみると、喜びは赤黒い液体だった。

喜びは口だけでなく体全体から噴出し、白シャツをオシャレに染め上げていく。

背後を振り返ると、アパート1階住まいのヤンキーが機関銃2丁持ちで叫んでいた。

「ヒャハアアアア!!

マジだヤベえええええええ!!

マジで無限に撃てる銃だああああ!!

アヒャ!!

アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

次の瞬間、2丁合わせて毎秒100個ほどのペースで俺の体の穴は増えていき、最初の5個くらいで意識が飛んだ。


「…はああっ!!…あ…?」

舞い戻る意識。

そこはアパートの自室であり、布団の中だった。

全身汗だく。

心臓は夏祭りを催している。

…夢…?

嫌な夢だ…と思いながら上体を起こすと、俺は部屋着のパジャマでなく外出用の白シャツを着ていた。

白シャツは前衛芸術家の作風から3枚1000円の柄に戻っていたが、念じると1億ワッショイ札が手の平に生成された。


状況を整理しよう。

どうやら女神出現からの一連は夢ではない。

俺がほったらかして出ていったせいか、女神の姿は消えている。

当アパートの1階にはイカれた銃撃犯が潜んでいる。

そしてこれら整理された事実から導き出される今後の方針は、警察に銃撃犯の件を通報し、しばらく引きこもったほうがいい、だ。

夢でないとしたら俺は蘇生体質というこれまたチートな能力を得た事になるが、女神からはそんな話聞かされてない。

ゆえに確証は無く、何より無敵でも不死でもない単なる蘇生は復活する的に過ぎないのだ。

仮に事実だったとしても頼りない。

迂闊に出ていってもガンシューを楽しませてやる事になるだけ。

そんなものはどこぞのモブキャラにやらせておけばいい。

というわけで、通報通報…いやその前にエアコンだな。

つけっぱなしだというのにさっきから妙に暑い…全然汗が引かない。

夏の暑さもイカれ野郎並に危険だからな…とリモコンで設定温度を下げた時、箱ティッシュが発火した。

「えっ!?」

遮光カーテン、積みっぱなしの雑誌と、部屋の中の物が次々火を吹いていく。

燃え移ってるのではなく、各々が発火している。

たじろいでいる数秒で床も玄関も天井も全て火に包まれ、俺は完全に逃げ場を失っていた。

「なんだこれっ…!

助けてくれ!誰か助けて!」

助けを求めはしたが、本能はこれが断末魔になると悟っていたのだろう。

自分でも思いがけない大声が出た。

するとそれに応えるように、外からキキキキと猿の笑いが響いてきた。

「キーキキキキキキ!!

ざまあああああああ!!

燃えろ燃えろクソオス共!!

浄化されちまえええええ!!

キキッ!!

キキキキキキキキッ!!」

同じ階の隣室に住むお局ババアの声。

1km先にまで届きかねない呪いの絶叫は、酸欠でシャットダウンする脳内に反響し続けた。


「…はあうあっ!!…ああ…」

次に脳が立ち上がった時、俺は黒ずんだ瓦礫の山中に寝転がっていた。

死んでから蘇生までにそこそこ時間経過があるらしい。

周囲は数百mに渡り焼け野原と化していた。

何があったかは想像に難くない。

方法は謎だが、ババアが火を点けて回ったのだ。

黙っていてもしょうがないので歩きだすと、焼け野原の中に呆然とうずくまる人がたくさん居るのがわかる。

ほとんどは新品同然に無傷。

もしかしたら蘇生体質は俺だけではなかったのかもしれない。


愛想の悪い外人が働く近所のコンビニも焼け落ちていたので、少し遠出して家電屋へ。

とんでもない形で二度も出鼻をくじかれたが、まだ俺はワッショイを諦めていない。

むしろ最悪の近隣トラブルを体験した事でより検証に熱がこもるというものだ。

テキトーに取ったイヤホンを持ち、レジを探す。

配置の関係上、欲しくもないテレビコーナーを通る事になった。

なんとも幅広く豪勢なチーター向けスペースだ。

ふん…待ってろよ、ワッショイの威力を確認次第、一番デカいやつを意味もなく貰ってやるからな!

などと液晶に無意味なガン付けしていると、特別報道番組に見覚えある美女の顔が映っているのに気付いた。

〈先々日、突如として生まれたチート人。

今日はその生みの親である女神様がゲストにいらっしゃっています〉

〈はぁ〜い女神で〜す〉

「え!?女神!?」

「なぁ〜に〜?」

「うわあ!?」

女神が何の前触れもなく、それっぽい光も何もなく、重大なバグみたいにいきなり現れた。

横にも女神、モニター内にも女神。

「えっ!?

2人!?双子!?」

「個にして全よ〜」

「あ、録画か!」

「生放送よ〜」

「嘘つけ。

本当ならテレビのほうのスカートめくって見せろ」

「そんなはしたないマネはしません」

「あーじゃあウインク!

ウインクでいい!右目!」

要求した直後、アナウンサーとの会話と全く関係も脈絡もなく、画面の中の女神がウインクした。

「ど、どういうこと…?

なんで、なんで2人…?」

「ふたりっていうか〜、人じゃないんだけどぉ〜。

まああえて単位をつけるならわたし1柱で宇宙だから〜。

この宇宙の中ならどこにでもなんぼでも出られるのよ〜」

「そうじゃない…そうじゃないんだ。

そんな事を聞きたいんじゃないんだよ!

どうやってじゃない、どういう目的で他の奴らの所にも現れてる!?

いやその前にだ…テレビで特集組まれるくらいチートが周知されてるって事は、もしかしてうちのアパートの他の奴らにも…?」

「あげたよ〜」

「じゃあ、あのマシンガンと発火が能力!?」

「うん。

地球のみんなにそれぞれあげたよ〜」

「なんでそんな余計な事すんの!?

つーか他の奴にも配るなら最初にそう言えよ!!」

「えっ?

だってぇ、言わなくてもわかると思って…」

俺の怒りが伝わってないわけはない。

鏡を見るまでもなく眉間に深い谷が生まれているとわかるし、何デシベルか測るまでもなくモブキャラにあるまじき声量だとわかる。

しかし暖簾に腕押し女神にモブ。

童顔ムチムチエロ女はにこにこふわふわするばかりだった。

「なんでか〜は今テレビのほうで言うからぁ、ついでに聞いてね〜」

〈…さて単刀直入にお聞きします。

突然超能力…いわゆるチート能力を授けられたのはなぜでしょう?〉

〈みんな欲しがってたしぃ〜、神の間でも流行ってるしぃ〜、楽しそうだな〜って思ったからぁ、あげました♪〉

「慎め!!!!」

魂の叫びだった。

この神、挙動が軽すぎる。

どうする…もう独自通貨どころじゃない。

地球の全員が超人になったなら資本主義の崩壊は時間の問題だ。

純然たる事実として、もはや現金は最強足り得ぬのだから。

「おい君、さっきからうるさいぞ!

…ですよね女神様?」

「そうかもねぇ〜」

今後の生活をどうするか悩む俺にムキムキマッチョが注意してきた。

…だけでなく、不自然なまでに距離を詰めてくる。

出刃の切っ先を突きつけるようなニタニタ笑いで。

マッチョが連れている女神3号(仮)はそれをにこにこ嬉しそうに眺めている。

男の直感が告げていた。

こいつ何かヤバい!!

「それ以上近づくな。

俺のワッショイが火を吹くぜ」

ただ札束を渡して止めて下さいとお願いするだけの事をなるべく大げさに言って威嚇した。

知ってか知らずか、マッチョは意に介さず話を続ける。

「ひとつチャンスをやろう。

騒いだ事を素直に謝れば許してやる」

「大声出して申し訳ございません」

即座に謝った。

謝罪はモブの嗜みだ。

しかしマッチョは鷹揚に腕組みしてわけのわからぬ事を言い出した。

「そうかそうか君フフフ、

「! えっ!?」

何が起こったのかまるでわからない。

俺は一瞬の間も無くいきなり下半身を全開に露出していた。

ベルトが緩んだとかボタンが外れたとかのチャチな理由じゃあ断じてない。

そういった本来あるべき過程をすっ飛ばして外気に触れていた。

慌ててパンツとGパンを履き直す。

これはしっかりと過程を踏んだが1秒とかかってない…なのにマッチョと女神3号の姿は跡形もなくなっていた。

訝しむ間もなく、今度は尻穴から何かが漏れ出てくる。

…おいまさか…勘弁してくれ!!

便所の個室へ駆け込み尻を拭くと、茶色混じりの白濁液がペーパーを濡らした。


「女神ィィィイイイイイイ!!」

「な〜に〜?」

ふやけるくらい念入りにウォシュレットし、拭き終えた後も数時間塞ぎ込み、ついにはけ口を求めた俺の叫びにホイホイ応じる女神。

だんだんこのぽわわん顔に殺意が湧いてきた。

「なんで!!

なんでやめさせなかったァ!?

なんでェ!!」

「え〜と?

お尻エッチのことぉ?」

「やっぱ見えてたんだな!?」

「そりゃあ〜神だもの〜。

がんばれっがんばれっいっぱい射精せ〜って応援したわよ〜。

…あれぇ?

君はなんでわかったの?

ムキムキちゃんが時間止めてたのに…ああなるほど、そういうマンガを読んで連想したのね〜」

「他にもだ!!

マシンガンも放火も!!

なんで止めなかった!?

なんで好きにやらせた!?」

「え〜?

う〜んと、止める理由が無いから、かなぁ〜。

みんなやりたい事ができて幸せだよぉ〜?」

「俺は不幸なんだよ!!」

「じゃ〜あぁ、君はいいのぉ?」

「なに!?」

「他人に止めろって言うけどぉ、君は自分を止めようとしてないじゃない?」

「俺は…!

俺はいいんだ!」

「ずる〜い」

「道徳の問題だ!

やっていい事と悪い事があるだろ!」

「功績にも縁故にも基づかない財産手にしてぇ、現金無双で経済メチャクチャにして成り上がってぇ、ざま〜って偉ぶるのはやっていい事ぉ?」

「なぜそれを…口には出してないはず!」

「頭に思い浮かべた事くらいわかるよぉ。

神だもん」

「くっ…それがどうした!?

俺はいいんだよ!!

モブキャラなんだから!!

平凡で、平凡でも頑張ってきたんだから!!

少しくらい報われなきゃダメだろ!!」

「ううん、君は自分を平凡だなんて思ってない。

弁えてるカニカマはカニ鍋に入れろなんて言わないもの〜。

君は自分を特別扱いしてるから恵んでもらえるのは自分だけって思い込んでた。

自分を特別扱いしてるから他人が努力や才能で得るようなものを念じただけでもらえていいと思ってる。

自己評価が不当に高いから不当な高待遇を普通でふさわしいものとして求めてる。

君が現実を不公平だと感じるのはぁ、君が不公平だからなの〜」

「うるせえ!!説教すんな!!」

「あらあらうふふ♪

責任転嫁のためにわざと間違えて、間違えたままズルしようとして、そのカラクリを暴かれたら暴いたほうが悪い〜だなんて、とっても傲慢さんなのねぇ〜。

いけない子だわぁ〜♡

誰に似たんだろ〜。

あ、わたしかぁ。えへへ♡」

かわい〜く己の頭をコツンする女神。

このクソアマ…!!

犯したろか!!

イス代わりの便器のフタから衝動的に立ち上がると、その勢いとは明白に異なる不自然な浮遊感とともに体がフッと浮きあがり、俺は光に包まれた。


「うわぁっ!?……ああ……?」

次に気付くと、またアパートの瓦礫の中。

何が起きたのかはわからない。

ただ、死んだ事だけはおぼろげに理解していた。

記憶が定かでないのとは違う。

はっきりしっかり覚えているが、一瞬すぎ、また大掛かりすぎてなんなのか判別できないのだ。

わかるのは、足元から異常なまでの力が迫ってくる感覚と、それに飲み込まれる瞬間の恐怖だけ…。

何だったのか記憶を反芻して確認したいが、思い出そうとしても冷や汗が先に出るくらい恐ろしかった。

「あっ」

またあの浮遊感がきた…とわかった瞬間、俺は光に包まれた。


瓦礫の中に蘇り、1分以内に発生する浮遊感で光へ溶ける。

これを8回は繰り返したろうか。

いま俺は自分を抱き締めていた。

他人事のような言い草なのは無意識だったからだ。

夏の朝なのにガタガタ震えて縮こまってる。

無意識に。

怖い。

息を吐いた次の瞬間にはまた浮遊感が来るもしれないと思うと、それで時が止まるわけもないのに呼吸を止めてしまう。

息止めが奏功したわけではないだろうが、今回は初の1分超えだった。

「……め、女神……」

「は〜い」

かすかな余裕を頼りにやっと女神を呼べた。

「こ、これ…なに?

さっきから何回も死んでるみたいなんだけど…」

「なんでも爆破できるチートの子がねぇ〜地球を爆破してるのよ〜」

もうバカバカしくてなんで止めないのかと責める気にはなれない。

代わりに別の疑問をぶつけた。

「なんで…元通りになるの?」

「わたしが直してるからだよ〜」

「なんで直すの…?」

「最近〜神のノルマが厳しくなってぇ〜、知性体の数を揃えなきゃいけなくなったのねぇ。

だから〜死なれっぱなしは困るの〜」

「人をなんだと思ってるんだ!!」

「仕事道具?」

「人でなし!!」

「神だも〜ん」

女神はこんな時でもにこふわだった。

「お前神って嘘だろ…悪魔だろ」

「うふふっ、君も宗教の楽しさがわかっちゃった?」

「どういう意味だ?」

「今ねぇ〜オリバーとユーセフとルイーズと…他にもたくさんねぇ、色んな子たちがすっごく楽しんでるのぉ〜。

消え去れこの悪魔め〜だってぇ。

わたしに殴りかかったり銃で撃ったりも〜大はしゃぎ。

ふふっ、みんなごっこ遊びが大好きなのね〜。

んもう、しょうがない子たちなんだから♡」

にこにこふわふわあまあまとろとろ。

表情にも口調にも嫌味なところがひとかけらも無い。

本気で言っているようだった。

本気で、愛情と呼べそうな暖かみで、現状を受け容れているようだった。

割り切らねばならない。

こいつを物のルールである物理でねじ伏せる事は不可能だし、人のルールである倫理で説き伏せる事もできないし、だからこそ説得以外に解決法は無いと。

「なあ…せめて、せめて楽に終わらせてくれないか?

こんなメチャクチャな世界で無限に蘇るなんてやってられんよ。

この星を地獄と名付けられたくないならもう次で死なせてくれ…」

「う〜ん大翔ひろとと同じ事言うのね〜」

「大翔って?」

「地球爆破してる子よ〜。

頼むから全部消させて〜って泣いちゃってるわ〜」

「…そのチートをくれてやったのはお前だろ。

好きにさせてやらないのか?」

「やっていい事と悪い事がある、でしょ?

知性体の居住地消しちゃうのはおイタが過ぎるわ〜」

「じゃあ…じゃあ、チートも無くしてくれ!

蘇生でカバーしなきゃならなくなってるのはチートのせいだろ!?

地球消すようなメチャクチャされて困るならできないようにしてくれ!」

「う〜ん、メチャクチャしないように気をつけようって思ってほしいんだけどなぁ〜」

「できねえんだよ!全員には!

俺みたいなモブ未満のクズにはできねえんだよ!

できない奴にできない事をさせないでくれ!

チートも蘇生も無い世界に…チートを自制しなくてもいい世界に戻してくれ!」

「わぁ〜、サカヨフフチカヌョリパメの言葉と一言一句同じだぁ〜シンクロニシティ〜」

「…なんだって?」

「ここから5000億光年先の星の魚類知性体の子の話よ〜」

「…宇宙ってもうちょい小さくなかったっけ」

「君たちが今の技術で分析できる範囲はそうだねぇ〜」

「と、とにかく、俺以外にも元に戻してもらいたがってる奴らが居るって事だな!?」

「今が最高だって言ってる子も多いよ〜?

このアパートの住人とか〜」

「多数決!

多数決とって!

多いか少ないかじゃなくて何が重要で何がより多いのかで決めて!」

「う〜ん、はい。

集計出ました〜。

1043阿僧祗対881恒河沙で戻せ派の勝利で〜す♪

…ホントのホントに戻していいのぉ?」

「いいから!!

こんな世界じゃ増えてる暇ねえから!

ちせだかちよだかチヨノオーだか知らんけど、本気で増やしたいなら流行り廃りで遊ぶな!!

邪魔だ!!」

「ちゃんと増えるぅ?」

「善処します!!」

「しょうがないなぁ〜…わかりましたぁ」

女神が了承すると、今度は大事おおごとだからなのか、ようやくそれっぽく光ってくれた。

光はあっという間に世界の全てを包み込んだが、その全てを暖かみと感じる事ができた。

「あ、君は分相応に報われてるからぁ〜身の程を弁えて生きてみてね〜」

おっとりの〜んびりギチギチにキツい説教を残し女神は消えていき、やがて俺の意識も失われた。


次の目覚めは穏やかに無言で訪れた。

焦げてない安アパート。

布団の中。

部屋着のパジャマ。

夏の朝。

日付け。

全て女神出現前のものだ。

「女神」

呼んでも誰も来ない。

おっとり間延びした独身貴族の空気を凶悪な神乳が突き破ったりしない。

「ふんんん!」

いくら手の平を見つめながら念じても我が暮らしは楽にならない。

だが夢を見ていたとは思わなかった。

夢なわけはない。

もし夢なら隣と床下から女神を呪う絶叫が貫通してくる事と矛盾するではないか。

「力を持っちゃいけない奴らをどん底に集めて、無力なまま封印しといてくれる。

それも全自動で。

はは…まるでチートだ」

失って初めてわかる事もあるものだ。

現実は意外とよく出来ていて有り難いものだった。

やたら落ちやすい上にどん底から出ちゃダメな奴が這い出る事もある完璧とは程遠い出来栄えだが…まあそのおかげで弁えた朝も爽やかだ。

努力で地上を目指す気になれる。

俺は職安へ行くため部屋着を脱ぎ捨てた。


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